「うちの会社では役職定年になったら、支店に異動になる。なので55になったら、自動的に地方に転勤です。賃金は、今の7割くらいになってしまいますけど、とりあえず60まではそのままいられる。“エルダーさん”っていうんですよ。表向きは、『年上の社員に、敬意をこめた呼び名』ってことになってるんですけど、なんか……ですよね」
エルダーさん――。
大手金融関連企業に勤めるこの男性の会社では、役職定年になった社員を、こう呼ぶのだという。
「昨日まで部長だったんだから、今さら〇〇さんとは呼べないしなぁ」
「シニアスタッフって呼ぶ会社は多いみたいだけど……」
「シニアより、エルダーのほうがいいんじゃね?」
「んじゃ、敬意も込めてエルダーさん?」
そんな会話があったかどうかは知らないけれども、要は、「あなたは、現役ではありません」と言いたいだけ。しょっぱなから、つっかかり気味で申し訳ない。
“エルダーさん”なんて、線引きされた途端、 「若いみなさん。お世話になって、どうもすみませんね〜。でもね、私だって今までがんばってきたんですよ。ガッハッハ」 なんて気分にさせられるネーミングだ。
「ホント、切ない呼ばれ方ですよ。私も数年後にはエルダーさんです。でも、ホントにそれでいいのか? って思うようになりまして。オリンピックで、41歳になってもあきらめずに飛び続けている葛西選手に、感動しちゃったんです。だって、金メダル目指して、4年後も頑張るっていうじゃないですか。すっごい精神力ですよ。あんな風に、進化していけたらいいなぁって。アハハ。なんかいい年こいて、私も単純ですね」
いろんなドラマと感動があったオリンピック。 十数年前には、原田選手のジャンプに、多くのビジネスマンのお父さんが感動したが、今回は、この男性のように葛西選手と自分の人生とクロスさせ、ちょっとばかり刺激された方も多かったに違いない。
「葛西選手、かっけ〜。自分もあんな風に、進化したい」と。
そこで今回は、その“オリンピック熱”が冷めないうちに、「進化する力」について、あれこれ考えてみようと思う。