2014.2.28

SF短篇集『My Humanity』あとがき


 2014年2月21日に、ハヤカワ文庫JAから初短編集『My Humanity』を刊行いただきました。

 http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/21140.html 



 実は、角川スニーカー文庫で書いていたライトノベル以外では後書きを書いておらず、もう数冊連続で書いていなかったりしまして。
 別段ポリシーがあっての結果でもないのですが、今回も後書きがない本になってしまったのでblog上に置いてみることにしました。

 短編集『My Humanity』収録の短編は、『BEATLESS』のスピンオフ『Hollow Vision』が本当にスピンオフなのですが、『地には豊穣』『allo, toi, toi』の2本は『あなたのための物語』と完全に独立した小説と言ってよいものになっています。

 正確には『地には豊穣』のギミックだった、経験を直接伝達する言語ITPを、長編『あなたのための物語』で使ったという執筆順です。『allo, toi, toi』は、テーマのためにITPのギミックの可能性を利用しました。この2本はスピンオフと考えずに読んだほうがよい小説かもしれません。

 掲載は、『地には豊穣』(2003)、『allo,toi,toi』(2010)、『Hollow Vision』(2013)、『父たちの時間』(2014)と、執筆順になっています。
 全部集めて何の話だったのかと振り返ってみると、やはり書名は『My Humanity』にしかなりようがなかった気がします。

 以下、各短編へのコメントなど。


『地には豊穣』
 デビューから2年ほどの、まだスニーカー文庫でだけお仕事させていただいていたころ、早川書房さんから突然ご連絡いただいて書いた短編です。
 SFということでお話いただき、何を書けばよいのかさっぱりわからなかったので、当時始まったばかりだったイラク戦争の報道からもやもやしていたものを小説にしたのでした。
 2003年の状況から着想したものですが、古くなっているかというと昨今の日本の様子からあまりそうでもない様子なのも、多少悩ましいところです。
 『ゼロ年代SF傑作選』(ハヤカワ文庫JA)に収録いただいた短編を、微修正しました。

 『あなたのための物語』刊行当時のエントリはこちら→『あなたのための物語』が発売になりました


『allo,toi,toi』
 2009年にハヤカワJコレクションで刊行いただいた『あなたのための物語』(現在はハヤカワ文庫JAにて文庫化済み)が縁で書いた中篇です。『SFが読みたい! 2009年度版』にて国内篇2位をいただいたため、S-Fマガジン誌の上位入選作家特集としてお話いただきました。
 ITPのギミックを使ったほうがS-Fマガジンの読者さんに受け入れてもらえるのではないかと考えて、その先の可能性を描いてみました。
 法律名がまた変わるかもしれないので俗称で書きますが、当時、児童ポルノ法の改正議論がわりと乱暴な論理展開で進んでいて、ここを逃すと書く機会がないかもしれないとこういうテーマにしました。残念なことに、今に至っても、この改正議論は共存の方向には向かっていないように見えます。
 報道やネットワークなどでしばしば害あるものとして扱われる、いわゆるロリコンについて、嫌悪感を感じるかたに個人的にはおすすめしたい短編でもあります。そこには人間しかいないのです。


『Hollow Vision』
 2012年に角川書店から刊行いただきました『BEATLESS』が『SFが読みたい! 2012年度版』にて国内篇3位をいただいて書いたものです。
 S-Fマガジン読者さんに楽しんでいただける娯楽SFを書きたかったことと、当時宇宙を舞台に作ってみたいと考えていたことが合わさって、スペースオペラになりました。
 『BEATLESS』では百年近く先の未来を舞台にしているわりに、題材と読んでもらいたい読者層から、2012年のリアリティから大きく外れすぎないようにSF的な描写を絞りました。なので、22世紀らしくギミックを派手に出して書くとおもしろいのではないかと考えたこともありました。
 どうも上位入選作家特集でお声がけいただくと、入選作の設定を使った短編を書いてしまう癖があるらしいと、今、気づきました。

 『BEATLESS』刊行当時のエントリはこちら→『BEATLESS』刊行です


『父たちの時間』
 短編集のための書き下ろし中篇。
 この短篇集をまとめるにあたって、『地には豊穣』、『allo,toi,toi』、『Hollow Vision』と、収録作が見えてくると不安が出てきました。人工神経をテーマとしたギミック的には地味めで重い物語が2本と、スペオペが1本だったためです。そうです、極端でまとまりが悪いのです。本作りとしては、一冊のSF短編集としてちょっと不安定な感じもあります。
 原発が微妙な時期なのでどうかとは思った部分もあるのですが、他の短編とは違ったギミックを扱いたくて、書いてしまいました。
 ネタバレなので詳細言えないのでなんですね。つまり今年2104年が60年目の節目になるアレを、今、自分なりに語り直しておこうということもあります。
 こうして振り返ってみると、きっかけがないと短編を書いていないかのようです。設計がないと書くのに苦労するほうなので、おのおのの小説を書く動機が自分の中でしっかりしているほうがだいたい仕事がうまく回るようです。


 今回の『My Humanity』に、早川書房さんからいただいたお仕事のものは全部収録いただいています。

 残っている短編は、『Toy soldier』(角川スニーカー文庫『S BLUE』収録)。今はなき角川書店の雑誌『ザ・スニーカー』に受賞作家特集としてお話いただいた、実質的なデビュー作短編。
 『NOVA 3』(河出書房新社)アンソロジーのためにお声がけいただいた『東山屋敷の人々』。
 あとは、おそらく今年中にかたちになるであろう一本のみです。
 振り返ると、作家業の節目の時期で書いている感じではあります。

 あとは『ウルトラQ dark fantasy』ノベライズに、エピソード『楽園行き』を題材に書かせていただいたもの。
 コミックス『女神候補生』新装版のためのおまけ掌編。
 非商業で、有馬啓太郎さんの同人誌『玻璃の空』のために書いた『やまのとけい』というライトホラー。
 元はTRPG同人誌のために書き、ウェブ投稿になった掌編もあるのですが、  ちょっとこのあたりは書籍に入るのは将来的にも難しいかも。
 13年目になるのに、まだ簡単にカウントできるほどしか短編を書けていないとは、改めて驚きです。


 カバーイラストは『Hollow Visions』雑誌掲載時にお世話になったusiさんにいただきました。

 usiさんのblog [ysms]
 http://ysms-ik.blogspot.jp/ 


 カバーイラストは、ぱっと見でもよい感じですが、読み終わってから見ると各短編のイメージくんでいただいていて素晴らしいです。ありがとうございます。
 色合いの設計や配置も計算いただいていて、著者としては飽きることのない、対話ができる感じのよい絵です。 断面をさらして削り取られたキューブがちゃんと4つなんですよね。

 こうして書いてみると、今回は2p程度でもあとがき入れたほうがよかったですね。
 ページが本当にぎりぎりで、1ページでも増えると値段が変わってしまいそうな本だったので、わりとどうしようもないところもあったのですが。

 今回は、早川書房の担当編集者さまに、スケジュールの面で多大なご迷惑おかけしました。印刷所のかたも、書店の皆様も本当にすみません。頼りない作家ではありますが、今後ともよろしくお願いします。

 家族、友人、ご迷惑おかけしたかた、もろもろ皆様にお力いただいて形になった本ではあります。

 作家になって10年以上経ち、これまで何を書いてきて、これから何を書いてゆくのかと考えると、今後挑戦してゆく方向性も茫漠と見えてくるわけで。
 一人の作家が書ける作品数は限られています。その中で、どれだけ手にとって時間を割いてもらえる価値のあるものを作れるのかなのだと最近は思います。

 またこれからも前に進んでゆきますので、今後ともよろしくお願いします。

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