宮城沿岸小中学校・河北新報社アンケート 生活不安、子に投影
 | 校庭に仮設住宅が建つ被災地の小学校。子どもたちの遊び場は限られ、精神的なストレスや体力低下などが心配される=東松島市の宮戸小 |
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東日本大震災の被災地で河北新報社が実施した小中学校の校長アンケートは、震災から2年10カ月近くがたった現在も被災児童・生徒が震災の影響とみられるさまざまな問題を抱えている実態を浮き彫りにした。生活基盤の不安定さが子どもに悪影響を及ぼしている現状も浮かび、教育関係者は不安を募らせている。
◎ストレス、集中力低下/成績後退や不登校増
震災の影響と思われる具体的な問題は何か、を聞いた設問では、「家計が苦しい」「家庭学習の場を確保できない」「家庭内の問題で精神的ストレス」と家庭に関する項目が1〜3位を占めた。宮城県教委義務教育課の鈴木洋課長は「家庭の問題がここまで高いとは思っていなかった」と感想を述べた。
震災で親を亡くした遺児と孤児は宮城県内で約1000人に上る。親が仕事を失うなど収入が安定しない家庭は数限りない。プレハブの仮設住宅やみなし仮設などから通学する児童・生徒は現在も県内に約5300人いる。鈴木課長は「住宅、就労の問題が子どもたちの安定、学校生活の安定につながる」と語った。
アンケートでは学力低下を問題点に挙げる回答が約2割あった。昨年8月に発表された全国学力テストでも宮城県の小中学校は成績が後退し、震災の影響が指摘された。
鈴木課長は「学力低下に震災の影響はある」と述べた上で、「震災のストレスや不安感があると集中力が低下し、授業に集中できない。仮設住宅など家庭の学習環境も良くなく、吸収力が落ちている」と解説する。
「不登校増」「精神面で不安定」など内面や行動に関する項目も多かった。阪神大震災では不登校などの問題行動が3〜5年目にピークを迎えている。兵庫県教委教育企画課の野口博史指導主事は「精神面で不安定な子どもは数字以上にいると思った方がいい。子どもは元気に見えても内面は別のことがよくある」と助言する。
「その他」の回答で「クレーマーの保護者が増えた」という記述が複数あった。野口指導主事は「親がイライラすると子どももわずかなことでイライラし、それを見た親が学校に抗議するという悪循環が起こり得る」と、被災地ならではの現象に言及した。
教職員に関しては「精神的ストレス」が16%あった。宮城県教職員組合の瀬成田実書記長は「実態はもっと多い印象だ。我慢して声を上げない教職員が多いのではないか。負担を減らすため、教職員の数をもっと増やすべきだ」と主張する。
アンケートは県内の沿岸自治体15市町の245校を対象に実施した。津波で人的、物的被害があった学校と、ほとんど被害のなかった内陸寄りの学校が混在する。7割の校長が「問題あり」と答えた結果から、瀬成田書記長は「被災校以外でも、多くの学校が悩みを抱えていると見なければならない」と、問題の広がりを指摘した。
◎宮城県内沿岸部の小中学校校長に対する東日本大震災関連アンケート結果
問1 震災から2年9カ月がたちますが、あなたの学校や児童・生徒に震災の影響と思われる何らかの問題はありますか。
ある 69.2(小68.4、中70.7)
ない 23.6(小23.3、中24.0)
分からない・答えられない 7.2(小 8.2、中 5.3)
問2 問1で「ある」と答えた方に聞きます。震災の影響と思われる具体的な問題は何ですか。該当するものを全て選んでください。
児童・生徒の学力低下 20.1(小18.7、中22.6)
児童・生徒の体力低下 30.1(小34.0、中24.5)
児童・生徒の栄養バランスの悪化 4.9(小 6.6、中 1.9)
不登校児童・生徒が増えている 11.8(小 7.7、中18.9)
児童・生徒の集中力低下 17.4(小23.1、中 7.5)
クラスや学校になじめない児童・生徒が多い 6.3(小 6.6、中 5.7)
精神面で不安定な児童・生徒が多くいる 38.9(小40.1、中35.8)
校内暴力など異常行動が増えている 2.8(小 2.2、中 3.8)
学級崩壊が深刻になっている 0.7(小 1.1、中 0.0)
家計が苦しい児童.生徒が増えている 63.2(小54.9、中77.4)
住宅事情などで十分な家庭学習の場を確保できない児童・生徒が多くいる
52.1(小50.5、中54.7)
住宅事情など家庭内の問題で精神的ストレスを抱える児童・生徒が多くいる
42.4(小38.5、中49.0)
進路や将来への不安を抱える児童・生徒が多くいる
15.3(小 4.4、中34.0)
学校内で学習の場を十分に確保できない 9.0(小 5.4、中15.1)
学校内で部活動の場や遊び場を十分に確保できない
20.1(小14.3、中30.2)
仕事の負担を訴える教職員が増えている 11.8(小11.0、中13.2)
精神的ストレスを訴える教職員が増えている 16.0(小16.5、中15.1)
その他 9.0(小 8.8、中 9.4)
問3 被災地全体ではつらい体験をした児童・生徒が多くおり、今もさまざまな問題が指摘されています。被災児童・生徒の現状をどう見ていますか。
事態は深刻で、問題は長期化が予想される 58.2(小57.1、中60.0)
事態は深刻だが、解決に向かっている 23.1(小22.5、中24.0)
深刻な事態はほとんど解消している 6.7(小 7.5、中 5.3)
どれでもない 3.8(小 3.8、中 4.0)
分からない・答えられない 8.2(小 9.0、中 6.7)
問4 被災児童・生徒とその家族に対する行政や学校、地域、民間、ボランティアなど周囲による支援は十分だと思いますか。
支援は十分 2.9(小 3.8、中 1.3)
ある程度十分 42.8(小43.6、中41.3)
やや不十分 40.4(小37.6、中45.3)
全く不十分 1.0(小 0.8、中 1.3)
分からない・答えられない 13.0(小14.3、中10.7)
問5 問4で「やや不十分」「全く不十分」と答えた方に聞きます。十分でないのは何だと思いますか。該当するものを全て選んでください。
行政や民間による経済的な支援 57.0(小56.9、中57.1)
カウンセラーなど専門家による精神的なケア 37.2(小43.1、中28.6)
栄養士などによる栄養指導 1.1(小 0.0、中 2.9)
学校による学習指導 5.8(小 3.9、中 8.6)
学校による生活指導 3.5(小 2.0、中 5.7)
民間やボランティアによる学習支援 17.4(小15.7、中20.0)
民間やボランティアによる話し相手 7.0(小 9.8、中 2.9)
保護者に対する就労支援 54.7(小53.0、中57.1)
保護者に対する住宅支援 65.1(小59.0、中74.3)
その他 10.5(小 5.9、中17.1)
【注】数字は%。「小」は小学校長、「中」は中学校長
2014年01月01日水曜日