神戸・ポートアイランドのスーパーコンピューター「京」の後継機「エクサ級スパコン」の開発が、2014年度に始まる。建設場所は京の所在地が有力。開発主体の理化学研究所(理研)計算科学研究機構(神戸市)は20年の稼働を目標に、プロジェクト準備室を設置し、始動に備える。京の100倍の処理能力を持つエクサ級の可能性と課題を探った。
「計算科学に質的な変化が起こる」。同機構の平尾公彦機構長は、1秒間に100京(エクサ=1兆の100万倍)回の計算ができるエクサ級の意義を強調する。
例えば創薬。京でも、抗がん剤の候補物質を10種類以上発見するなどの成果を挙げているが、エクサ級では分析できる化合物の数が飛躍的に増える。体内に近い条件でのシミュレーションもでき、副作用の少ない新薬開発の可能性も開ける。
ほかにも宇宙の起源の探究や風洞実験なしの自動車開発、複合災害の被害予測など、基礎科学から産業利用まで幅広い活用が想定される。「実験の後追い」から、科学現象を前もって推測する「予測の科学」へ。そうした質的な変化が期待されるという。
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エクサ級の開発は、欧州や中国も20年ごろを目標に掲げ、国際競争は激しさを増す。開発を始めるには「ギリギリの時期」というのが一致した見方だ。
京は一時、世界1位を誇ったが、現在は4位に後退した。1位奪還を期待する声もあるが、「それが目標ではない」とプロジェクト準備室の石川裕室長は否定する。
リンパックと呼ばれる現在の性能指標は特殊な連立方程式を解く速さで測るが、実際の研究に必要な能力とは異なるという。「順位が上でも速度が出ない計算機もある」と、世界のスパコン状況に詳しい神戸大の小柳義夫特命教授は指摘する。
石川室長は「重視するのは、あくまで科学的成果を出せるスパコン」と述べる。
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だが「100倍」の壁は厚い。京には、コンピューターの頭脳に当たる中央演算処理装置(CPU)が約8万個使われるが、その数を増やすだけでは実現できないという。
日本には半導体の最先端工場がなく、CPUは海外で製造する。「設計と製造が分離されるため条件的には不利」と小柳特命教授。総事業費は1400億円を見込むが、為替レートの変動によっては膨らむ可能性もある。
「京で培った経験を基に、開発に全力を挙げる」と平尾機構長。20年に向けた歩みが始まる。(武藤邦生)
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