2014-02-28
新海誠監督から見る風景 『クロスロード』
先日公開された新海誠監督による短編アニメーション 『クロスロード』。Z会のCMのために制作されたこの映像ですが、そこに込められた祈りのような想いは一貫して新海監督の根底に根付いたものを繊細に切り取ったフィルムであったように思えます。
(Z会 公式チャンネルより)
特に120秒verにおいてはその冒頭に、そして15秒、30秒verにおいても同様にその主題として置かれた 「遠くにいきたい」 という熱の篭る言葉。『ほしのこえ』 から辿れば全ての作品において描かれていたであろう “遠くを見据える” ことへの美学、そして “その夢に向かい手を伸ばす” ことの尊さを僅か2分弱で描き出してみせた 『クロスロード』 は言うなれば監督自身の祈り、願い、夢そのものの象徴でもあったのではないでしょうか。
それも今までは “叶うことはないだろう” と思わせた物語の数々(それは例えば、『ほしのこえ』 における恋人との再会であったり、『星を追うこども』 における父との再会であったり)からして、遂には手紙が届く 『言の葉の庭』 を経て切り拓かれた新海監督の新境地。過去を土台として物語を構築するのではなく、これからのために土台を積み上げていくような、そんな未来への期待と鼓動の高鳴り。交差から始まる物語ではなく、きっとおそらく、それは交差するための物語なのだろうということ。
それも 『秒速5センチメートル』 や 『言の葉の庭』 といった多くの作品において描かれた飛翔のモチーフでもある鳥がファーストカットを埋め尽くせば、物語の先(未来)へと進んでいくかのような電車のカットがやはり幾度となく描かれるのも氏の作品だなぁと感じられる画面の美しさ。
何より 「わざわざ東京の大学になんて行かなくったって」と諭す母親の言葉に「けれど―」 と暗黙として反語を返してみせるように徹底して描かれたこの映像からは、それこそ若者の背を力強く押すような明るい未来への展望を感じられます。
また夏から冬へ、そしてZ会の通信教育や講習を経て “遠くに在る筈の何処か” に向かう二人が交差する瞬間に桜を咲かすこの映像のスタンスは、私が新海誠監督の作品に心酔してしまう理由として提示したい程の眩さをしっかりと放ってくれていたように思います。
情報量の多い映像、遠くを見据える視線、擦れ違う二人、物語の節目に描かれる季節感。それこそ大きく括ってしまえば大成建設のCMから、更に振り返れば 『はるのあしおと』 のデモムービーまで遡れるであろう、その美しき風景はまさに新海監督の代名詞と言ってももはや過言ではないのでしょう。
(minori works 公式チャンネルより)
また新海誠監督作品から “都会に心を寄せる島育ちの少女” とくれば、やはり思い出されるのは他でもなく 『秒速5センチメートル』 第二章 『コスモナウト』 のヒロインとして登場する澄田花苗その人であったりして、それも想いを馳せるその対象は違えど、この 『クロスロード』 のヒロインである海帆もきっと夢を追い続ける真っ直ぐで幼気な少女像。
監督の視界に彼女はどのようにして映り込んでいるのか、などと考えると、きっとそれは世界から祝福されて然るべき純粋な少女性そのものなのでしょうと物想いに惚けてしまうのは、やはりこの映像に新海誠監督 “らしさ” が十二分過ぎる程に沁み込んでいるからなのだと思います。
たった数分の映像ではありますが、そこに込められた氏の想いと必然として浮き出てしまう映像の妙味、物語の在り方。受験生に向けてというメッセージ性とZ会のコマーシャルとしての意味合いを果たした上で、尚、『新海誠』 というレーベルの素晴らしさをきっちりと描いてくれた今回の作品には惜しみない拍手を送りたいと思います。
また田中将賀さん、やなぎなぎさんとの新たなタッグにより、より一層キャッチ―な画面になっていたのは私としてもかなり新しい驚きで、これから氏が手掛けてくれるであろう作品にも、益々大きな期待を寄せたいと強く心に刻み込めた映像でもありました。素敵な作品に心から、本当にありがとうございました。
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