WEB特集
検証・行政の災害情報ツイッター
2月27日 15時00分
道路の通行止めは出ているのか? 避難場所はどこか?
2月14日からの記録的大雪では、行政機関によるツイッターでの災害情報発信の在り方が問われました。現場の1次情報をきめ細かく発信した出先機関があった一方で、中央官庁による発信に課題も見えてきました。最新の情報を広く伝えるには何が必要なのか? 経済部・山下和彦記者が解説します。
現場から刻々と
立往生する車、吹雪の国道……。画像を交えて現場の状況を刻々と伝えたのは、山梨県にある国土交通省の出先機関「甲府河川国道事務所」です。その情報発信は今回大きな注目を集めました。
時間を追うごとに悪くなる道路の状況のなか、車の立往生が各地で相次ぐと、「避難場所」を連続して投稿していきました。具体的な場所を挙げて紹介し、地図へのリンクも貼りました。
甲府河川国道事務所のツイッター担当者は6人。14日から週明けにかけて交代しながら24時間体制で発信を続けました。投稿数は14日から16日の3日間でおよそ100件にも上りました。
ツイッター開設のきっかけは平成24年12月の中央道・笹子トンネルの事故で、う回路を紹介するものでした。その後も道路や河川の状況を継続的に発信。こうした経験が今回の機動的な情報発信につながりました。「フォロワー」は8日時点では1000ほどでしたが、14日以降急増し、現在は5000に達しています。
担当者によると、ツイッターでの情報発信は上部組織の指示を待つことなく現場の判断で実施。今どこで道路が通れなくなっているか、監視カメラで状況をチェックしながら、投稿内容を決めていきました。「現場だから分かるリアルタイムの1次情報を必要としている人へ」。そうした使命感があったといいます。
後を追う動きも
同じころ、別の出先事務所でも積極的な発信が始まっていました。栃木県の「宇都宮国道事務所」です。内容はやはり、道路の状況を画像とともに刻々と伝えるものでした。
実はこちら、甲府河川国道事務所の手法をそのまま取り入れたものです。宇都宮国道事務所では、以前から甲府の事務所がツイッターを活用しているのを知り、今回新たにアカウントを開設。甲府の担当者と連絡を取って画像添付などのノウハウを学びました。その結果、15日と16日ともに200件を超える膨大な投稿を行うまでになりました。
担当者によると、見ていた人から感謝の声が多く寄せられたということです。この宇都宮や甲府の事例を参考に、ほかの国道事務所でも、新たにツイッターを始めようという動きが出ているそうです。
中央官庁は
一方、東京・霞が関の中央官庁の情報発信はどうだったのでしょうか?
2万4000のフォロワーを抱える「国土交通省」本省のツイッターが、大雪情報を発信し始めたのは、16日・日曜日の午後3時を過ぎてからでした。しかも、最初の投稿は概況を記したPDFファイルへのリンク。結局16日の投稿は2件。翌17日・月曜日も大雪関連は5件にとどまりました。
それもそのはずで、国土交通省のツイッターは本来、ホームページの更新を紹介するのが主な役割。災害時の細かい情報発信までは想定していませんでした。今回、大雪の被害拡大を受けて道路情報を出し始めましたが、やはり限界がありました。
また、防災対策を取りしきる「内閣府防災担当」のツイッターも、投稿を始めたのは16日の午後。翌17日以降は、国道事務所やほかの官庁の投稿をリツイートで紹介するようになっていきましたが、出先機関に比べるとややスタートが遅れました。
情報収集の動きも
ツイッターが「情報発信」だけでなく「情報収集」に使われたケースもありました。ここで登場するのは「自治体トップの個人アカウント」です。
「除雪ができていないという情報も入ってきています」……。長野県佐久市の柳田市長が個人のツイッターでつぶやくと、市民からさまざまな情報が画像付きで寄せられました。
こうして集まった情報は、大雪の状況把握や除雪の手配に役立ったといいます。
情報収集に役立ったのは、「個人アカウント」だった点が大きいといえます。行政の公式アカウントは双方向のやり取りを想定していないので、情報収集には限界があります。これに対して、トップの個人アカウントを使えば比較的自由なやり取りが可能で、機動的な対応が実現できたというわけです。
今後の課題は
こうした事例を踏まえて、行政の災害ツイッターの課題を挙げれば、以下の3点にまとめることができます。
(1)「きめ細かい1次情報発信の強化」
雑多な情報が飛び交う災害時は、信頼できる情報が求められます。このため公的機関の1次情報は重要で、より積極的な発信が欠かせません。
(2)「巨大アカウントによるリツイート」
現場が細かい情報を発信してもフォロワーが少なければ伝わる範囲も限定されます。このため、多くのフォロワーを抱える中央官庁の巨大アカウントが「情報のハブ」となって、リツイートで拡散するのが有効です。現場と中央の「役割分担」が必要です。
(3)「日頃からの情報発信」
平時にやっていないことはいざというときにできない、とよく言われます。アカウントが休眠状態の行政機関も多くありますが、日頃から情報発信で担当者が習熟しておくのは重要です。また、甲府に習った宇都宮の事例のように、組織間でのノウハウの伝授・蓄積も必要でしょう。
官庁や自治体が災害情報発信にツイッターを活用するきっかけになった東日本大震災からまもなく3年。伝達手段を「複線化」して、いち早く情報を届ける…。その目的を達するためにも、日々の実践を通じて「発信力」を磨いていくことが欠かせません。