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《 本項は前項の続きです。あらかじめ前項をお読みください。》
前項では、「 STAP細胞は自家蛍光を誤認したものだろう」と述べた。これは、全体の7〜9%というふうに、大量に存在するものの話だ。
一方、ごく少数ながら、真に多能性をもつ細胞も含まれていた、と考えられる。それが Muse細胞だ。
実は、前項で述べたように、「 STAP細胞は自家蛍光を誤認したものだろう」ということでは説明できないことがある。それは、次の二点だ。
・ 実際に胚や胎盤を形成した。
・ 実際にもキメラも形成した。
これは捏造ではあるまい。そこまで馬鹿げたことをするはずがない。
しかしながら、この二つは「 STAP細胞は自家蛍光を誤認したものだろう」ということからは説明しきれない。では、どういうことか?
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ここで出るのが、「STAP細胞は Muse細胞である」という見解だ。これならば、すべてが説明できる。
・ 実際に、肺と胎盤が形成され、キメラも形成された。
・ それらの細胞は小保方さんの方法では形成できない。(追試不能)
小保方さんの方法は、ストレスをかけて細胞を死滅させること自家蛍光を発させる方法だった。この方法では、多能性細胞はできないが、蛍光を発するものを見つけることで、「大量の多能性細胞ができた」と誤認した。
一方、小保方さんの方法とは少し違う方法で、Muse細胞ができる。これは、他の「乳酸菌による多能性細胞」(→ 前出 )でも現れたものだろう。
つまり、STAP細胞も、乳酸菌による多能性細胞も、すべては Muse細胞 だったのである。……それが真相だろう。
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では、Muse細胞とは何か? これは、「細胞内の中にもともと少しだけある幹細胞(多能性をもつ細胞)」である。
Muse細胞は、Multilineage-differentiating Stress Enduringという意味で命名されていますが、日本語にすれば「多種類の系列の細胞に分化する、ストレス耐性のある」細胞ということです。Muse細胞を見出した出澤真里先生(東北大学医学系研究科教授)は、前任地の京都大学において骨髄由来の間葉系細胞に「トリプシン」という消化酵素をかけたまま一晩放置するという「失敗」をきかっけとして、「ストレス」に強い細胞が多能性幹細胞ではないか、そのような細胞は骨髄や皮膚などの生体組織に存在するのではないか、という研究成果を発表されていました。
( → ブロゴス )
Muse細胞とは、2010年に東北大学の出澤真理教授によって発見され、藤吉好則教授が命名した細胞です。骨髄や皮膚にもともと存在するこの細胞は、「Multilineage-differentiating Stress Enduring Cell(多種系統に分化できる、ストレス耐性のある細胞)」という名前の通り、皮膚や筋肉、肝臓など多様な細胞に分化することができます。さらにiPS細胞ほどの分裂能力は持っていないため、がんになることもありません。
出澤教授は、細胞培養操作を間違えたことで、この細胞を発見したそうです。シャーレで培養している細胞に対するタンパク質分解酵素による処理を、通常では数分しか行わないところ、数時間にわたって放置してしまったのです。ほとんどの細胞は死に絶えてしまったのですが、ごくわずかに生き残った細胞が、ストレス耐性のあるMuse細胞だったそうです(図1)。
Muse細胞は、iPS細胞のように外部からの遺伝子導入が必要ないこと、そしてがん化しにくいことから、再生医療への応用が期待されています。
( → iPS細胞以外の新しいアプローチ )
こうして見ると、これを「 STAP細胞だ」と誤認したということは、十分に考えられる。
Muse細胞については上記ページが詳しいが、次の PDF もある。
→ ヒト生体に内在する新たな多能性幹細胞 Muse細胞
もっと詳しく知りたい人は、ググればいいだろう。
なお、Muse細胞についても「再現性が問題だ」と文句を言う人もいそうだが、こちらは再現性の問題はないようだ。ついでだが、すでに特許が成立している。
→ Muse細胞及び分離方法に関する基本的な特許が成立 (2013年2月22日)
なお、生後 10日間だけで成功した、という話も、「これは Muse細胞であった」と考えれば、納得できる。
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上記の話を、前項と一緒にして考えると、次のように結論できる。
STAP細胞と見なされたものは、実は、単一の現象ではなかった。次の二つの現象を一体視したものだった。(★)
・ 7〜9%の自家蛍光
・ ごくわずかな Muse細胞
この二つは、別個の現象であるが、単一の現象であると誤認した。そのせいで、次の現象があると考えた。
「容易な方法で7〜9%も出現して、蛍光を発する。しかもそのすべては、強力な多能性をもつ」
そして、その(仮想的な)現象を、「 STAP細胞」と呼んだのである。
しかし実際は、そうではなかったのだ。実際は、(★)の二つの現象があったのだ。その二つは別個のものだったのだ。そのことに気づかないまま、「単一の現象」と見なして発表したために、多大な混乱が起こった。
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ここに起こったのは、大いなる混乱だった。その混乱は、次の二つからなった。
・ 「STAP細胞は真実である」という錯覚。
・ 「STAP細胞は捏造である」という錯覚。
そのどちらも錯覚だった。では、真相は?
「STAP細胞は、真実でもなく、捏造でもなく、ただの誤認だった」
ということだ。これが真相だろう。
そして、その真相に気づかないまま、大いなる錯覚が生じた理由は、「この現象が二つの現象から成り立っている」ということを理解できなかったことによるのである。
そして、その責任は誰にあるかと言えば、世界中の全員にある。私もふくめて、今日まで、誰一人、そのことに気づかなかったからだ。
STAP細胞は、バーチャルな存在である。それは現実には存在しない虚構の存在である。そして、それをもたらしたのは、捏造ではなくて、二つの真実だったのである。
小保方さんが見出したものは、二つの別個の真実だった。そこには捏造はない。しかし、二つの別個の真実を見たあとで、脳内に「 STAP細胞」というバーチャルな存在を構築した。それを「実在するもの」と見なしたときに、錯覚が生じたのである。
そしてまた、これを「捏造」と見なした人々もまた、錯覚していたことになる。たしかに虚偽はあったが、その虚偽は、現実レベルの虚偽ではなくて、思考レベルの虚偽だったのである。それは概念的な虚偽であり、目に見えない虚偽である。だから、「捏造だ」と信じて、いくら画像を検証しても、捏造の証拠などは見つからない。その虚偽は、あくまで抽象的な虚偽にすぎないからだ。……その虚偽が「錯覚」と呼ばれる。
以上が私の判断だ。
[ 付記 ]
最後に、学術を離れて、世間的な騒動を評価しよう。
結果的には、どうか?
「大山鳴動してネズミ一匹」
というような、ただの大騒ぎにすぎなかったのか? 小保方さんは、悪人ではなくて、ただのピエロにすぎなかったのか?
それでは後味が良くない。実は、最後は、ハッピーエンドになる。
小保方さんの発見したつもりの「 STAP細胞」は、真実ではなくて、捏造でもなくて、虚構ないし錯覚だった。とはいえ、「肺と胎盤や、キメラを形成した」という実験結果は、間違っていなかったはずだ。(若山教授も確認している。)
これは、Muse細胞 による成果であったはずだ。とすれば、小保方さんと若山さんは、次の成果を上げたことになる。
「 Muse細胞は、とても万能性のある細胞である。部分的には iPS細胞や ES 細胞を越える。つまり、肺と胎盤を形成する。また、キメラ形成もできる」
→ 理研・プレスリリース(STAP細胞)
これらは、今まで知られていなかった、重要な成果である。このことだけでも、非常に大きな成果だ、と言えるだろう。他の凡百の研究者にはできなかった成果を、若くしてなし遂げた、と言えるだろう。
結局、小保方さんのなし遂げたことは、生物学の歴史を書き換えるようなことではないし、ノーベル賞クラスのことでもないのだが、世界でも超一流クラスの業績だった、と言えるだろう。
たしかに、多大な混乱を引き起こしたことは残念だったが、それは、小保方さん一人による混乱ではなくて、他の研究者たちや、大騒ぎをした世間の人々による混乱であった。その責を小保方さん一人に負わせることはできない。
結局、今回の出来事から感じられるのは、自然の不可思議さである。その複雑さの前に、人間は赤子の手をひねるように、もてあそばれる。だから今回の騒動を見て、私なりに一言でいえば、こうだ。
「自然は人間を愚弄する」
[ オマケ ]
下記項目の話はどうか?
→ STAP細胞と細胞分裂 (原理・再現性)
これは興味深い仮説だから、捨てるのは惜しい。あまりにもよくできた話だからだ。
よく考えてみると、「ストレスをかけてできたのが STAP細胞」というのを、「ストレスをかけて残ったのが Muse細胞」というふうに読み替えれば、上記項目の話はそのまま成立しそうだ。
だから、上記項目については、そのまま残しておいていいだろう。
換言すれば、小保方さんの騒動が起こったことで、多能性細胞の真実に人類は一歩近づいた、と言えるかもしれない。(上記項目の仮説が正しければ。)
人類は、自然に愚弄されつつも、自然の真実を開きつつあるのかもしれない。
・ 7〜9%の自家蛍光
・ ごくわずかな Muse細胞
の二つの真実から
「容易な方法で7〜9%も出現して、蛍光を発する。しかもそのすべては、強力な多能性をもつ」
という解釈を引き出すのは無理があるのではないでしょうか?
つまり
ごくわずかな Muse細胞うんぬんとそのすべては、強力な多能性をもつとに整合性がないと思うのですが?
STAP関連でこのブログにたどり着き、最初の方からいくつか事実誤認を指摘してきましたが、全体を通して、「(時には誤った事実を元に)仮説を立てる」→「別エントリでその仮説を確かな事実のように書き、これを元に次の仮説を立てる」→「次の仮説を……」の繰り返しが多く見られます。仮説の建て方も、専門家の端くれから言わせていただきますと、怪しげなものが多いです。本エントリに関していえば、発見から数年経つにも関わらずMuse細胞が胎盤に分化したという報告はないのに(私が知らないだけならご指摘いただければ幸いです)、「STAPはMuseではない」ではなく「Museが胎盤を作った」というありえなさそうな結論の方を、特に根拠なく選ばれています。後者を否定するのではなく、わざわざ選ぶだけの論拠を示していないという意味です。また、その他のSTAPとMuseの性質の違いも無視されていますね。それは全くもって科学的な態度ではありません。
「一事が万事」を否定されていましたが、一つの誤りの上に積み重ねられた無数の仮説は論理的に全て誤りであり(偶然真実に戻る可能性を否定はしませんが)、まさに一事の間違いが万事を否定します。
管理人様の専門は存じませんが、文章は一見中々の説得力を持ち、専門外の方々からはさも正鵠を射抜いているかのように見えてしまいます。様々な指摘を真摯に受け止め、冷静に科学的な対応をなさることを願っています。
もちろんそうですよ。「それは錯覚だ」と書いてあるでしょ。ちゃんと読んで。
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> かなりの確信を込めた結論である
私の個人的見解としての確信の表明を意味します。別に百科事典や教科書を書いているわけではなくて、一つの仮説のような扱いです。冒頭に「思える」と書いてある通り。(事実描写とは違います。)
ま、センテンスごとにいちいち「と私は思う」と書くべきだ、という人もいますけどね。そんなことを書いていたら、読みにくくて仕方ないし。
> 発見から数年経つにも関わらずMuse細胞が胎盤に分化したという報告はない
だから業績になるんですよ。報告済みのこと(既知のこと)を書くのが論文だとでも?
小保方さんの場合は、若山さんの特殊技術を使って、特殊な方法で実現しました。若山さんの特殊技術の力が非常に大きいですね。他の誰もできない精密技術だし。
> 特に根拠なく選ばれています。
本項は仮説の提出であり、その根拠を示すところまではやっていません。論文じゃないので。
> その他のSTAPとMuseの性質の違いも無視されていますね。それは全くもって科学的な態度ではありません。
それは個別論議になりますね。いちいち指摘してくだされば、検討します。
ただ、私としては、「それは小保方さんの誤解によって吸収された」と解釈しています。両者に違いがあるかどうかは関係ない。両者の違いを小保方さんが認識しなかっただろう、という点がキモです。
本項で述べているのは、科学的な事実関係ではなくて、心理的な錯覚がどこから来たかという「錯覚の原理」です。
本項が何か科学的な事実を解明したと思っているのなら、それは根本的な誤解です。本項が解明したのは、科学的事実ではありません。論文でもありません。当然ながら、どこかの学会誌に掲載されることもありません。
あなたはたぶん、本項を学術論文だと誤解しているのでは? 仮に本項が学術論文になるとしたら、掲載されるのは、生物学ではなくて、心理学か社会学の学術誌です。タイトルは「社会的ヒステリーの一考察」かな。
比喩的に説明します。
春子と夏子が同一人物だと勘違いして二人を好きになった男がいる。彼は勝手に勘違いしている。
このとき、「春子と夏子の性質の違いを無視して論じるのは科学的でない」と語っても、てんで見当違いな話となる。
ここでは「春子と夏子は同一人物だ」と主張しているのではない。「春子と夏子は同一人物だと誤認されている」と主張している。
事実ではなく心理が話題となっている。勘違いしないでほしい。
ただ残念でもあります。
>なお、Muse細胞についても「再現性が問題だ」と文句を言う人もいそうだが、こちらは再現性の問題はないようだ。すでに特許が成立している。
特許の成立は再現性を担保しないので、この文面は修正された方が良いです。
特許はその内容が事実でなくても、先行する公知な事実がなく、理にかなっていればすべて成立します。
独占権の確保のために特許出願をするので、事実に基づかないと意味がないし、実施例が有効範囲と見なされる場合が多いため、研究者はほとんど意味なく特許出願は行いませんが、再現出来るかはまた別の話です。
企業では他社に独占されないように、事実がなくても特許出願は行われます。
管理人さん,まさに私の想像した線での推論をされてきて驚きました。
ただ,OさんがWさんに渡した「STAP」細胞塊がごく稀な多能性な細胞と,微小化した死滅した細胞の塊だったに過ぎず,その筋の専門家であるWさんにも見分けられなかった,ということが通常想定できるものなのかどうか,素人には判断できません。死滅した細胞が何か変化せずに微小な細胞と見える状態が続くのかどうかも分かりません。
そのあたり,ご専門方々から有益なご指摘が得られればと思います。
↓ 修正
>なお、Muse細胞についても「再現性が問題だ」と文句を言う人もいそうだが、こちらは再現性の問題はないようだ。ついでだが、すでに特許が成立している。
速報なので後日に内容を検証すると間違っているかもしれませんが、その時は訂正すればよいのです。そういう風に眺めると楽しいですよ。
また、管理人が得られる情報量は有限(時間制限もある)なので、違う見解がある場合はそれを示唆すれば、管理人は情報を咀嚼して緩やかに方向修正しておられます。
そうでなく、考え方が間違っている!と一気に方向転換させようと試みると修羅場となってしまいます。
この辺は北風と太陽の寓話みたいなものですが(笑)。
Muse、IPS、ES、STAPを含めた幹細胞生成メカニズムの統一理論を出して、それをまとめあげた人がノーベル賞を受賞する(でしょうと普通は語尾をぼやかしますね(笑))。
緩やかに方向修正していただければ幸いです。