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<逗子ストーカー>不正に個人情報入手の「電話調査」野放し

毎日新聞 2月25日(火)8時0分配信

<逗子ストーカー>不正に個人情報入手の「電話調査」野放し

小浜被告が実質経営する調査会社が入るビルから資料を押収する愛知県警の捜査員。この場所でデンチョウが行われていた=東京都目黒区で2013年11月6日午前11時3分、丸山博撮影

 ◇法適用に警察苦慮

 2012年11月の神奈川・逗子ストーカー殺人事件でクローズアップされた問題点の一つに、親族らを装い電話で不正に個人情報を入手する「デンチョウ(電話調査)」と呼ばれる手口がある。背景には、毎日新聞の全国調査でも判明した住民基本台帳の閲覧制限の不徹底など自治体側の課題もあるが、自治体を標的としたデンチョウを規制する法律がなく、事実上野放しだったという側面も見逃せない。愛知県警は内部で検討を重ね、偽計業務妨害罪を適用することで規制の網をかける道を選んだ。【川崎桂吾、河津啓介】

【なくせストーカー】住基台帳閲覧制限「徹底せず」半数 主要74市区、対策に遅れ

 「妻の税金支払いが来ているんですけど、そちらの住所間違ってないですか」

 逗子事件前日の12年11月5日。被害者の三好梨絵さん(当時33歳)の夫になりすました電話の主は東京都目黒区の調査会社「アスク・ミー」の実質経営者、小浜博敏被告(60)。掛けた先は、逗子市役所納税課だった。

 「役所は企業よりハードルが低い。生年月日や名前などポイントになる情報を押さえていれば、電話1本で聞き出すのはそう難しくない」

 そう明かすのは横浜市を拠点とするベテランの探偵業者だ。同課のパソコン画面には閲覧制限の警告表示が出る仕組みだったが、それでも流出を防げなかった。愛知県警によると、小浜被告は昨年2〜8月、同様の手口で約2000回各地に電話をかけていたことが確認されているが、その9割が自治体だったという。

 しかし実は、デンチョウの対象は自治体にとどまらない。探偵業界の関係者は「調査対象者のおおまかな住所が分かったら、その人が利用していそうな商店などに本人を装って電話をかけ、会員カードなどの個人情報を聞き出す」と語る。対象者の携帯電話の番号が分かれば、携帯会社を装って「住所を確認させてほしい」などと直接電話して、本人から情報を聞き出すこともあるという。

 05年の個人情報保護法施行後、原則として個人情報の管理は厳しくなった。一方で人探しや信用調査などニーズは絶えないため、情報の価値は相対的に高まった。

 こうした実情にデンチョウで応えていた小浜被告に対し、愛知県警が当初適用を検討したのは、詐欺罪だった。実現すれば10年以下の懲役を科すことができるが、捜査関係者によると、個人情報が構成要件の「財物」に当たるかが微妙なため断念。地方公務員法違反の唆し罪も考えたが漏えいが意図的ではないとして逗子市職員自体の立件を見送ったことから、諦めざるを得なかったという。

 最終的に適用したのは偽計業務妨害罪。デンチョウが市の業務を妨害したととらえた結果だった。

 捜査幹部は「10分足らずの電話が業務妨害に当たるのか内部でも議論があった。ただ、公判で有罪に持ち込むことができれば他県警も同様の手法で摘発に乗り出すことができる。意義は小さくない」と話す。

 ◇偽計業務妨害罪

 虚偽の風説を流したり、偽計(他人を欺くはかりごと)を用いたりして業務を妨害する罪(刑法233条)。自治体や企業に対するいたずら電話やインターネットでの犯罪予告などに適用される。刑罰は3年以下の懲役または50万円以下の罰金。脅迫などで妨害する威力業務妨害罪(同234条)と区別される。

最終更新:2月25日(火)10時31分

毎日新聞

 

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