安倍政権が新しいエネルギー基本計画の政府案を決めた。

 昨年末の原案から少し手直しがあったものの、焦点の原発については依存度を「可能な限り低減させる」としながら、何の手立ても示していない。

 これではとても「基本計画」とは言えない。

 原発による発電の比率は、原子力規制委員会の審査状況が見通せないため、具体的な数字が盛り込めないという。

 私たちは社説で原発ゼロを目指すべきだと主張してきた。安倍政権は原発維持の立場だが、「減らす」というからには、数字が出せなくても、その手順を示すのは最低の条件である。

 ところが、政府案は「規制委の判断を尊重し、再稼働を進める」というだけだ。

 福島第一原発の事故が起き、規制が強化された。おのずから動かせる原発の数は減る。それ以上のことは何もしないなら、ただの現状追認でしかない。

 使用済み核燃料を全量再処理する核燃料サイクル事業も、行き詰まりを直視せず、相変わらず「推進」とうたっている。

 詰める点はほかにもある。

 老朽化した原発を円滑に閉めさせるため、政府は何をするのか▼30キロ圏内の自治体に義務づけた防災計画を再稼働の判断にどう位置づけるのか▼使用済み核燃料棒の保管場所を確保できる見通しがたたない原発は、その段階で運転を止めさせるべきではないか……。

 電力市場の活性化も原発と密接に関連する。

 電力会社は原発の再稼働をにらみ、老朽化して燃料効率の悪い火力発電の建て替えに動こうとしない。政府が原発以外への電源へシフトさせる策を示さなければ、代替電源の開発は進まない。化石燃料費の圧縮にもつながらない。

 原発への回帰は、再生可能エネルギー事業者など新電力にとっても投資意欲を失わせる。当面のコスト競争では既存の原発が有利だからだ。政府が原発の低減に強い意志がないと見れば、リスクをとって新規参入したり、新技術を開発したりしようという企業は出てこない。

 原発は政府の支援がなければ成り立たない電源だ。事故の反省をもとにエネルギー計画を立てる以上、まず政府自身が原発に偏ってきた政策を改めるべきだ。そうしない限り、政権が進めようと意気込む電力改革も挫折する可能性が高い。

 政府案はこれから、自民、公明両党のワーキングチームで議論するという。国民がしっかり見ていることをお忘れなく。