ダニチーズのダニはナニ?

ブログ名にAcarologist(ダニ学者)という単語を使っているのに,過去の記事を見ると,装置やお酒に関することばかり・・・.肝心のダニについてあまり書いていませんでした.

 

そこで,今回はダニの話.

 

以前,ツイッターで「ドイツのダニチーズ村に行ってきた」というめちゃめちゃ興味深い報告をされたメレ山メレ子さん.

 

 

そんな(喉からダニが出るくらい羨ましすぎる経験をされた)メレ山さんから,先日以下のDMをいただきました.

 

「このダニチーズのダニはナニよ?」(・・・実際はもっともっと丁寧です)

 

ぼく自身とても興味があったので,その正体を探るべく,貴重なお土産のミルベンケーゼを分けていただきました.袋を開けると,何とも言えない芳醇な香り・・・.その香りに誘われて,近くにいたB3Hさんと早速(ダニごと)パクッと試食.昼から重めの赤ワインをドボドボ&グビグビいきたくなるような深い味でした.

 

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実体顕微鏡を覗くと,デコボコのトンネル状の表面には元気なダニ(コナダニ)がわんさかいました.白くて細かいモノは脱皮殻や排泄物など.

 

 

動画の方が,キモカワイさが伝わりますね.

 

ちっさなダニを同定する際は,プレパラート標本を作製する必要があります.ただ,ぼくは10年近くダニを研究しているにも関わらず,恥ずかしながら,これまで一度も作ったことがありません・・・.そこで,これは良い機会!と,同室のK先生にお願いして,標本作りをレクチャーしてもらいました.

 

用意する主なモノは,スライドグラス,カバーグラス,ホイヤー氏液です.詳しくはココをご参照ください.

 

スライドグラスにホイヤー氏液を少量垂らし,その中にダニを沈め,空気が入らないようにカバーグラスを上からそっと被せます.すると,そのカバーグラスの重みでジワジワとダニから体液が抜けていき,次第にぺしゃんこ(かつ,透明)になっていきます.コナダニはハダニよりも硬いようで,つぶれるまで少し時間がかかりました(それでも数十秒程度).

 

その後,数日加温して固定します.最後に,保存のためのマニキュアをカバーグラスの周辺に塗れば,プレパラート標本の完成です.思っていたより簡単でした.

 

完成した標本を光学顕微鏡で覗くと,そこには魅力的な世界が広がっていました!

 

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成虫(オス).おなかにフクロウがいます.コレは肛吸盤(肛門近くの吸盤)です.

 

ゆるキャラと評されたメスのカワイイ写真は,後日メレ山さんのダニ記事で!

 

ダニには脚(竹みたいな節のあるヤツ)が4対あるのですが,Ⅰ脚のすぐ内側にあるのが触肢です(サソリのハサミに相当).

 

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拡大した触肢.ミクロの世界でバルタン星人(のハサミ)を発見しました.チョキチョキしているところを見てみたい!

 

さて,コナダニ専門家でもある森林総研のOさんに,この標本をお送りしたところ,「Tyrolichus sp.」と同定していただきました.いわゆるチーズコナダニ(Tyrolichus casei)ではありませんでしたが,同属でした.

 

個人的には,どこにでもいる普通種のケナガコナダニではなく,ちょっと嬉しかったです.ダニ・マニアによると,フランスのミモレットなど,ダニチーズから得られるダニの多くがケナガコナダニとのことです.現職場のG先生が以前入手されたミモレットにもケナガコナダニが付いていたようです(リンク先最下部).

 

また先日,法政大のKDN先生の研究室で,走査型電子顕微鏡SEM)を使わせてもらう機会がありました(ぼくはSEMも初体験).試しにこのコナダニちゃんのSEM像を撮ってみたところ,これまたカッコイイ!

 

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ロン毛がオシャレですね~.

 

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ジャガイモみたいでカワイイっすね~.

 

今回,ひょんなきっかけから,標本作りやSEMなど,いろんな技術を楽しく学ぶことができました(ツイッターの思いがけない偶然性はオモロイなぁ).関係者のみなさま,本当にありがとうございました!

 

ぼくは普段「ハダニ」という葉っぱに付くダニを材料として研究しているのですが,今回の経験で,またひとつ,「コナダニ」という魅惑のダニ王国の扉を開けてしまったような気がします.ダニへの興味は今後も尽きそうにありません.