強制連行提訴:日本政府 戦後補償巡り、中韓の連携懸念
毎日新聞 2014年02月26日 20時49分
日中戦争時に日本に強制連行された中国人被害者や遺族による訴訟について、日本政府は中国の裁判所が訴状を受理するかを注視している。日本政府は1972年の日中共同声明で、中国が賠償請求権を放棄し、個人の請求権も存在しないとの立場。しかし、韓国でも元徴用工が日本企業を相手取った訴訟を起こしており、戦後補償を巡って中韓両国の連携を懸念する声も出ている。
菅義偉官房長官は26日の記者会見で「日中間の請求権の問題は、共同声明後は存在していない」と述べ、個人請求権を含め解決済みとする認識を強調した。訴えられる可能性のある企業は約30社とみられ、外務省の佐藤地(くに)報道官は同日の記者会見で「関係する省庁で情報提供を図りたい」と述べ、企業との連携を密にする考えを示した。
外務省によると、中国では2003年と10年に同様の訴訟が提起されたが、裁判所が受理しなかった。ただ、日本の最高裁が07年、同様の訴訟に対して「個人の賠償請求権は放棄された」との判断を示した際、中国側は「違法で無効な解釈だ」と強く反発した経緯がある。
政府関係者は今回の提訴について「3月に開催される全国人民代表大会(全人代)で、個人の賠償問題を提起するための動きだ」と指摘した。受理・不受理の判断は全人代の閉会以降とみられ、日中関係筋は今回は受理される可能性があると分析。いったん受理されれば、同様の訴訟が中国各地に広がりかねず、日中関係の改善の機運も遠のくことになる。
戦後補償を巡っては、韓国でも日本側が決着済みと位置づける元徴用工の損害賠償訴訟が続いている。中国国内の動きに「歴史問題で日本への圧力を強めるため、韓国との連携を強化する思惑もあるのではないか」(日中関係筋)との指摘も出ている。【吉永康朗】