ハイエナ:戦時中に殺処分、剥製に 体内の新聞で確認
毎日新聞 2014年02月26日 15時00分(最終更新 02月26日 15時24分)
戦時中に動物が殺処分された大阪市天王寺動物園(天王寺区)で、戦争の愚かさを伝える「物言わぬ語り部」に新たな仲間が加わった。悲しげな黒い瞳で正面を見つめるブチハイエナの剥製。命を落とした26頭のうちライオンなど3頭だけが剥製になったと記録されていたが、このブチハイエナも戦争の犠牲になっていたことがわかった。修復作業中に体内から見つかった毎日新聞の紙面が手がかりとなった。
戦局が深まった1943(昭和18)年9月から約半年間、天王寺動物園では、「空襲時に逃げ出すと危険」との理由で猛獣のライオンやヒグマなど10種26頭が飼育員らの手で処分された。
動物園の70年史によると、主に硝酸ストリキニーネという毒薬入りの牛肉を餌として動物に与えて殺した。「処分された猛獣一覧」には、43年9月16日と22日に雄と雌のブチハイエナ2頭をそれぞれ処分したとの記載がある。しかし、剥製にしたのはライオン、トラ、ヒョウの3頭だけとされていた。この3頭は園内で今も保管されている。
天王寺動物園によると、薄茶色の毛並みに黒い斑点が交じるブチハイエナの剥製は体長130センチ。性別や年齢は不明だが、現在、園内で飼育されている成獣の雄(7歳)と同じぐらいの大きさだ。剥製は半透明のシートに覆われた状態で、園内の保存庫に戦争と関係ない剥製群にまぎれて保管されていた。
剥製の管理を担当する園職員の芦田貴雄獣医師(37)が昨年2月、傷みが進んだブチハイエナの修復作業を専門家に依頼した。数日後、専門家から「体内から木くずに交じって古い新聞が見つかった」との連絡を受けた。しわくちゃで変色した新聞には毎日新聞の題字。「大本営発表」「ラバウルへ決戦を挑む」など戦況を伝える見出しが躍る。43年11月18日に発行されたものだった。
この時期に自然死したブチハイエナはいないとみられ、動物園は戦時中に殺処分されたものと断定した。
剥製には木くずだけを詰めることが多い。芦田さんは「物が不足していた時代。木くずが足りず、新聞を入れたのだろう。それが新しい発見につながった」と振り返った。