福島第一原発の事故で避難を指示されていた福島県田村市の都路地区について、政府が4月1日に指示を解除する方針を決めた。

 除染で放射線量が一定レベルに下がったことなどから判断した。いまの避難区域割りになってから初めての解除となる。

 事故から3年。帰りたい人もいれば、心配がぬぐえない人もいる。帰還を強制されるわけではないが、指示が解除されれば東京電力による精神的被害などに対する賠償は、いずれ打ち切られる。住民の複雑な思いを考えれば、素直には喜べない。

 政府もそれなりの対策は打ってきた。

 昨年6月に除染作業を終え、8月には希望者に長期宿泊を認めた。日々の生活の中で個人が実際にうける放射線量を測ったところ、おおむね年間1ミリシーベルト程度におさまっているという。

 空間線量や飲料水の測定態勢も整備した。東側に隣接する町は依然として線量が高く立ち入りできないため、地区内にコンビニを誘致し、共同商業施設や夜間診療所も新たにつくる。

 昨年末には、避難指示の解除後も戻らない住民に対する新たな賠償枠が決まった。「解除は切り捨てと同じ」との懸念が少し和らいだ面はあったろう。

 それでも、23日に市内であった住民の意見交換会では、除染や子どもの健康・教育、農作物の風評被害などへの対策に要望・不満が相次いだ。

 政府側の出席者は「これで終わりではない」と強調したが、当然だ。今後も、住民の求めに対していねいに応えていく態勢の充実を強く求めたい。

 新たに設ける「相談員制度」はその一つになる。まずは放射線や健康面での住民対応が想定されているが、もっと国や市と住民とを結ぶ包括的な役割を担えないか。

 科学的な専門性だけでなく、今後、身近に起きるさまざまな困り事や不安に耳を傾け、住民側に立って国や市へと情報をあげ、ともに解決策を見いだしていく役回りだ。

 原発被災地は、市町村や地区ごとに置かれている状況が異なり、賠償額の違いなどから住民の分断も起きやすい。「元に戻す」というより、「新たにつくる」作業が多いだけに、ここからが本番である。

 早期の避難指示解除を検討する自治体は、ほかに6市町村ある。田村市の試みがそのまま他の市町村に適用できるとは限らないが、先行例として実績をしっかり積み上げてほしい。