北朝鮮南東部にある金剛山は朝鮮半島の人たちが、思いこがれる美しい山だ。

 その名峰は、今月25日までの6日間、涙に暮れた。

 南北に暮らす離散家族が六十数年ぶりに再会した。約700人がわずかな時を分かち、またも別離の悲しみを抱えてそれぞれの「国」にもどった。

 高齢化が進んでおり、救急車で軍事境界線を越えたお年寄りもいた。再会を申請した人のうち韓国側だけでも年に約3800人が亡くなっている。

 政治が対立を続ける限り、この悲劇は終わらない。

 3年4カ月ぶりに実現した再会事業を機に、韓国と北朝鮮は民族の和解と地域の安定に向けた本格対話を進めてほしい。

 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は今年に入り、「統一はビッグチャンスだ」と繰り返している。統一は朝鮮半島の新たな成長動力を生み、韓国や周辺国にとって好機になるとの趣旨だという。

 25日に就任1年を迎えた朴氏は、大統領直属の「統一準備委員会」を設けるとも表明した。

 北朝鮮は韓国経済にのみ込まれる「吸収統一」を、韓国は北朝鮮の武力による「赤化統一」を絶対に受け入れられない。そのため「統一」という言葉自体が敏感に扱われてきた。

 朴政権は最近、金正恩(キムジョンウン)体制の急変事態も想定し、米国との協議を進めている。一方の北朝鮮は自主統一を唱え、米国など外部勢力の排除を呼びかける。

 同じ言葉を使っても、双方が描く絵はかけ離れている。

 相互不信の岩盤は厚いが、それでも少しずつ南北を結ぶ風穴をうがつような和解の作業を不断に続けるしかない。

 00年に実現した初の南北首脳会談では、それぞれの統一構想に接点があることを確認した。

 今回の離散家族の再会事業を決めた高官協議では、相手を誹謗(ひぼう)中傷しないことや話し合いの継続を確認した。

 微々たる進展ではあるが、南北間の緊張緩和は、日米など周辺国の安全保障にも役立つ。

 朴政権は、すべての南北事業を滞らせた李明博(イミョンバク)・前政権の轍(てつ)を踏んではならない。

 もちろん統一構想を進めるうえで、北朝鮮の核・ミサイル問題の解決は必須条件である。

 北朝鮮に対し譲れない原則は貫きつつも、対話の窓は広げる硬軟両様の知恵が求められる。

 再会事業のさなかも、朝鮮半島西側の黄海では米韓合同軍事演習をめぐって緊張が続いた。

 一進一退のやりとりの中から信頼の小石を積み上げる。それ以外に南北和解の道はない。