(2014年2月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ムンバイ南部にあるババラル・パテルさんの小さな紅茶店(チャイ屋)は、シリコンバレーから遠くかけ離れている。インドのシリコンバレーに相当するバンガロールとも、それほど近くない。
だが、2月のある晩、このおんぼろの店が世界最大の民主主義国インドにおける選挙運動のハイテクな側面を浮き彫りにするソーシャルメディアの実験会場になった。店の外にはテレビを見るために大勢の人が集まった。2台のテレビの画面に生放送で映し出されていたのは、野党・インド人民党(BJP)の首相候補、ナレンドラ・モディ氏がテキストメッセージで視聴者から寄せられる質問に答える様子だ。
同じような「ティーパーティー」が全国各地で開催された。紅茶売りからスタートしたモディ氏の質素な育ちと同氏の技術的な資質を強調することを狙ったイベントだ。だが、米国の大統領選挙の運動でよく見られるモバイル技術を駆使した全国イベントは、インドの政治の変化も示している。
インドの政治が変わる?
インドの選挙運動は過去何十年間も、大規模な集会とビルボード広告を中心に展開されてきた。しかし、若者の人口増加とインターネットの利用拡大、そして携帯電話の普遍性は、2014年の戦いがオンライン上でも同じように熾烈に繰り広げられることを意味している。
「ソーシャルメディア上で『いいね!』を築いていると言うことにかけて、我々は大きく先行している」。BJPでIT(情報技術)とソーシャルメディアの責任者を務めるアービンド・グプタ氏はこう話す。「デジタル技術を使って組織化が行われている。だから、もし明日イベントがあることを私が皆に伝えるとしたら、実際の会合は現場で行われるものの、フェイスブックや各種ウェブサイト、SMS(ショートメッセージサービス)、ワッツアップなどに掲載できる」
インドの国政選挙を控え、北アフリカのアラブの民衆蜂起でおなじみになったこれらのテクニックは、コミュニケーション戦略の一部として次第に重要になっている。国政選挙は今後3カ月以内に実施されなければならず、多くの人が接戦になると見ている。
グプタ氏は、各政党は主に都市部の160議席(定数545議席)を巡る「ポストモダン選挙」を戦っていると考えている。BJPのためにコミュニケーションの仕事を担う50人のチームの半数以上がデジタル選挙運動に専従している。
インドのインターネットのユーザー基盤は昨年2億人を突破し、変曲点に達した。これは13億人の人口のごく一部であり、そのため多くの人がソーシャルメディアの力を疑問視している。だが、都市部の若い有権者の間ではインターネットがずっと広く普及しており、今年初めて投票する権利を持つ若者が数百万人いる。
「すべての有権者ではなく都市部の有権者にとって、ソーシャルメディアが突如重要になっている。というのも今回初めて、都市部の若者と知識階級が選挙に夢中になり、関心を示しているからだ」と統計学者で選挙アナリストのラジーブ・カランディカー氏は言う。