不可視化されていたデザインのミッシングリンクを炙り出す『エロのデザインの現場』
posted by Book News 編集:ナガタ / Category: 新刊情報 / Tags: 歴史, 美術・芸術,
今回ご紹介するのは『エロの「デザインの現場」
1980年代末から、実はエロ本のデザインは急激に先鋭化しており、「エロティックなものを売る」という目的からすると素人目にはよくわからないレベルに到達していました。本書はその「よくわからないレベル」に突き進んでいった時代を先導し、担い、またそのレベルが終焉していく状況を生きたデザイナーたちに対するインタビュー集です。マニアック過ぎると思われるかも知れませんが、エロティックなものについての表現史の一部であるという点で非常に重要な1冊だと思います。
また、このテーマについては、デザインや出版の歴史に詳しい「ばるぼら」さんによるこの連載も非常に重要。両書を読み比べることで今まで不可視にされてきた世界が開けてくるようで刺激的です。
ポルノグラフィック・デザイン・イン・ジャパン - WEBスナイパー
http://sniper.jp/008sniper/008416pornographic_design/
※1991年の「URECCO」。『エロのデザインの現場』には紹介されている雑誌の多くの図版が掲載されており、資料とのしての価値もおそらく高い。
『エロのデザインの現場』は洗練されたデザインで業界に衝撃を与え、無数の模倣を生んだといいます。三代目編集長になった中川滉一氏が惚れ込んだのが、「URECCO」のアートディレクションをつとめた「アルゴノオト」こと古賀智顕氏。本書には古賀氏の物凄い自宅写真も掲載されています。それはさておき、「高校時代から雑誌『遊』に感化され、大学で杉浦康平の講義に深く影響を受け」という背景を持ち、その後は『夜想』で知られる出版社「ペヨトル工房」に入社しそこでミルキィ・イソベ氏に実務としてのデザインを仕込まれたといいます。彼がインダストリアル・ミュージックのレコードジャケットから凄く影響を受けているというのは非常に興味深いです。
※エロ漫画の装幀も手掛けているこじままさき氏。
「URECCO」の古賀氏に見出されたのが、羽良多平吉による「ガロ」の背表紙が原体験だと語る「こじままさき」氏。コーネリアスや石野卓球も愛読していたという伝説的なミニコミ「BD」の編集長であり、こうの史代『夕凪の街 桜の国
三人目に紹介されるのは、野田大和氏。美学校出身で赤瀬川原平の講義をとっていたという異色の経歴、「SMスピリッツ」という伝説的な雑誌のデザイナーです(本書には「SMスピリッツ」のめちゃめちゃハイセンスな書影が本書に紹介されているのですが、残念ながらネットではみつけられませんでした)。上掲の右側の「ChuッSPECIAL」は表紙は後述のエチカデザインの仕事ですが、本文のメインデザイナーは野田氏が手掛けているとのこと。
そのエチカデザインの屋号を名乗っているのは小西秀司氏。彼は上掲のこじままさきをデザイナーに起用したこともある「夜遊び隊」などの風俗情報誌の編集長でもあった人物。ちなみに「chuッSPECIAL」の上掲の号は、「全盛期のURECCOばりにテキスト要素を減らしたのに非常に売れた」とのこと。
このように、本書に登場する人々はその仕事を通じてつながっていることがわかります。他にも登場するデザイナーたちのあいだにも相互に名前が出てくる人々がいて、本書を読むことで浮かび上がってくる時代の風景があるように感じました。