ビキニ水爆実験:隠された被ばく証明へ 高知の元高校教諭

毎日新聞 2014年02月28日 23時18分(最終更新 02月28日 23時30分)

ビキニ水爆実験の実態解明に取り組む山下正寿さん=高知県宿毛市山奈町芳奈で2014年2月26日午後3時42分、最上和喜撮影
ビキニ水爆実験の実態解明に取り組む山下正寿さん=高知県宿毛市山奈町芳奈で2014年2月26日午後3時42分、最上和喜撮影
ビキニ水爆実験で被ばくした可能性のある漁船乗組員らからの血液採取の様子=高知県室戸市で2013年11月15日午前10時4分、最上和喜撮影
ビキニ水爆実験で被ばくした可能性のある漁船乗組員らからの血液採取の様子=高知県室戸市で2013年11月15日午前10時4分、最上和喜撮影

 1954年3月1日に米国が太平洋のビキニ環礁で行った水爆実験で、静岡のマグロ漁船「第五福竜丸」が放射性降下物「死の灰」をかぶったビキニ事件は発生から60年になる。事件では他にも多くの遠洋漁船が被ばくした可能性が指摘されている。この問題を約30年調査している太平洋核実験被災支援センター事務局長の山下正寿さん(69)は、広島大の星正治名誉教授らと元船員の血液検査などから被ばくを証明する試みを進めている。

 高知県西部の港町・宿毛市片島出身の山下さんは、地元で高校教諭となり、83年に「足元から平和と青春を見つめよう」と学習サークル「幡多(はた)高校生ゼミナール」を結成した。

 85年、ゼミで地域の被爆者を調査した際、長崎とビキニで二重被ばくして29歳で自殺した青年の母から「被ばくさえなければ息子は死ななかった」との訴えを聞いた。

 「第五福竜丸以外にも被ばくしていた船が、高知にあったなんて……。幸せな生涯を送ることができた人たちが原因もはっきりせず死んでいく。こんな理不尽は許されない」

 ビキニ事件は55年1月、日本政府が慰謝料200万ドルを米国から受け取り、強引な幕引きがなされていた。ゼミでは「ビキニの被害は第五福竜丸に矮小(わいしょう)化されている」と、東京から静岡、沖縄、韓国まで追跡し、延べ1000隻以上の漁船が被ばくした可能性があり、元船員らががんなど放射線障害に多い症状で苦しんでいたことを突き止めた。

 だが、被ばくを立証するため事件の真相究明を求めた第五福竜丸以外の元船員に、国は「問題は解決済み」と門戸を閉ざした。

 山下さんは放射線研究の第一人者、星名誉教授に協力を依頼。昨秋から第五福竜丸以外の漁船の70〜80代の船員ら約20人の健康調査に取り組んでいる。血液中のリンパ球の染色体異常や放射線による歯のエナメル質の損傷を調べて被ばく量を推定するもので、被ばくを科学的に明らかにするのが狙いだ。元船員も多くが亡くなった。

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