【岩蝉】きれいなお月さまの話 *R18

全体公開 2014-01-28 11:13:44 10views

 敬語なんかちょろいっていったけど、実のところ、敬語って何かよくわからなかった。でも「じゃぁ勝負しようか」と岩西がいったので、とりあえず「負けるものか」と返してしまった。
「お前が敬語を先にやめたらお前の負け、俺が先に負けたら俺の負け」
「わかった」
「あぁでもお前は初心者だから、3回までハンデつけてやるよ」
「ハンデ?」
「3回まではお前が敬語を忘れても許してやる。どうだ」
「ほえ面かくなよ」
「かかせてみせろよ」
 にやっと笑って岩西が言った。余裕の笑顔って奴だ。むかつく。俺だってやろうと思ったらできるっつうの!
「用意」
 岩西が言う。え、もう?
「スタート!」
 こうやって俺と岩西の勝負は始まった。まぁ3回もハンデがあるなら絶対まけねぇし。岩西の野郎俺をかるくみやがったな。

 
 というわけで。


「ん・・・んっ・・・」
「どうされました? キスだけで気持ちよくなりましたか?」
 気づいたらこうなってた。俺の所為じゃない。アイツが悪い。
 最初は普通にしてたと思う。でもなんか、俺があいつを呼んでるうちに「なんだかその言い方は、メイド喫茶みたいですね」とか岩西が言い出して、「ご主人様っていってみていただけますか?」とか言い出した。
「なにいってんだ・・・なのです」
「どっちかっていうと、あなたはドジっ娘メイドって感じですね」
「ドジ・・・メイド・・・ですか」
 頭の中で語尾を変換するのに時間がかかってしょうがない。罵るのに都合のいい敬語ってないのだろうか。岩西はにやにや俺をながめ、ついっと手を伸ばして頬を捕まえる。あ、と思ってるうちにキスされた。
「んっ・・・やめ、ろバカ・・・」
「おや、敬語が抜けましたよ。あと2回しか許しませんよ。お気をつけください」
「ううう・・・岩西・・・さまの・・・バカやろう・・・なのです」
「そうそう。とてもいい感じですよ」
 いいながら岩西がキスを繰り返す。脳みそがうまく回らないので何を言っていいかわからない。言い返す言葉がうまく出ない。そのまま気づけは腕の中で、岩西の手が俺の頭を撫でだす。きもちいい。撫でられるのは好きだ。キスも・・・正直嫌いじゃない。岩西の舌が入ってくるとなんかふわふわする。タバコの味がするのにも慣れてしまった。
「くちのなか、にがい・・・のです」
「ああタバコの所為ですね。申し訳ございません」
 ちっとも謝ってない口調で、岩西がいってさらに口の中をなめられる。そしてふっと唇を離して「あなたの口の中はとても甘いですよ」と言った。甘いって何だ。俺は飴なんかたべてねぇのに。何か言おうとしたけどめんどくさくなってやめる。岩西の手が、ほっぺたをつつみこんでそのまま指先が頬をつるつると撫でる。あーなんか、その気になっちゃったじゃねぇか、岩西のバカ。ええと、ええと、だからそれを。
「岩西様はバカ野郎なのです」
 罵ってみる。岩西は、ひひっと笑ってから「どういたしまして」と言った。ほめてねぇっつうのバーか!!


「さぁ服を脱いでくださいね」
 岩西が言う。逆らってもしょうがないので俺もさっさと脱ごうとする。なのに、岩西の指があっちこっちを触るから、うまく脱げない。
「ちょっと、さわるのやめろ、なのです」
「どうしてですか。気持ちよさそうですよ」
 にやにやと岩西が笑う。どうしてこいつは俺にちょっかい出すときはこうもいやらしく笑うんだろう。上から目線で言われると悔しくて、むっとする。けれど、その手は正確で、体のほうが先に岩西に従おうとする。最低だ。
「きもちよくなんか、ないの、です」
「おや。うそですか。うそはいけません」
 おしおきしますよ? 
 にやぁっと笑って岩西が言う。そういう事を言い出す岩西はろくなことをしない。俺はあわてて抗議した。
「バカ。なんでだよ。なんでそんなことされなきゃ・・・」
「はい。二回目ですね。後一回しか、パスできませんよ。がんばって下さいね」
「・・・!!!」
 黙りこんだ俺の唇にまたキス。唇をゆるくかまれて、舌で舌を撫でられて、言葉がどんどん溶ける。岩西に向かって伸ばした手があっさりと絡めとられてそのままベッドに押し付けられる。あーもー身動きできない。力が出ない。
「勝負は続いてますよ」
 岩西が念を押す。わかってる。わかってるっつうの。ええと、それは、だから。
「・・・わかって、ます」
 負けるもんか。ちょろいっつうの。です、ますをつければいいだけなんだからな。ラクショーだ。もう油断しない。むしろお前のほうが、きっと地がでるにちがいねぇし。
「いただきます」
 岩西が言う。それって敬語なのかな、と思ったけどもうどうでもよくなった。
 

 何か言ったら失敗するかもしれないから言葉にできない。岩西はさっきからずっとずっとずぅっと俺の胸とか尻とかばっかりいじって全然ちゃんとしてくれない。
「あっ・・・ああっ・・・んっ・・・うぅ・・・」
「どうしました? キモチイイですか? 言ってくれないとわかりませんよ」
「ふ、わ・・・あっ・・・あぁ・・・」
 もどかしくて死にそうだ。いつもだったらもっと早くに岩西ががーってくるのに、今日の岩西は言葉使いの所為なのか、やたらに余裕があってむかつく。さっさとしろっつうの!!
「どうしてほしいんです? 言ってくださらないとわかりません」
「んっ・・・んぅーー・・・」
 指先でちりっと胸をつままれると息が詰まった。下半身がきゅんとして切ないような変な感じ。ほんとはもっとちゃんと触って欲しいけどそんなこと言うのはなんか恥ずかしすぎて、無理。無理すぎ!
「こっちもさわりますね。好きでしょう?」
 後ろに岩西の指が触れた。ぬるぬるしたものをまとった指が、体の中に入ってくる。刺激に飢えていた俺は、それを無意識に腰を浮かして受け入れる。岩西がかすかに笑っている気がするけどぎゅっと目を閉じてるからわからない。ぬるん、と指が入ってくる。それだけで背筋がぞくぞくした。岩西の、指が、入ってる。俺の中に。そう思うとどうしようもなく、心臓が揺れる。嬉しいわけなんかないのに、岩西の指が、俺の中にあると思うと、わけもなくなきそうになる。
「キモチイイですか?」
「・・・んっ・・・あぁ・・・」
「気持ちよくないなら、やめますが」
 指が抜けていく感覚に、おもわず言ってしまう。
「・・・や、まってなので、す」
「して欲しいですか?」
 恥ずかしい。顔が熱い。でも、体がうずいてどうしようもない。悔しくて岩西をにらみつける。ニヤニヤしてるのかと思ったら意外にもやさしげな顔をしていて心臓が跳ねた。なんだよ、そんな顔するな。反則だろ。唇をかんでいたら、その唇にやわらかくキスをされた。そのままぺろぺろと猫みたいに舐められる。
「して欲しかったら、言ってください」
「えっと・・・えっと・・・」
 何をどういえばいいんだ。わからない。いつもはどうしてたっけ。岩西がチョーカーについている鎖を催促するようにゆるくひっぱる。携帯がつけられていないそれは、まるで犬の鎖のようだ。
「岩西様の指でかき回してください、ですよ」
「えっ・・・」
 そんなこと言えるわけない。ばかじゃねぇの! でも・・・でも・・・。
「言わないならここでおしまいです」
 きっぱりとした口調で岩西が言い、そのまま指が出て行ってしまう。体はもうとっくにぐずぐずになっているのに、こんなところで放り出されるのはつらすぎる。
「・・・いや、まって、なのです」
「どうしました。欲しくないんでしょう?」
「うぅ・・・岩西様の・・・」
「岩西様の?」
「ゆ、指で・・・」
「指で?」
 指って言った瞬間、またゆるりと指が入り込んでくる。ぞくっと背筋が溶ける。ゆるゆるとうごくそれと、低い笑い声にじらされすぎた理性が崩壊する。
「かきまわ、して、ください」
「よくできました」
 キスと同時に指先が踊る。俺のいいところに触れてゆるくえぐるように刺激する。チカチカと脳内で快楽がはじけて、背骨をそのかけらが落ちてきて、腰にたまっていく。呼吸がどんどん乱れて、必死に酸素を取り入れようとつたなくハァハァと息を吸う。
「あっ・・・あっ・・・あああ、ひ、ぅ・・・ん・・・」
「きもちいいですか?」
「・・・・・・んっ・・・ふあ、あああーー」
「言わないとやめますよ」
「・・・や・・・きもちいい、きもちいい・・・です」
 かろうじて敬語のことを思い出す。もどかしい。言葉も何もかも。指が増やされてもっと強い刺激がやってくる。体の中でしゅわしゅわとサイダーがはじけるみたいにあちこちで気持ちよさがあわ立っている。たまらない。溶けてしまいそう。そして期待が心臓に満ちる。ああもっと、強いものが欲しい。岩西の、アレが。岩西もそれを言わせたのだろう。俺をイかさないように、じらしてくる。もう思考なんかまともに動かない。
「岩西、さまぁ・・・し、て・・・ほしい、なのです・・・」
「何を? なにをどうしてほしいんですか?」
「おまえ、の、入れてくださ、い・・・あっもう、・・・がまんできない、のです」
 ひひひっと岩西が笑う。笑って俺の耳を食べた。耳の中を舐められ背筋があわ立つ。思わず入り込んだ指を締め付け、その刺激が俺に帰ってきて快楽の火花が散る。
「満たしてあげますよ」
 低い声が、耳の中に直接入り込むように聞こえる。
「欲しいだけ」
 俺はため息をつく。甘くもろいそれはみだらな期待に満ちている。


 ぐぬ、と肉が入り込む。そこに。熱くて硬いそれ。指なんか比べ物にならないほど、しっかりとしたそれを入れられると、どんな風になっちまうか、俺はよく知ってる。理性を削って全部どうでもよくなって、心臓が熱くなって、体の中は全部めらめら燃えて、俺の手が勝手に岩西を抱きしめてしまって、彼の名前をいっぱい呼んでしまって、壊れる。めためたのむちゃくちゃになっちまうんだ。
「あーーーあああっ・・・んっ・・・あああああ」
 ほうら、今だって。ちっとも俺の自由にならない。どろどろでぐにゃぐにゃだ。シャリンシャリンとチョーカーからつながった鎖が俺の体の震えにあわせてゆれて、かすかな音を立てている。
「まだ入れただけですよ。もうちょっと我慢してくださいね」
 イきかけた俺のそれを岩西の指が根元をつかんで到達するのを引き止める。痛みに体がびくんと跳ねた。
「はなせ、はなせ、なのです・・・ぅっ・・・ああんっんっ・・・」
 岩西が俺のそれを戒めたまま、腰を使い出す。ぐちゃぐちゃと音を立ててからだの中に岩西のそれが出入りする。肉をこすり合わせる刺激に、体が震えた。
「あああああ、あああっや、あああああっ・・・」
「気持ちいいですか?」
「い、やっ・・・やっ・・・」
「敬語使ってください。でないと負けですよ」
「けーご、や、だっもう、や、だ」
「だめですよ。ちゃんと敬語で話して下さい。でないと、ご希望にお応えできませんので」
 岩西が言う。岩西はわかってない。嫌なのは、セックスでもないし、敬語を言うことでもない。岩西が敬語を使うことが嫌だった。なんだかひどく遠くて寂しかった。
「……うぅっ…おまえなんか、しね、なの、で、す」
「そうそう。上手ですよ」
「・・・うぅ、あっ・・・もう、やっ・・・いや、です。いや・・・っ・・・あーーーあっあああ」
 その間も岩西の動きはとまらない。ぞくぞくと快楽が体を走っていく。バカになる、と思う。セックスのときはいつもだ。どうでもよくなって、いつもは絶対言いたくないことも言ってしまって、あとで後悔する。心がぐにゃぐにゃになって、何でも言うことを聞いてしまう。岩西のアレが俺の中にあって、ちゃんとおっきくなってて、俺できもちよくなるならもういいかって思考停止する。
「どうされましたぁ? 震えていらっしゃいますよぉ。ひひっ」
 岩西の口調が歪んでくる。冷たさを失っていつもの彼に近くなる。その響きに俺はちょっと安心する。ここにいるのはいつもの岩西だって、思える。
「さぁ欲しいものを言ってくださいねぇ」
 欲しいものなんか決まってる。いつだってそんなの一個しかない。お前にはいわないけど。あぁ涙ばかりがころころとこぼれていく。言うべき言葉はなんだっけ。
「せーみ、せみ」
 呼ばれるとだめだ。その名前を呼ばれると、俺はだめになるんだ。バカ西め。きっと知っててそうしてる。俺を崩して、崩壊させて、ひざまづかせて、愉しむ気なのだ。でも俺はそれに逆らえない。
「いわにし、さま・・・」
「なんですか」
 うっすら目を明ける。人を食ったような顔をした岩西が見える。でもその瞳がゆるめられれいて、まっすぐ俺を見つめている。瞳の奥にある、静かな光。なぁ、お前の瞳にみえてるのは、俺だけだよな。今だけは、俺ばっかりだよな。
「ほしい、ほしい、です」
 こういう事言ったらお前は喜ぶのかよ。なぁなぁ。嬉しいのかよ。俺のことちゃんと欲しいって思ってくれるのかよ。
「はやく・・・くれ・・・なので、す」
 俺ばっかりお前を欲しいみたいなのは嫌だ。お前だって俺におぼれればいいのに。俺は全部お前にくれてやってるんだから、お前だっておれにくれてもいいじゃねぇか。
「はやく・・・ぅ・・・なの・・・で・・・んあっ・・・」
 言葉尻が岩西の唇に食われる。呼吸ができなくて、もがく。上も下も岩西が入ってる。お前ばっかりだ、俺の中は。心臓も脳みそも、体も全部おまえばっか。ほんとうに忌々しい。「岩西様ってもっかいって、みろよ」
「いわにし、さまぁ・・・いわにしさま・・・あっあっ・・・イきたい、です」
 体の中の熱が爆発しそうに高まる。もうちょっと、もうちょっとで、イける。何を言ってもいい。だから頂戴。はやくちょうだい。もっとすごいことして。
「イかせてくださいって、言えよ。いってみろ、蝉」
 その声だけで俺はイキそうになる。ああ鼓膜までお前に犯される。もっと呼んで、俺の名前を呼んで。岩西が鎖を引く。むりやり上を向かされ、俺は彼の唇を受け入れる。いつもは携帯がつながっているそれの端は岩西の腕にぐるぐるまきついている。携帯ではなく、岩西が直接つながっている。熱っぽく呼ばれる。何度も。俺は壊れる。壊れていく。
「蝉、蝉」
「イかせ・・・て・・・くださぁ・・・あっ・・・いわにし、さ、まぁ・・・」
「上出来ですよ」
 低い笑い声。ぎゅっと抱きしめられる感覚。こねくられる粘膜。もう声も出ない。出さないでいい。もっとつないで、つないで欲しい。深く、どうしようもないほどに。何度も鼓膜が彼の声に犯される。蝉、蝉、蝉。呼ばれるたびに、きらきらときらめく星のかけらが体の満ちて、どろどろした欲望と混ざり合って化学反応を起こし、甘い蜜となってこぼれる。こぼれる。こぼれる・・・!!


「で、勝負は俺が勝ったよな?」
「いいや、俺の勝ちだろ」
「お前どっかで敬語ぬけたんじゃねぇの」
「証拠あんのかよ」
 暴力的な熱がさると、いつもどおりの時間が戻ってくる。なんとなく俺が勝ったような気がするんだけどなぁ。困ったことに覚えていない。でも負けた覚えもない。
「俺の勝ちだ」
 岩西がしつこく主張する。俺も負けじと「俺もちゃんといえてた」と主張する。岩西は「お前の敬語はそもそも間違ってるんだって」などと言い出した。
「はぁ? なんだそれ」
「お前の敬語がおかしくて面白いからほっといただけで、敬語的には間違ってるから俺の勝ち」
「い、岩西最低!! 最低すぎ!!」
 そんなの俺にはわかんねーじゃんか。最初から真面目に勝負する気がなかったなコイツ!!! やっぱり俺で遊んでるだけじゃねーか。バカ西。死ね。最低!!!!
「じゃぁ正しい敬語ってなんだっつーんだよ!!!」
 俺がそう叫ぶと岩西は、ついと俺の瞳を覗き込んでこう言った。




「私はあなたを愛しています」




「そ、そんな事言われたって、嬉しくなんか、ないんだからな!!!!」


 こうして勝負は曖昧になった。



 おしまい

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百合山百合子
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