李登輝・元台湾総統インタビュー 日本への期待 安倍総理への期待
WEDGE 2月27日(木)12時38分配信
─指導者がリーダーシップを発揮するために何が必要でしょうか。
信仰です。本物の指導者は常に孤独だ。国家のために尽くしていても、反対勢力やメディアから批判される。孤独に耐えるには、強い信仰が必要だ。それが、あらゆる困難を乗り越える原動力になる。
最近の日本には、国民や国家の目標をどこに置くかについてきちんと考えを持った指導者がいなかった。安倍総理は違う。彼には彼なりの信仰があるように私には思える。
私の場合は、キリスト教という信仰があった。私はもともと農業経済の学者でした。40代で奨学金を得て、米コーネル大学に留学し、そこで書いた博士論文が評判になった。当時、台湾では土地改革をめぐって農業問題が深刻になっており、行政院副院長(日本の副首相にあたる)を務めていた、蒋介石の息子、蒋経国に呼ばれ、自分の考えを説明する機会があった。そして、蒋経国が行政院長(首相相当)に就いたとき、政務委員(国務大臣相当)として入閣することになった。48歳の時です。
6年間政務委員を務め、その後6年間、台北市長や台湾省主席を経験したのち、蒋経国総統から副総統に指名された。そしてその4年後、蒋経国が亡くなり、憲法の定めで総統に就任した。なぜ私のような人間が、蒋経国に抜擢され、総統になったのか。それは神のみぞ知る、です。
─「万年議員」を引退させたり、総統選挙を直接選挙にしたりと、大改革を次々実行しましたね。
私はもともと学者だから、権力もお金も派閥もなかった。そういう人間が改革をやろうとしたものだから、困難ばかりで、夜も寝られなかった。国内では既得権者と闘い、対外的には大陸中国との問題があった。
そうした困難な事態に直面したとき、私は必ず聖書を手にした。まず神に祈り、それから聖書を適当に開いて、指差したところを読み、自分なりに解釈して神の教えを引き出そうとした。自分を超えた高みに神が存在していて助けてくれる。そのような信仰が、一国の運命を左右する孤独な戦いに臨む指導者を支えてくれる大きな力となる。
─日台関係をどう見ていますか。
台湾に対して日本は長い間冷淡だった。しかし、司馬遼太郎さんが「街道をゆく」で台湾紀行を書いたり、中嶋嶺雄さんが「アジア・オープン・フォーラム」を開いたりしたおかげで、少しずつ関係は改善した。
そして、安倍総理がフェイスブックで「友人」と発言し、懸案の漁業協定締結にもこぎつけてくれた。これらは、ここ40年間日台間に存在した表面的な関係を具体的な形として促進したものと言える。
残る課題は日本版「台湾関係法」の制定だ。日本は日中国交正常化に伴う中華民国との断交以来、日台交流の法的根拠を欠いたままだ。国内法として台湾関係法を定め、外交関係を堅持している米国を参考にしてほしい。これは、今後「日米台」という連合によって、新しい極東の秩序をつくる上で、良い礎となる。
(聞き手/編集部 大江紀洋)
WEDGE編集部
最終更新:2月27日(木)12時38分
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