「おいおい、まってくれよ社長。なんでオレ様がこんな奴らと組まねぇといけないんだよ。オレはソロがいいって最初に言ってあったじゃねえか」
「……僕も、嫌です。前々から誰かと組んでの仕事はしたくない、と言っていたはずです」
社長の言葉に、すぐさま反発したのはアトムくんとルイくんのふたりだった。
「……グループ、ねえ」
「…………」
エルくんとアールくんのふたりは、アトムくんとルイくんのように即反発というほどこのアイディアに対して拒否感はないようだ。
「オレは誰かと組むなんて絶対に嫌だ!…今までだってずっと他の奴の事リムてきたってのに」
「僕も嫌です。僕が彼らと組むことの意義を簡潔に説明して貰えますか」
「俺は面白いと思うけどなぁ」
「ぼ、僕なんてエルのサブキャラみたいなものなのに、いる意味あるのかな」
「あー……、サブキャラっていうのはネトゲなんかで使うメインキャラ以外のキャラのことね。ごめんね、アールってそういう例え話ばっかするんだよ」
アールくんのちょっとわかりにくい比喩表現を、エルくんがさらりと解説してくれる。だがそれよりも意外だったのは、そんなエルくんがグループを組むことに賛成していることだ。
「アトムとルイの気持ちはこれまでに聞いてわかっているつもりよ」
「じゃあ!」
「ただ今回のこれはもう決定事項よ。あなた達がなんといっても、翻すつもりはないわ」
「……っ!」
「……そんな」
「社長がそこまで言い切るなんて、珍しいね」
「……うん」
(……本当に)
社長はこれまで、所属タレントたちに何かを強制するようなことは私の知る限り、ほとんどしたことがない。タレントたちの長所を伸ばし、彼らが望む方向で活躍出来るようにいつだって調整してきていたのだ。
(その社長が、こんな風に無理やりグループを作ろうとするなんて)
「もしも私の言うことに従えないというのなら……。この先は言わなくてもわかるわね?」
これまでにない強い口調の社長に、皆、言葉を失ってしまう。
「俺はいいと思うよ。社長がそれだけ言うってことは、何か考えがあるってことでしょ?」
「……それなら、その理由を聞かせてください。いきなりよく知らない相手とグループを組めなんて言われても、納得しかねます」
「ホントだよ、てかなんでいきなりグループなんだよ!オレはずっとソロで売り込んできてるんだぜ?今更アイドルユニット組めなんて言われてもよ」
「…………」
やはり、エルくんは社長のアイディアに賛成らしい。他ふたりも、まだ納得はいっていないようだが、それでも話を聞こうという態度は見える。
(アールくんは……、嫌、というよりも自信がないだけ、って感じなのかな?)
ちらりと見ると、アールくんはエルくんの隣ですっかりうつむいてしまっている。
「私は……」
社長が、口を開く。4人をしっかりと見るその視線は、事務所の代表として商品を見定めるそれだ。
「あなたたち4人の才能を買っているわ。だから、あなたが望むようにこれまでソロの活動をさせてきた」
「それならこれからも……ッ!」
「でも、結果が出てないの。……それは自分でもわかってるでしょう?」
「……ッ!」
そう言われると、アトムくんは自分で自分の置かれている状況をしっかり把握しているのか、悔しそうにしながらも黙り込んだ。
自分の才能を信じ、懸命に努力しているが報われていない、という自覚はあったようだ。
「それは、ルイも同じ。歌唱力、ダンス、ルックス、どれもあなたはアイドルにふさわしいクオリティを持っている。けれど……、それでもまだ輝けていない」
「…………」
何でも卒なくこなし、問題点などないように見える彼なのに……。不思議と、アイドルとして熱狂的なファンがつく、というようなことがないのだ。何をやっても、ほどほどにうけて、そこで終わってしまう。
「エルとアールについては特に反対意見がないようだから何も言わないでおくけど」
「え? 俺、社長の評価ちょっと聞いてみたかったんだけどな」
「…………」
社長からの評価を聞きたがるエルくんとは対照的に、アールくんは明らかに聞きたくなさそうだ。自分の評価がそれほど高くない、ということを確信しているのだろう。
「……つまり、よ。これって売れなさそうな駄目アイドルを一緒くたにして十把一絡げで売ってしまおうってことなのかよ?」
「それは違うわ」
アトムの、どこか傷つき、憤慨しているような口調に、社長はあたらめて顔をあげて私たちを見渡した。
「私はこれまで、あなた達の個性をそれぞれ伸ばすことで、その先の輝かしい成功があると思っていたの。でも……、もしかしたら違うのかもしれない」
「それは、僕達が成功しないということですか?」
「違うわ、ルイ。あなた達は、ひとりで輝くんじゃなく……、誰かと一緒になることでより輝きを増す原石なのかもしれない」
「誰かと一緒に……?」
「ええ」
「あなた達は、確かに光るものをもった原石だわ。でも……、私たちはその磨きかたをこれまで間違えていたのかもしれない」
「そんなこと……ッ」
ない、と言いかけたアトムが途中で言葉をつぐんで拳を握り固める。現状に納得していないのは、彼も同じなのだ。
「私はね、アトム。あなた達が一緒に活動することで、もしかしたら……、過去の…スターメイトのようなグループになれるんじゃないかって期待しているの」
「スターメイト……?」
「片岡さん、あなたは知っている?」
「あ、はい。確か……、もう何年も前に一世を風靡したトップアイドルグループですよね。日本の音楽業界に革命を起こした、とまで言われてる」
「ええ、そうよ。よく勉強しているわね」
「あ、ありがとうございます」
伝説のアイドルグループ、スターメイト。私が芸能界に興味を持った時には、もうすでに引退してしまっていたけれど……。今でも数多くの伝説が残るアイドルグループだ。
(確かその中でも一番有名なのは……)
「スターメイトのライブでは、いつだって流星が降り注ぐ」
「……は?」
「流星が……、降り注ぐ?」
「ええ、そうよ。スターメイトが歌えば、空に輝く星々ですらその音楽に魅了され、引き寄せられてしまうから…とも言われているわ」
「ンなの信じられるかよ」
馬鹿にしたように、アトムくんが笑う。が、他の3人は比較的真面目に社長の話に聞き入っているようだった。
「……僕も、嫌です。前々から誰かと組んでの仕事はしたくない、と言っていたはずです」
社長の言葉に、すぐさま反発したのはアトムくんとルイくんのふたりだった。
「……グループ、ねえ」
「…………」
エルくんとアールくんのふたりは、アトムくんとルイくんのように即反発というほどこのアイディアに対して拒否感はないようだ。
「オレは誰かと組むなんて絶対に嫌だ!…今までだってずっと他の奴の事リムてきたってのに」
「僕も嫌です。僕が彼らと組むことの意義を簡潔に説明して貰えますか」
「俺は面白いと思うけどなぁ」
「ぼ、僕なんてエルのサブキャラみたいなものなのに、いる意味あるのかな」
「あー……、サブキャラっていうのはネトゲなんかで使うメインキャラ以外のキャラのことね。ごめんね、アールってそういう例え話ばっかするんだよ」
アールくんのちょっとわかりにくい比喩表現を、エルくんがさらりと解説してくれる。だがそれよりも意外だったのは、そんなエルくんがグループを組むことに賛成していることだ。
「アトムとルイの気持ちはこれまでに聞いてわかっているつもりよ」
「じゃあ!」
「ただ今回のこれはもう決定事項よ。あなた達がなんといっても、翻すつもりはないわ」
「……っ!」
「……そんな」
「社長がそこまで言い切るなんて、珍しいね」
「……うん」
(……本当に)
社長はこれまで、所属タレントたちに何かを強制するようなことは私の知る限り、ほとんどしたことがない。タレントたちの長所を伸ばし、彼らが望む方向で活躍出来るようにいつだって調整してきていたのだ。
(その社長が、こんな風に無理やりグループを作ろうとするなんて)
「もしも私の言うことに従えないというのなら……。この先は言わなくてもわかるわね?」
これまでにない強い口調の社長に、皆、言葉を失ってしまう。
「俺はいいと思うよ。社長がそれだけ言うってことは、何か考えがあるってことでしょ?」
「……それなら、その理由を聞かせてください。いきなりよく知らない相手とグループを組めなんて言われても、納得しかねます」
「ホントだよ、てかなんでいきなりグループなんだよ!オレはずっとソロで売り込んできてるんだぜ?今更アイドルユニット組めなんて言われてもよ」
「…………」
やはり、エルくんは社長のアイディアに賛成らしい。他ふたりも、まだ納得はいっていないようだが、それでも話を聞こうという態度は見える。
(アールくんは……、嫌、というよりも自信がないだけ、って感じなのかな?)
ちらりと見ると、アールくんはエルくんの隣ですっかりうつむいてしまっている。
「私は……」
社長が、口を開く。4人をしっかりと見るその視線は、事務所の代表として商品を見定めるそれだ。
「あなたたち4人の才能を買っているわ。だから、あなたが望むようにこれまでソロの活動をさせてきた」
「それならこれからも……ッ!」
「でも、結果が出てないの。……それは自分でもわかってるでしょう?」
「……ッ!」
そう言われると、アトムくんは自分で自分の置かれている状況をしっかり把握しているのか、悔しそうにしながらも黙り込んだ。
自分の才能を信じ、懸命に努力しているが報われていない、という自覚はあったようだ。
「それは、ルイも同じ。歌唱力、ダンス、ルックス、どれもあなたはアイドルにふさわしいクオリティを持っている。けれど……、それでもまだ輝けていない」
「…………」
何でも卒なくこなし、問題点などないように見える彼なのに……。不思議と、アイドルとして熱狂的なファンがつく、というようなことがないのだ。何をやっても、ほどほどにうけて、そこで終わってしまう。
「エルとアールについては特に反対意見がないようだから何も言わないでおくけど」
「え? 俺、社長の評価ちょっと聞いてみたかったんだけどな」
「…………」
社長からの評価を聞きたがるエルくんとは対照的に、アールくんは明らかに聞きたくなさそうだ。自分の評価がそれほど高くない、ということを確信しているのだろう。
「……つまり、よ。これって売れなさそうな駄目アイドルを一緒くたにして十把一絡げで売ってしまおうってことなのかよ?」
「それは違うわ」
アトムの、どこか傷つき、憤慨しているような口調に、社長はあたらめて顔をあげて私たちを見渡した。
「私はこれまで、あなた達の個性をそれぞれ伸ばすことで、その先の輝かしい成功があると思っていたの。でも……、もしかしたら違うのかもしれない」
「それは、僕達が成功しないということですか?」
「違うわ、ルイ。あなた達は、ひとりで輝くんじゃなく……、誰かと一緒になることでより輝きを増す原石なのかもしれない」
「誰かと一緒に……?」
「ええ」
「あなた達は、確かに光るものをもった原石だわ。でも……、私たちはその磨きかたをこれまで間違えていたのかもしれない」
「そんなこと……ッ」
ない、と言いかけたアトムが途中で言葉をつぐんで拳を握り固める。現状に納得していないのは、彼も同じなのだ。
「私はね、アトム。あなた達が一緒に活動することで、もしかしたら……、過去の…スターメイトのようなグループになれるんじゃないかって期待しているの」
「スターメイト……?」
「片岡さん、あなたは知っている?」
「あ、はい。確か……、もう何年も前に一世を風靡したトップアイドルグループですよね。日本の音楽業界に革命を起こした、とまで言われてる」
「ええ、そうよ。よく勉強しているわね」
「あ、ありがとうございます」
伝説のアイドルグループ、スターメイト。私が芸能界に興味を持った時には、もうすでに引退してしまっていたけれど……。今でも数多くの伝説が残るアイドルグループだ。
(確かその中でも一番有名なのは……)
「スターメイトのライブでは、いつだって流星が降り注ぐ」
「……は?」
「流星が……、降り注ぐ?」
「ええ、そうよ。スターメイトが歌えば、空に輝く星々ですらその音楽に魅了され、引き寄せられてしまうから…とも言われているわ」
「ンなの信じられるかよ」
馬鹿にしたように、アトムくんが笑う。が、他の3人は比較的真面目に社長の話に聞き入っているようだった。
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