(画像:神戸新聞)
こんにちは。弁護士の吉村です。
本日も労働問題に関する実務について弁護士としてコメントをさせていただきます。
本日の労働問題のトピックは,籾井勝人NHK会長による辞表強制にNHK理事らは対抗できるか?です。時事ネタです。
既にマスコミを賑わしていることですが,就任会見で「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」「慰安婦はどこの国にもあったこと」など政治的中立性を疑われる問題発言を行った籾井勝人NHK会長(70)。会長就任直後、NHK理事らに辞表を書くことを強制していたことが25日衆院総務委員会で明らかになりました。本年1月25日,臨時役員会で籾井氏が「あなた方は前の理事長が選んだ。今後の人事は私のやり方でやる」と、理事らに辞表の提出を求めたそうです。総務委に参考人として来た塚田祐之専務理事ら10人は、「日付を空欄にして、署名、捺印をしたものを提出した」と証言したとのことです。これは,「俺の意に沿わない奴は辞めてもらう。」という趣旨で辞表を提出させたと考えて間違いなさそうです。なお,籾井会長は27日の衆院総務委員会で、「それぐらいの覚悟でやってほしいという気持ちだった。辞表をむやみやたらと使って、脅すようなことは一切しない」と述べたとのことですが,極めて不合理な弁解ですね。辞表を出させるなどという行為は常識的には脅し以外の何者でもないという,普通の見識がないのでしょう。
このNHKの問題は,NHKが放送法に基づく法人であり,辞表を出したのがその理事である点が特殊ですが,民間企業の労働問題実務でも,このような辞表強要はしばしば起こりえます。例えば,会社でトラブルに巻き込まれ,「辞表を提出して,反省の意思を示せ!」などと命じ,退職を余儀なくされることを避けたいとの思いから辞表を預ける,というような場合です。この種事案について弁護士として労働審判に対応することもあります。
では,不本意ながら辞表を提出させられた場合,会社への対抗策はあるのでしょうか?
解 説
1 辞表の撤回ができるか?
退職届は,会社が承諾する前であれば,申込みの意思表示を撤回することは可能です。
この点は,過去のブログの中で既に解説しましたのでそちらをご覧下さい。
>>「新垣隆さんは桐朋学園に提出した辞表を撤回できるか?」http://roudoumonndai.doorblog.jp/archives/37175786.html
2 その気がないのに提出した辞表の効力
辞表が受理された後であっても,労働者の退職願の提出について,それが真実退職する意思を有するものでないことを使用者が知っているかあるいは知り得べき場合には,その退職の意思表示は無効となります(民93条但書)。
裁判例でも,学内の人間関係のもつれから,学長から謝罪しないと大変なこととなる,勤務を続けたいならそれなりの文書を提出するようにといわれたため,反省の色が最も強い文書がよいと判断して退職願を作成提出したものの,提出の際に本当に退職してしまうのかとの質問に,「汚名を挽回するためにも勤務の機会を与えてほしい」と述べていた事案について「退職願は,……退職を余儀なくされることをなんとか回避しようとして作成されたものにすぎず,しかも,……大学もこれを承知していたことが明らかである」として,解約合意に関する申込みの意思表示は,心裡留保に該当するが,大学は真意を知っていたものであるから,無効であるとされています(昭和女子大学事件・東京地判平4.12.21・労経速1485.8)。
3 辞表の強要はパワハラにあたるか?
(1) パワハラとは?
まず,職場のパワーハラスメント(パワハラ)とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」※と定義されています。
(2) 今回のNHK問題について
今回,臨時役員会で籾井氏が「あなた方は前の理事長が選んだ。今後の人事は私のやり方でやる」と理事らに辞表の提出を求めたとのことですが,そもそもNHK会長といえども法律上の理由無く理事をクビに(罷免)したりすることはできません(放送法54条,55条)。理事に対し,その方針を強制したり,ましてや辞表の提出を強要する権限は全くないのです。また,不本意にも辞表を提出させられたことにより,理事らは自由な意思に基づいてその職責を全うすることができなくなるばかりか,屈辱以外の何者でもなく,精神的苦痛を被ったことは容易に想像できるところです。従って,籾井氏が辞表を提出させた行為は,パワーハラスメントに該当し,不法行為として損害賠償責任を負うと考えられます。
※平成24年1月30日厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」
【詳細な解説は公式サイト】
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