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MARGINAL#4

「ねえ、あなた。ちょっと相談があるんだけど」
「はい?」

 それは、私がいつものように事務所の掃除をしていた時のことだった。
ふと声をかけられて、私は顔をあげる。

「あ、社長。お帰りなさい」
「ええ、ただいま」

 私に向かってにっこりと笑って挨拶をしてくれたこの人は、この事務所の社長だ。
いつかこの手で、トップアイドルを生み出したいという私の熱意を買って、業界のことを何も知らない私のことを、マネージャーの卵としてこの会社に招き入れてくれた。

(いつか、しっかり恩返ししたいな)

そのためにも、早く一人前のマネージャーとなり、この手でトップアイドルを育てられるようになりたい。それが私の目標だ。

(……今はまだ、ただの雑用係だけど)

この事務所にマネージャー志望で入社してまだ数カ月。今のところの私の仕事は、社内での雑用や先輩方のサポートに限られている。

「どうかしたんですか? 何か手伝えることがあったら仰って下さい。」
「そう言ってくれると助かるわ。それじゃあ、私、先に社長室にいるから……、そうね。お茶を6人分用意してもらえるかしら」
「はい、わかりました」

(……お茶の用意?)

それぐらい、全然大したこのない通常の業務だ。
わざわざ社長から改めて相談されるようなことではない。

(6人分ってことはお客さんが来て……。そのお客さんの対応を私にも手伝ってほしい、ってことなのかな)

そんなことを思いつつ、私は早速6人分のお茶の用意をすると、それをお盆に乗せて社長室へと向かった。ノックをして、内側からの返事を待って扉を開ける。 部屋の中にはまだ社長しかいなかった。

「これからお客さんでも来るんですか?」
「ええ、ちょっと。ああ、お茶は適当にそこのテーブルに置いておいてちょうだい」
「わかりました」

 私は社長に言われたとおり、今はまだ空席のソファの前に、お茶を並べていく。
それぞれ向かい合うように4つ。お誕生日席にひとつ。最後のひとつは社長の机に。

「他にも何か用があったら声をかけて……」
「あ、待って」
「はい?」

 お茶を並べて下がろうとしたところを、社長に呼び止められる。

「そこにね、座ってちょうだい」
「え?」

社長が無造作に示したのは、お茶の並べられた空席のひとつ、社長と対面となる位置だった。

(……え? 私が座るの? なんで?)

頭の中にクエスチョンマークが飛び交う。そしてその疑問を口にしかけたところで……。

「はよーざいまーッス」

 バーン、と勢いよく社長室の扉が開け放たれた。
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