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匿名 陰から 脅し 盗撮 大量メール 「反原発」に続く嫌がらせ

(02/22 11:37)

反原発運動に対する脅しの資料を見る海渡雄一弁護士(左端)と佐藤栄佐久元福島県知事(右端)

反原発運動に対する脅しの資料を見る海渡雄一弁護士(左端)と佐藤栄佐久元福島県知事(右端)

 「子供は家に一人だよな」と脅す。がんで闘病中なのにお悔やみのはがきをばらまく。陰険な手口は今も昔も変わらない。名も名乗らない手合いによる反原発運動に対する攻撃だ。犯人が捕まることはまれで野放しに近い。

 「子供たちに放射能の危険を残したくない」。元アイドルで情報会社社長の千葉麗子さんは反原発の思いを自己規制しない。首相官邸前デモで、ツイッターで、訴える。

 経営者としての損得を考えると、沈黙が無難だろう。だが、福島県出身。福島市職員だった父から「あぶない」と聞かされていた東京電力福島第1原発が2011年3月11日、本当に凶器になった。政府、東電の発表は、後でうそと分かることの繰り返し。自分なりにできることをやろう、と決めた。

 13年7月2日朝。登校しようと玄関を出た子供が「母ちゃんっ」と叫んだ。外に出て息をのんだ。マイカーにペンキで「原発推進」の大文字。窓ガラスは粉々で、タイヤがぺしゃんこだった。

 6日、ツイッターに書き込みが来た。「毎週金曜18時から20時前は官邸前に行ってるんだろう。その間、子供一人だな、イヒヒ」

 引っ越した。防犯カメラをつけた。警備を頼んだ。「母親の一番弱いところをついてきた。なんて陰湿」。犯人はまだ、捕まらない。

 ◇68人に合計4千通

 昨年8月と今年1月、東京新宿区立区民ギャラリーで「反原発への嫌がらせの歴史展」が開かれた。弁護士や市民運動家でつくる実行委員会(代表・海渡雄一元日本弁護士会連合会事務総長)が1980年代から今に至る、嫌がらせの実例を展示した。民主主義と表現の自由に対する犯罪だ。

 例えば、原発の危険性を専門的に分析している民間団体、原子力資料情報室(新宿区)の女性スタッフが、子供と一緒に歩いている写真がある。誰かが、こっそり撮り、自宅に郵送してきた。「いつも見張っているぞ」とでも言いたいのか。

 「コンビニで後ろにいたの気づかなかった?」という別の手紙もある。トイレで使ったような紙、たばこの吸い殻から昆虫まで、判明しているだけで反原発派68人に約4千通の郵便物が届いた。

 ◇資金力ある組織か

 反原発運動の支柱的存在だった故高木仁三郎元東京都立大助教授は1992年、地方講演の際、会場に知らない贈り主から花輪がずらり届いた。共産党の名前入りは豪華だった。全てニセ。「アカ」と印象づけたかったらしい。

 実行委員会は、これらの犯人像をこう分析する。

 《1》郵便の消印は全国、海外にまたがる《2》個人の自宅住所、出張先まで調べ上げ、写真を撮ったり器物を破壊したりしている《3》全国の集会参加者や反対運動家のリストをばらまいている《4》反対運動の内部資料や、反対運動家の郵便箱から盗んだとみられる書類もあった―、こんなことができるのは、強力で資金力のある大きな組織に限られる、と。

 昨年は、全国の反・脱原発33団体に約253万通、迷惑メールを送りつける事件も起きた。「反原発教徒を皆殺しにしなければ世界平和はこない」といった内容だ。受けた団体は大量の迷惑メールの中から真正のメールを探さなければならず、大混乱した。

 海渡代表は呼び掛ける。「原発再稼働に向け、反原発運動を分裂させるため、嫌がらせは続くだろう。われわれはひるまない。再犯を防ぐためにも、犯行に加担した人は名乗り出てほしい」

 ◇一転「申し訳ない」と

 檜山管内せたな町の法華寺住職大塚泰淳さん(69)には確信がある。1988年、北電泊原発前で抗議の断食をした。後日、街宣車が寺に現れボリュームを上げた。「大塚、出て来いっ」

 本堂に招き入れ、言い分を聞いた。「売名行為をやめろ。原発は必要だ」。溝は埋まらない。だが、話し合いを約束し、以来、手紙のやりとりが続いた。

 3・11直後、男が書いてきた。「あなたの言うとおりだった。申し訳ない」

 大塚さんは言う。「人には仏性があり、必ず仏になれる。どんなことをされても、その人を軽んじたり、憎んだりしてはならない。逆に、被害を受け苦労しても、いつか必ず花開く時が来る。諦めてはいけない」

 とはいえ脅し、嫌がらせがこれだけのさばる社会とは一体何か。福島県知事時代、いったんは原発を容認したものの、東電のトラブル隠しなどで反原発に転じた佐藤栄佐久さんは断罪する。「これはもう原子力帝国だ。日本の劣化だ」(徃住嘉文)

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