「ぼったくり」がまかり通る「葬儀ビジネス」を変える!「シンプル火葬」を展開する篠原豊氏

イケダハヤト | ブロガー/ihayato.news 編集長

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ふとフェイスブックのタイムラインで見つけてこれは!!とビビッと来てしまった「シンプル火葬」。あまりにも気になったので、Amazing Life代表の篠原さんのところまでお話を伺いに行ってしまいました。

いやー、やっぱり面白かったです。すばらしい。6,500字のロングインタビューですが、ぜひじっくりとお楽しみください。

葬儀業界の常識を壊したい

イケダ:本日は貴重なお時間をありがとうございます。シンプル火葬、大変興味深いです。リリースはいつでしょうか?

篠原:去年の7月に会社を立ち上げて。1月30日にリリースしています。

イケダ:本当に直近のお話ですね。もともとウェブサービスをつくって起業していたわけですが、なぜ今度は「葬儀ビジネス」なのでしょう?かなり畑違いに見えて、コントラストがすごいです(笑)

篠原:僕は今年42歳なんですが、前のサービスである「EverConnect」を作った後に両親が亡くなったんです。この体験が大きかったですね。

母親の時はそれなりに葬儀を派手にやって欲しいと言われていたので、派手にやりましょうと。そのために母親は地元でナンバーワンの葬儀屋に、事前に積み立てておいてくれたんです。

ですが、結論をいうと亡くなる直前くらいに電話をしたら、「積み立てた金額では、これと、これと、これが足りません。だから追加料金をください」と言われてしまって。

結果、積み立ててくれていたものを解約して、もう一度再見積もりして、やり直して。だから葬儀のコストが1.5倍くらいになってしまって…。その足りないコストは母親の生命保険から出るわけですよ。兄弟で使ってねという遺言書を残してくれたのに、葬儀代に消えていきました。

イケダ:ひどいお話ですね…。

篠原:父親の方は葬儀を簡素に済ませたいという希望がありました。葬式なんかに金をかけるより緩和治療に金をかけてくれ、と。それはそれで正しいと思うんです。だから最後の数ヶ月間は、ホテルのような病室にいました。

でも、いざ葬儀をやってみると、簡素に済ませるつもりだったのに、家族五人くらいで見送るのに50万ですと言われて。結果100万超えてしまった。

イケダ:見積もりの2倍…いやー、まだそういうあこぎなことをやってるとは、信じられないですね。

篠原:金額的なブラックボックスと「ぼったくり」の状態が葬儀業界にはありますね。

もうひとつは、うちの両親は病院で亡くなっていまして…、亡くなる直前や直後に、葬儀のことなどを、僕はネットの人間なのでパソコンで調べたいわけです。でも、病院はPC持ち込めないじゃないですか。家族の控え室には、他の家族もいるので雰囲気的にPCを出して作業しにくい。

そういう時にスマホでこそこそ調べるしかないんですよ。でも、スマホではなかなか欲しい情報が出てきません。すでに存在しているサイトは、アナログからデジタルに変わっているけど、スマホ化はしていないんです。基本的にはデスクトップ・ラップトップをイメージして作られているのがほとんどです。

そんなこともあって、僕は葬儀業界を徹底的に調べ上げました。

(タブレットでページを表示しながら)…たとえば、ここはK社という最大手の会社なんです。ここは葬儀費用に関する啓蒙活動もしているんですけど、このサイトはどこまで見ても価格が出てきません。結局、彼らがいくらでやっているかは問い合わせないとわからない、と。

イケダ:うは、信じられないですね。そんなブラックボックスなんですか。

篠原:2010年の段階で、日本国内の葬儀のマーケットって1兆円以上の規模なんです。そのうちのだいたい1/4が関東で、東京都が10%。流れとしては東京に集中していく傾向があります。

で、葬儀を簡素に済ませたい方々が都市部に増えていくだろう、と考えました。どうせ限られたお金を使うなら子どもたちに有意義に使ってもらいたい。または、生前に有意義にお金を使いたい。そういう方のために、葬儀業界の現状をぶち壊せないかなと思ったんです。起業の動機はほとんど怒りですね。

イケダ:義憤を抱いて起業、というのはすばらしいと思います。超熱いです。全然知識がないんですが、葬儀ビジネスって免許などはいらないんですか?

篠原:免許はいりません。極論、葬儀屋ビジネスって、電話とFAXとPCがあれば、花屋さんも棺おけ屋さんも、外注で手配してパッケージ化できてしまうんです。

今、全国の葬儀社の3割は零細葬儀社で、どんどん潰れています。大きなところは設備投資をしてセレモニーホールを作って、回転率×客単価の世界なんですよ。必然的に、この施設を回すために、そこの客単価を上げて、効率的に回していく。質は平均的になる一方で単価は落ちない、という構造になっています。

零細企業はどうしているかというと、大手の下請けをやっていたりします。大手で溢れた案件を受けて、大手の名刺を持って営業する。マージンがダブルテイクされるので、さらに費用が高くなるという悪循環になっています。

シンプル火葬の仕組み:クレジットカード決済という強み

イケダ:シンプル火葬は火葬だけで、葬儀はついていないんですね。

篠原:そうなんです。仕組みで言うと、公式サイトにもありますが、お電話をいただけると24時間365日、病院へ急行します。ご自宅か弊社が指定した安置所に安置してドライアイスをつけたり、簡易的な祭壇を作ったり、こういったものをすべてセットにしています。

火葬するためには役所に手続きに行かなければいけないんですが、そこも代行します。火葬場までお見送りして、ご自宅で骨壺を飾りますが、それもセットになっています。

必要なものがあればオプションを付けてください、という方式です。最近は戒名なんていらない人は多いので、オプションにしてます。超明朗会計でやってます。

イケダ:あぁ、戒名とかホントいらないですよね。葬式ビジネスだよなぁ、という感じで嫌悪感すら抱いてしまいます。

篠原:申し込みの部分ではスタートアップらしくテクノロジーを使っていて、真夜中に電話が来ても、携帯電話番号を入力すると認証コードが発行されて、お客様の携帯電話にSMSで認証コードが届く仕組みになっています。間違い電話や深夜対応でご迷惑をかけるのを防いでいます。

さらに画面を進んでいただくと、安置する場所や急行する病院を指定していただいて、Paypalに切り替わります。

イケダ:ここでPaypalというのがすばらしいですね(笑)

篠原:「シンプル火葬」は22.8万円なので、クレジットカードで決済できます。クレジットカードで決済出来るということは、お支払いそれで終わりということです。追加のお金は掛かりません。

なんでクレジットカードにこだわっているかというと、葬儀のお金の支払いって、この業界は「現金払い」なんですよ。

イケダ:え?現金なんですか。急ぎだし金額は大きいし、かなり無理がある気が…。

篠原:まさに、総額200~300万円。これを現金で用意しなければいけないわけです。窓口行ってお金用意して、なんて余裕はないですよね。心の余裕も時間の余裕もないのに、現金をその場で要求する神経が正直言って、僕には分からないです。

生命保険の金額が入るまでには時間差があるので、通常は立て替えることになります。僕のように兄妹が3人いれば、とりあえずなんとかなりますけど、一人っ子だと結構きついですよね。

イケダ:いやー、払えない人も普通にいるでしょうね。100万単位をポンと出すって…。

篠原:カードで決済ができれば、現金も用意しなくていいし、時間も掛かりません。加えてうちは問い合わせも営業もない、明朗会計です。あとはクレジットカードなら気軽に分割支払いもできますよね。

葬儀が高額になる理由

篠原:今の葬儀業界は「17万円だけ」と言っていたのに、追加で資料がどっさり来るんですよ。オプションを売りつけようとしているわけですね。最近はこういう演出が流行っていて…と営業がどんどんオプションを紹介したり。

編集:どうして、葬儀業界はそういう構造になってしまうんですか?

篠原:ひとつは、お客様、喪主さんに事前の情報が無いからなんですよね。喪主になる機会は一生に一回、二回。それでも多いと思うんです。情報を取得したり、相見積もりを取る時間もない。その場で決めないといけない。

これまでの風習でいうと、病院と葬儀屋が提携するかたちが取られています。病院に対して葬儀屋が所場代を一病院あたり年間で200万円くらい払って、亡くなった方が病院から「送客」されるたびに手数料を支払う。アフィリエイトモデルです。まっとうに言うと宣伝広告費だけど、それを宣伝広告費と言っていいものか、というのはありますよね…。

そういったものが積み重なっていくと、高くせざるをえませんし、喪主側にも選択肢がないから売り手市場なんです。そうすれば、いくらでもぼったくることが出来てしまいます。

葬儀のフェアとか展示会に行ったんですが、すごいですよ。パネルが液晶になっていて、喪主から写真を借りてUSBに差して、遺影になりますと。たったそれだけで5万円取るんですよね。

イケダ:ヤバい(笑)ブラックジョークみたいな世界ですね。

篠原:そういったグッズがいっぱいありまして…この業界、雪崩を打つように参入者が増えているんですが、アナログからデジタルになって健全になるかと思いきや、逆にボッタクリ感を増しているような状況になっていますね。

正直、僕は横から上から後ろから…色々と既存の企業から手を出されることがあります。でも、それはそれでいいかな、と思ってるんです。

編集:足を引っ張るということですよね。どんな邪魔が入るんですか?

篠原:端的にいうと、電話が掛かってきて、うちから仕事を流すので、価格の看板を下げられませんか?というのはありましたね。

イケダ:そこまでダイレクトに言うんですね。他社の価格表示に文句付けるとか、ちょっと理解できない感覚ですが…。

篠原:こういうのはいっぱいありますね。うちはここからどう進んでいきたいかというと、今は火葬だけなので、身内だけで安く済ませたいけど、葬式はしたいという方向けの「シンプル葬」を出そうと思っています。これで提供サービスの幅が広がります。

もうひとつはサービスの内容をどう充実させていくかということです。死ぬところから手続きをして、49日があって、3回忌があって、その都度、色んな人から御霊前いただいたり贈り物をいただいたり、これはすごく長いスパンのCRMみたいなものです。

関連する人たちの連絡先はスマホに入ってるので、連絡帳と連動するかたちで、ToDo管理ができればいいな、と思っています。「姉ちゃんやってよ、兄ちゃんやってよ」みたいな。

イケダ:すごいこと考えていますね!葬儀関連のToDoアプリですか。世の中で篠原さんしか考えていない話でしょうね(笑)

篠原:アプリ化はありかな、と思っています。葬儀のTodoは普通に考えると7回忌があるから、7年は続くんです。

葬式は節約して、その分、身内で年に一度は集まってご飯を食べましょう、とかそういうお金の使い方ができるようになるといいと思います。忘れがちなので、ToDo管理アプリが「そろそろ企画しましょう!」とアラートを鳴らしてくれて。ここは飲食とのマッチングも面白いでしょうね。特別な機会なので単価も高いですし。

業界の市場規模をシュリンクしたい

編集:事業として具体的な目標は掲げているのでしょうか?

篠原:僕らは1.1兆円という産業規模をシュリンク(小さくする)することが目標です。

イケダ:すばらしい!非効率を正し、産業を小さくしていくと。感銘を受けました。これ、書いていいんですか?

篠原:はい。もちろん。

イケダ:刺されそうですけど(笑) 

篠原:はい、気をつけます(笑)

イケダ:…割とリアルな話で、あっちの方面とか大丈夫なんですか?なんか葬儀業界って、ブラックな匂いを嗅ぎ取ってしまいますが。

篠原:実態は詳しくないんですが、よく聞きはしますね…。

イケダ:ホント、身辺には気をつけてください…。篠原さんがシンプルにこの世から葬られてしまっちゃ困りますから!

一番の課題は人材

イケダ:マーケティングはどう考えているんですか?

篠原:めっちゃ難しいです。まさに困っているところです。当面はひたすらコンテンツマーケティングベースのSEOとリスティングを地道にやっていこうと。

イケダ:コンテンツマーケティングは具体的にどのようなものを考えているんでしょうか?

篠原:コンテンツマーケティングはこれからです。葬儀に関するnanapi作りたいと思ってます。

イケダ:ハウツーコンテンツはありでしょうねぇ。書ける人も少ないでしょうし。ただコンテンツもリスティングも限界がある気がするので、個人的な意見を言うと、PRのほうが向いてると思います。メディアを味方にして広げていく、と。「ガイアの夜明け」とか出てそうですよね。

篠原:そうですね。コンテンツマーケは難しいですから。ガイアの夜明け…出た瞬間に潰されそうですね(笑)

もうひとつの課題は、やはり人材です。うちは世界を変えるつもりでやっていますが、やはり「葬儀」なので、いわゆるソーシャルとかアドテクのようなクールな業界ではないです。どうやって優秀な方に来てもらえるかが一番の課題かなと思ってます。

イケダ:おぉ、そうですか。ぼくはかなりビビッと来ましたけど…共感されやすい課題なので、人材はむしろ集まりやすいと思います。

篠原:ありがとうございます。このビジネスは、成功しようが失敗しようがやろうと思っていたんです。

この業界はこれだけ巨大なマーケットなのに、その割には上場企業数が少ないんです。このことが、いかに業界がブラックボックスなのかを良く現していますよね。構造が決算書に出ちゃうと、この利益率なんだ?という話になってしまう。儲かるから資金調達する必要もないんでしょうね。

イケダ:ユーザーは葬儀代が高くても、良いことなんてひとつもないですからねぇ…。

篠原:そうなんですよ。うちの企業ブランドの「Amazing Life」というのは、すばらしい人生を、次の世代へをちゃんと移行しましょうよという思いがあります。

ぼったくり業界のために長い人生を溜めてきたお金を使うのはもったいないじゃないですか。もっと自分の人生のために旅行するとか趣味のために使うとか、子どもに残すとか、そういう選択肢を取れるようになるべきです。…この業界は、一番罰当たりなことをやってますから(笑)

スタートアップが失敗する理由

篠原:僕は一度スタートアップ立ち上げて大失敗したんです。2010年に立ち上げたEverConnectですね。

イケダ:おぉ、失敗と言い切っちゃうんですね。

編集:スタートアップの失敗の要因は何ですか?

篠原:ひとつは、「やりたいことをリソースが限られるなかで全部やってしまう」こと。わたしたちの場合は、優先順位が付けられませんでした。

もうひとつは、「大きなやるべきことに対して、事前に仮定・検証調査を踏まずに、いきなり作ってしまった」ことです。小さな機能追加なら、とりあえずやってみるというのはいいけど、背骨の部分はちゃんと計画を立てて調べてやらないとダメですね。

あとはマーケットですね。なかなか難しかったです。融資も投資も受けていたので、ご迷惑をおかけした方は多々います。

イケダ:それでも、「会社潰したら自殺」みたいなことも無くなってきていますね。もう一度こうしてチャレンジをする起業家が増えていくというのは、すばらしいことだと思います。

篠原:EverConnectのときの投資家の方はナイスチャレンジと言ってくださっていて、それはよかったですね。成功法則は無いけど、やっちゃいけないことリストは作れました。

失敗のデータベースをいっぱい持っているので、一緒にやるエンジニア、デザイナー、マーケターの方は若い方がいいですね。実体験とテクニックと失敗のデータベースの組み合わせになるので良いですね。

今はスタートアップも障壁低いですから。日本のスタートアップは若い人ばっかりじゃなくて、僕みたいな、おじさんも頑張っているぞ!と言いたいです(笑)

覚悟に痺れた!

いやー、こうして原稿をまとめていても興奮がよみがえります。すばらしい覚悟で事業に臨んでいる起業家ですね。ほんっとにおかしな話ですから、全力で応援したいところです。

エンジニア、デザイナー、グロースハッカーを募集しているので気になる方はぜひ仲間になってみては。「正社員(中途)・契約社員・バイト等、ご希望の働き方をご相談ください」とフレキシブルな感じです。

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イケダハヤト

ブロガー/ihayato.news 編集長

2009年にルネサステクノロジに入社。その後、2010年3月にトライバルメディアハウスに転職しソーシャルメディアコンサル事業を立ち上げ。2011年4月フリーランスに転向。「テントセン」という名前でNPOマーケティングを支援するプロボノ集団も作っています。2012年4月からは、育児に時間を割くべく「プロブロガー」というキャリアを歩んでいます。

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