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数式とビッグデータでヒット現象分析
2月28日 10時34分

数式とビッグデータでヒット現象分析

多くの人が関心を寄せる大ヒットはどのように生まれるのか、ブログやツイッターの書き込みの増減を基にその要因を分析する研究を、鳥取大学の物理学者などのグループが進めています。
ミュージカルや映画の分析もすれば、江戸時代の歌舞伎への応用も試みる。
物理学とビッグデータを組み合わせた手法で、さまざまなヒット現象の読み解きに挑んでいます。

「口コミ」が支えるロングラン

ことし1月に国内最多の上演9000回を達成した、劇団四季のミュージカル「ライオンキング」。
人気が長続きしている理由について、友人などから直接情報が伝わる「口コミ(=直接コミュニケーション)」の力が極めて大きいという調査結果が、このほどまとまりました。
鳥取大学大学院工学研究科の石井晃教授らが、7年分のブログの書き込みなどを基に分析した結果です。
石井教授によりますと、映画などが大ヒットする場合、多くは、第三者どうしの会話など「耳に入ってくる」情報にあたる「うわさ(=間接コミュニケーション)」が、「口コミ」よりも大きく作用します。
ところがライオンキングでは、身近な人からの情報伝達の力がロングランにつながっていると考えられることが分かったのです。

開発した数理モデルは

なぜこのような分析が可能なのか。
石井教授らは、人々の「購買意欲」を「広告・宣伝」+「口コミ」+「うわさ」の合計と捉え、数理モデルを作りました。
物理学の理論を応用して、「ある時点で、ある人が、あるモノを見たり買ったりしたいと思う関心の強さ」を数値化しているということです。
「広告・宣伝」は、広告やマスコミへの登場などによる効果で、物理学で言う「外力」(例えば地球の重力)に相当すると考えました。
また、「うわさ」には、3つの電子が影響を及ぼし合う「三体相互作用」という考え方を取り入れたということです。

こうした理論的な計算に実態を反映させるために用いるのが、ブログやツイッターなどの書き込みです。
書き込みは、例えば映画の場合、一般的には公開前から徐々に増え、公開直後にピークに達したあと少しずつ減っていきます(図のオレンジ色の折れ線グラフ)。
このグラフと「購買意欲」の推移を重ねるために、「口コミ」や「うわさ」に掛ける係数を決めていきます。
こうして出来たシミュレーションが、紫色の緩やかな曲線で、ここで定めた係数の大小から、「口コミ」や「うわさ」の影響力を分析するということです。

AKBの総選挙を予想

石井教授らはこの数理モデルを使って、さまざまな分析に取り組んでいます。その1つが、去年6月に行われたAKB48の「選抜総選挙」です。
ファンの書き込みの推移などを基に、「1位と2位は僅差で大島優子さんと指原莉乃さん、3位は渡辺麻友さん」と予想しました。
指原さんのトップ争いは読めたものの、1位と2位が反対の結果に。これについては、AKB48劇場などでの活動データや、指原さんの福岡での活動実績を入れられなかったことが影響したとみています。
また、「うわさ」の係数が大きく出たメンバーが順位を大幅に上げていることから、間接コミュニケーションが人気の上昇につながったと考えられるということです。

江戸時代の歌舞伎も分析

この数理モデルを、江戸時代の歌舞伎に応用する試みも。
九州大学大学院でメディア芸術などについて研究している川畑泰子さんが、研究室の源田悦夫教授の指導を受けながら、石井教授らと共に進めています。
新たな手法による歌舞伎の分析を研究テーマにするなかで、数理モデルの存在を知ったという川畑さん。ブログやツイッターの代わりに用いたのが、浮世絵や川柳、瓦版など当時の“ソーシャルメディア”です。
美術館や博物館が公開しているデータベースなどを基に西暦1850年前後の資料を集め、いつ、どの役者に関して書いたものかを調べたうえで、分析に当たりました。
例えば当時人気が高かった八代目市川團十郎の場合、係数は「口コミ」も「うわさ」も高くなり、多くの人が評判を口にしていたことがうかがえます。
一方、七代目市川團十郎は、浮世絵などで取り上げられた数は八代目に及ばないものの、係数は同じくらいの高さになったということで、川畑さんは「市川家自体にアイドル的な高い人気があり、話題に上りやすかったのでは」と分析しています。

どこまで分析できるのか

人々の購買意欲を数値化することでヒット現象の要因を探るこの研究、ほかにも地域イベントの入場者数や人気商品の売り上げなどの分析も可能だということです。
さらに、シミュレーションを基にヒットの今後を占うこともでき、石井教授は「効果的に広告を出すうえでも役に立つ」と話しています。
一方、住宅など大金を投じる買い物については、書き込みと購入実績が一致しにくいため、分析には向いていないということです。
ビッグデータのさまざまな活用が進むなか、理論的な分析をどこまで広げることが可能なのか、今後の研究の進展が期待されます。

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