ウクライナ情勢が混とんとしています。ロシアにとって天然ガスの輸出は最大の外貨獲得手段であり、天然ガスの大半はパイプラインで欧州に届けられています。EUの消費する天然ガスの25%はロシアから供給を受けており、その8割がウクライナを通過します。

過去にウクライナとロシアが揉めたとき、ロシアはパイプラインの圧力を下げて交渉のレバレッジを得るということをしました。

今回もパイプラインが争いの焦点になる危険性があります。

その場合、欧州各国はスポット市場でのLNGの調達を強化することも考えられます。天然ガスのスポット市場は未だ歴史が浅く、プレーヤーの数は限られています。

天然ガスは今世界で最も重要が急成長しているエネルギー源です。天然ガスが注目される理由は:

1)確認埋蔵量(60年分)が多い
2)価格が安い
3)他の化石燃料に比べてクリーン(石油より二酸化炭素の排出量が3割低い)


という三点によります。液化天然ガス(LNG)は天然ガスを運搬する際のひとつの方法です。パイプラインより仕向け先の自由が利くし、遠い処へも運べるため、天然ガス需要全体の伸びよりも三倍近いペースでLNGは伸びています。

天然ガスは持ち運びが難しかった関係で、生産地によって価格の差が大きかったです。なかなか裁定がきかないコモディティだと言う事も出来ます。しかしLNGの普及は価格差の是正に今後寄与すると考えられます。

天然ガスを液化するLNGプラントのキャパシティは2016年までに38%成長すると見られています。若しそれが実現すれば、LNGを運搬する方法、つまりLNG船の需要も増えるべきです。現在の受注残から逆算されるLNG船のキャパシティの増加は、液化するプラントの拡張計画に追いついていません。

LNG船の運航は極めて高い安全基準を満たす必要があるのみならず、技術的な要求度が高く、その分、コモディティ化していません。



世界の全てのエネルギーに占める天然ガスの比率は24%で、天然ガス市場は巨大なマーケットだと言えます。しかしもう少しよく見ると天然ガスの大部分は生産地に近いところで消費されており、柔軟性がありませんでした。

LNGは送りだす方も受け取る方も大がかりな装置を必要とするため、長期の安定的な需要家に向けて、1対1で固定的な契約を結ぶのが一般的です。従って天然ガス契約の大半は長期契約でした。

しかし長期供給契約で提供される量以上の天然ガスが必要になった場合(一例:福島第一の事故)スポット市場から天然ガスを買うことになります。スポット市場は年々拡大しており、今では全体の3割近くにまで発展しています。

LNG船のオーナーは、かつてはカタール・ガスのような生産者である場合が多かったです。また伝統的海運会社もLNG船のオペレーターとして幅を利かせていました。

しかし最近ではLNGの運搬に特化した独立系LNG運搬業者が増えています。具体的には:

ゴーラーLNG(GLNG)
ティーケーLNG(TGP)
ギャスログ(GLOG)


などです。

Market Hackではずっと昔にカタールの天然ガスの輸送業者であるティーケーLNG(ティッカーシンボル:TGP)を紹介しましたが、これは所謂、MLP(マスター・リミテッド・パートナーシップ)で確定申告の仕方が違い、面倒です。

そのためパートナーシップという企業形態ではない株の登場が待たれていたわけですが、ギャスログ(ティッカーシンボル:GLOG)という銘柄が2012年に新規株式公開(IPO)されました。

同社は2010年に創業された若い会社で、登記はモナコです。現在12隻のLNG船を所有しており、それらは主に英国のBGグループ(=昔のブリティッシュ・ガス)にチャーターされています。

今年4月に韓国のサムスンに発注してあったLNG船がいよいよ納品になる見込みです。合計7隻発注してあるうちの最初の船です。

これらとは別にギャスログはサムスンが建造する次の6隻のオプションを持っています。いま世界でLNG船を建造するノウハウを持っている造船所は限られており、LNG船が不足した場合はギャスログが最も自由になるキャパシティを持っていることになります。

同社は創業して間もないので、財務的なトラックレコードは限られています。しかしキャッシュフローは潤沢ですし、純利益マージンも30%と、すごく儲かっています。

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(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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