下のグラフはトランスパランシー・インターナショナルが公表している腐敗認知指数(Corruption Perceptions Index)と呼ばれるものです。

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全部で177カ国の腐敗の度合を示しており、指数が高いほど腐敗が少ないです。世界で最も腐敗の少ない国はデンマークで、指数は91です。そのほかドイツが第12位で指数は78、日本は第18位で指数は74などとなっています。

注目されるのはウクライナで、第144位と世界の最下位に近く位置しています。

アルバータ大学付属ウクライナ研究所のタラス・クズィオによると、ソ連崩壊後、ウクライナでは腐敗がどんどん広がり、これまでに7兆円ものお金が政治家により掠め取られ、キプロスやリヒテンシュタインなどのタックスヘイヴンに持ち出されたそうです。

ウクライナはロシアから欧州への天然ガス・パイプラインの通過国で、これが政治家の不正蓄財の道具になっています。歴史的に旧ソ連は衛星国に安い石油や天然ガスを供給することでモスクワへの求心力を維持してきました。

この慣習がソ連崩壊後も続いており、ウクライナはドイツをはじめとする欧州各国が払っているより安い値段で天然ガスの供給を受けています。


問題はウクライナで抜き取られる天然ガスも、最終仕向け地へ送られる天然ガスも皆、トコロテン式に同じパイプラインで送られる点です。本来、「これはウクライナの分、これはドイツの分」という風に分け隔て出来ないものを、チャンポンにして送っているので、市場実勢価格より安い値段での供給は、ごまかしの温床になるわけです。

このような状況を見てアメリカの外交文書では「ウクライナはマフィア帝国だ」という表現すら使われています。

ウクライナ西部は民族的、言語的に欧州に近く、東部はロシアに近いです。産業やエネルギー資源は東部に集中しています。ウクライナ西部の庶民が欧州連合に加わりたいと願っていても、お財布を握っているのは東部の親ロシア勢力というわけです。

国際通貨基金(IMF)や欧州連合(EU)が、支援を拡大するにあたって「乱れた財政規律を改めるように」と厳しい態度を取ったところで、政治的に二つに割れている国にそれを実行しろというのはムリな話なのです。ヤヌコビッチ前大統領がEUとの連合協定締結を見送ったのは、うるさい注文をつけてくる欧州より自分の蓄財にも欠かせないロシアとの関係を強化するために他なりません。

ウクライナ庶民は「これでロシアとの癒着が継続することは確実だ」と悟り、街頭デモ行進を行ったわけです。

ウクライナの庶民が、刑務所から釈放されたティモシェンコ氏の演説に対しても冷淡だったのは、歴代のウクライナの政治家は皆、同じ穴のムジナだからです。

ロシアはウクライナに対し150億ユーロの支援を約束しており、既に30億ユーロを拠出していますがウクライナ情勢混乱後は残りの支援を中断しています。

IMFとEUはギリシャ危機以降、PIIGS諸国に厳しい財政規律を要求してきた経緯から、ウクライナに対して「なりふりかまわず」支援することには躊躇しています。

これらのことからウクライナがこのまま年末までに来る170億ドルの債務返済ができずデフォルトしてしまうリスクは非常に高いのです。

なお冒頭のグラフに戻ると、ベネズエラやトルコなど最近デモ行進が起こった国々も腐敗が酷いことがわかります。つまりこれらの国々で相次いで庶民の不満が爆発しているのは、決して偶然ではないのです。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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