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アニメ『のんのんびより』コラム:「にゃんぱすー宣言」文:高瀬司(1)
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「にゃんぱすー」
「[…]わけわからん。何なのそれ」
『のんのんびより』の原作マンガ第1話は、蛍視点のモノローグによるキャラクター紹介や設定紹介から開始される。
しかしそれがアニメ版で描かれるのは、第2話の冒頭になってからのことだ。対してアニメ版の開幕であるれんげの登校シーンは、原作でいえば第2話の冒頭に当たる。リコーダーを吹きながらの登校中、夏海に声をかけられ「にゃんぱすー」と挨拶を返すれんげ。
つまり2013年のアニメ流行語大賞金賞(1位)に選ばれるほどインプレッシブに人々の心を掴んだ「にゃんぱすー」はあくまで、原作を再構成したことによってはじめて、第1話冒頭という作品を象徴する位置に存在するようになった言葉なのだ。現にその登場回数は、アニメ放映時における最新巻である原作コミックス第6巻までに収録された1話〜47話の中で、たったの5回(強いて加えても、れんげがはじめて「にゃんぱすー」と言った後に説明として付け足した「にゃん、ぱすぅ」と、夏海がそれへの返事として口にした「にゃんぱすっ」を含めた7回)にしか満たない。
マンガんぱすー登場シーン
第2話:リコーダー片手に夏海へ挨拶(とその説明「にゃん、ぱすぅ」)
第2話:バス停での小鞠・蛍への挨拶
第15話:蛍の家へ遊びにきたとき蛍の母親への挨拶
第21話:蛍とスケッチへ向かう途中で出会った小鞠への敬礼(にゃんぱすんっ!!)
第46話:デパートの福引のお姉さんへの挨拶(にゃんぱすぱすーん)
しかし実際のところ、それはアニメ版でも同様である。アニメ流行語大賞が発表された12月2日の時点では、アニメオリジナルに盛られた「にゃんぱすー」は、第1話で転校してきたばかりの蛍へ向けて投げかけたもののみで、原作同様、れんげの口からはたかだか5(ないし6)にゃんぱすーしか響いていない。最終話まで換算したところで、山で蛍に対して放った1回とそれに対する蛍の返事が、オリジナルで付け加わったのみである。
アニメんぱすー登場シーン
第1話:リコーダー片手に夏海へ挨拶(とその説明「にゃん、ぱすー」)
第1話:転校してきた蛍への挨拶
第1話:バス停にいる蛍への挨拶
第6話:蛍の家へ遊びにきたとき蛍の母親への挨拶
第8話:蛍とスケッチへ向かう途中で出会った小鞠への敬礼(にゃんぱすんっ!!)
第12話:山での蛍への挨拶
不用意に連呼させることはせず、あくまで独特な感性を持ったれんげが繰り出す愛らしい言動の一つとして作品世界に息づかせるだけ。にもかかわらず、なぜこの言葉がアニメ流行語大賞金賞に輝くほど視聴者へ特別なインパクトを与えたのか。
もちろん、本編で流れてはいなくとも、視聴者がそれを耳にする機会自体は少なくなかっただろう。
よく知られるように、アニメ『巨人の星』の本編で主人公・星飛雄馬の父親・一徹がちゃぶ台をひっくり返したのは、第32話「悪魔のギブス」でのただ一度きりのことであった。にもかかわらず、そのカットがED映像として組み込まれていたことによって、視聴者には一徹=ちゃぶ台返しというイメージが過剰に刷り込まれていったという。
『のんのんびより』の「にゃんぱすー」においても同様の事態が認められる。本編の間に差し挟まれる、原作が連載中の『月刊コミックアライブ』(KADOKAWA)等のCMにおいて、れんげが毎話必ず「にゃんぱすー」と連呼していたからだ。われわれが『のんのんびより』を視聴するとき、経験レベルでは毎週毎週繰り返し、れんげの「にゃんぱすー」を耳にする。
CMは制作サイドの管理下にはない。しかし、それに対して本作のコンセプトとして重んじられるのは、CMのタイミングまで含めてトータルコーディネイトされた時間感覚である【川面監督インタビュー記事の街頭箇所へリンク。以下同様】。ここではCMの挿入回数も話数によって可変的に操作され、それを導くアイキャッチの挿入タイミングや、さらには次回予告・エンドカードまでもが物語の構造と有機的に結び付いてゆく。本編だけにとどまらない、総体として演出される『のんのんびより』という体験――であるとすれば、視聴者への「にゃんぱすー」の刷り込みの成功は、結果的にこのコンセプトの成就を物語るものでもあるだろう。
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