強制連行:提訴 中国当局が受理可否判断

毎日新聞 2014年02月26日 20時45分(最終更新 02月26日 23時26分)

 【北京・工藤哲、井出晋平】日中戦争時に強制連行され日本で過酷な労働を強いられたとして、中国人被害者や遺族が26日、日本コークス工業(旧三井鉱山)と三菱マテリアルを相手取り北京で起こした訴訟は、裁判所が受理すれば中国で初めての強制連行訴訟となる。原告団には北京市や河北省、山西省、上海市の弁護士もおり、訴訟は中国各地に広がる可能性がある。中国側は歴史認識問題での日本政府の対応を見ながら、受理の可否を判断するとみられる。

 原告側は、強制連行に関わった企業は35社、被害者は3万8953人としている。

 北京市の第1中級人民法院(地裁)前には26日午前、遺影を手にした4人の遺族や弁護士が姿を見せ、訴訟を受理する建物に入った。康健(こう・けん)弁護士は事務所で記者会見し「法院の判断がいつ出るか分からないが、受理されれば勝訴する自信を持っている」と強調した。

 同様の裁判で日本の最高裁は2007年4月、「1972年の日中共同声明により、中国国民は裁判で損害賠償請求できなくなった」と初判断を示し、原告敗訴が確定した。

 訴状では、この判断に中国外務省が「無効だ」などと反発しているとし「加害企業に賠償を要求する権利はある」などとして、両社が中国・日本メディアに謝罪広告を掲載することや、1人当たり100万元(約1700万円)の賠償金を支払うことなどを求めた。康氏は「2社による被害者は9415人」と指摘している。

 中国外務省の華春瑩副報道局長はこの日の会見で「日本は責任ある態度できちんと解決すべきだ」と指摘。提訴について「裁判所が法に基づいて処理する」と述べた。

 強制連行訴訟を巡っては、中国の銭其●(せん・きしん)外相(当時)が95年、「共同声明で放棄したのは国家間の賠償であり、個人の賠償請求は含まれていない。被害者が日本企業に賠償を求めることについて中国政府は干渉も阻止もしない」との見解を示している。ただ、これまで中国側は日中関係を考慮し、こうした提訴の動きを抑えてきたとみられる。

 仮に受理され裁判となった場合、日本企業に賠償を命じる判決が出る可能性もある。その場合に「賠償責任はない」として判決に従わなければ「日本企業が中国に持つ工場などが差し押さえられる可能性も否定できない」(日中外交筋)ため、企業にとっても新たなリスクになる。

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