だが、平井社長も、かつてのソニーの精神に立ち返るつもりはなさそうだ。今回のリストラではテレビ事業を分社化し、やはり独立採算を求めるという。
「たしかにテレビ事業は韓国や中国、台湾と技術的な差がほとんどなくなった今、継続していくのは難しいでしょう。一方で平井社長は黒字化を目指すと言う。しかし、分社化することで何かが変わるのでしょうか。かえって資金が細り、人材が乏しくなるため、大胆なことはできなくなる。このままでは最終的に売却するしかなくなるはずです」(前出・テレビ部門の元幹部)
魚は頭から腐る。その腐敗は全体を蝕む。ソニーという世界的ブランドとて例外ではない。経営者の無策とリストラが続けば、社員たちのモチベーションが下がるのは必然だ。
「ソニーは'12年に国内外で1万人の大リストラを行いましたが、このとき優秀な技術者は中国や韓国などのライバルメーカーに転職しています。今回のリストラでは国内外で5000人が削減される予定ですが、以前のような海外からの引き合いはもうありません。技術者は飽和状態で、ソニーを退職しても行き場がない状態なのです」(50代の間接部門社員)
ソニーに別れを告げる日
リストラの波は、すでに子会社に及んでいる。テレビやパソコンなどの製品組み立てを一手に担うソニーEMCSに勤務する社員のもとに、昨年12月、早期退職を勧めるメールが突然届いたという。
「要するに早期退職に応じれば再就職の便宜を図ってあげますよということですが、同様のメールが1月6日にも届きました。仕事始めの日ですよ。これにはさすがに参りましたね。
『バイオ』は安曇野にある長野テクノロジーサイトで開発製造され、同所は『バイオの里』の愛称で親しまれていた。そこが丸ごと売却されることになります。ソニーに残れるのか、別会社に移るといっても、先行きはわからない。住宅ローンを抱え、家族のいる社員は頭を抱えています。仕事どころじゃありません」(同社の40代社員)
本社の幹部社員も、今や安泰ではない。今年度からソニーが再導入した「役職定年制」によって、部課長クラスは60歳未満で役職からはずされるようになった。これでは責任ある仕事に誰も就きたがらなくなるのも当然だ。経営トップが方向性を示さず、闇雲にリストラをし、社員がやる気をなくしていく。一度狂い始めた歯車を戻すのは、容易なことではない。前出の辻野氏が、こう締めくくる。
「ソニーの使命は終わったと思いますね。創業後70年近くになります。これが人間なら、もう老人。もっと頑張れとは言わないでしょう。ソニーが全盛期を迎えていた時代には、グーグルもインターネットもなかった。時代が変わったんです。ソニーはこれまで世界に計り知れない貢献をしてきました。画期的な商品を生みだし、ハッピーサプライズを与えてきた。素晴しい会社だった。でも、もういい。静かに老後を迎えさせてあげてもいいんじゃないか。私はそう思います」
僕らがソニーに別れを告げる日は、すぐそこに近づいているのかもしれない。
「週刊現代」2014年3月1日号より
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