プロ野球・オリックスで日本一、メジャーリーグのカージナルス、フィリーズでワールドチャンピオンに輝いた田口壮氏(44)に、双方の球界の違いや魅力をつづってもらう「ポストゲームショー」の連載を始めます。熱気さめやらぬフィールドから、選手の心理やベンチの采配に鋭く切り込んでもらいます。イチロー選手と過ごした日々のエピソードにも注目です。(隔週火曜日掲載予定)
巨人、広島、西武……と12球団のキャンプを一回りして、気づいたことがあります。練習ひとつとってもチームカラーがあるのです。投げて、打ち、守るというところにどれだけ差が出るの? と思われるかもしれませんが、球団それぞれの歴史と伝統が色とりどりの花を咲かせていました。
■オリックスに息づく「外野手の伝統」
球団の伝統とはどういうことなのでしょう。私の古巣、オリックスでいうと「外野手の伝統」があります。
福本豊さん、簑田浩二さん、山森雅文さん、本西厚博さん……。前身の阪急時代から、名外野手を送り出してきたオリックスでは「外野守備だけはどこにも負けてはいけないのだ」という意地のようなものが受け継がれてきました。
そのプライドを守るための練習は厳しいものでした。一通りの練習をこなしたあとに外野ノックが待っていました。私とイチロー選手(現ヤンキース)、2人を相手にノックをしてくれるのは小林晋哉コーチ。
延々2、3時間、数にしたら何本くらいだったでしょうか。俗に「1000本ノック」といいますが、普通は内野ノックのことで、外野ノックの1000本はありえないのです。そのありえないことを私とイチロー選手はこなしていました。
■つらい1000本ノックから逃れるには…
これはつらいです。「このままでは俺たちはつぶれてしまう、ここから逃れるには」と考えた我々は「自分たちがつぶれる前に、小林さんをつぶせばいいのだ」という結論にたどりつきました。ノックは受ける方はもちろん、打つ方もしんどいものです。お互いの我慢比べならば、それに打ち勝とうじゃないか――。
2日、3日と耐えているうちに、そのときがきました。「背中が痛い。今日はノックができない」と、ついに小林さんが音を上げたのです。心のなかで「バンザイ」と叫んだ私とイチロー選手。ところが、小林さんは続けて「代わりのコーチに打ってもらうよ」。
私たちは言葉もありませんでした。向こうには代わりがいたんだ……。しかしあの練習のおかげで、私たちも「ブレーブスの外野」のバトンをつなげられたような気がします。
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