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G20 成長率が問う存在感

2月24日 20時15分

河野雄介記者

G20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議が、22日からオーストラリアのシドニーで開かれ、23日に閉幕しました。
リーマンショックのあと、主な先進国に新興国を加え、世界経済安定化に向けた議論を重ねてきたG20ですが、今回は世界経済の成長率目標を設定するという異例の対応で合意しました。今回の合意の背景や課題について、現地で取材にあたった経済部・河野雄介記者が解説します。

世界経済2%以上引き上げ

「成長率目標は各国の挑戦であり、G20が成長率の数値目標を出すのは初めてだ」
議長国・オーストラリアのホッキー財務相は会議終了後、各国の報道陣を前に誇らしげに語りました。

今回の会議は、成長率目標を掲げるという異例の対応で合意しました。具体的には、20か国が全体のGDPを5年間で2兆ドル=2%以上引き上げようというものです。
G20のGDPは世界の85%を占めますので、事実上、世界のGDPを2%程度底上げする目標と言っても過言ではないでしょう。

こうした目標を設定した背景には、6年前のリーマンショック以降、先進国に代わって、世界経済をけん引してきた新興国の成長鈍化があります。
新興国は、先進国が危機対応として導入した大規模な金融緩和であふれたマネーを呼び込み高い成長を遂げてきました。
しかし、アメリカが量的緩和の縮小に動きだして以降、その構図は変わりつつあり、新興国で景気の減速傾向が強まっています。
財政悪化やインフレ、信用不安など、G20各国がそれぞれ国内に難しい課題を抱えるなか、世界経済が停滞する事態はなんとしても避けなければならない。今回、目標設定に踏み出した底流には、そうした強い危機感がありました。

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絵に描いた餅にならないか?

G20が今回、成長強化で足並みをそろえたことは歓迎すべきことです。ただ、どう実現していくか、まさに実行力が問われることになります。
G20は、ことし11月にオーストラリア・ブリスベンで開かれるサミット(首脳会議)で行動計画を策定することにしています。そこで「成長率を5年間で2%以上引き上げる」具体的な道筋を世界に示すことができなければ、看板倒れになりかねません。

日銀の黒田総裁は会議のあとの記者会見で、「日本としては成長戦略などを通じて、より高い成長の実現を目指すことで世界経済の成長に貢献していくことが重要だ」と述べました。
日本としては潜在成長率が実質で0%台後半とされるなか、現状では、いわば身の丈以上となる実質2%の成長を目指すことを掲げています。
しかし、財政状況が先進国で最悪の水準にあるなかで、財政出動による成長率アップは限界があります。
それだけに、なかなか成果が見えてこない「経済の成長戦略」を確実に実行に移し、成長力を高めていくことが国際社会に対する経済大国としての責任だと考えます。

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量的緩和縮小と新興国経済

もう1つ、今回のG20で大きなテーマとなったのが、アメリカの量的緩和の縮小が世界経済に及ぼす影響でした。
アメリカが景気回復を受けて量的緩和の縮小を進めるなか、金融市場では投資マネーを引き揚げる動きが広がり、先月にはトルコや南アフリカ、アルゼンチンで通貨が急落しました。通貨安は、輸入物価の上昇を通じて景気を悪化させかねません。
このため、今回のG20では、新興国側がアメリカの金融政策を批判する一方、アメリカはじめ先進国側は、経常赤字やインフレなどを放置してきたことが通貨急落を招いたと、意見が対立する展開も予想されました。

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G20協調姿勢をアピール

私たち報道陣は実際の会議の場に入ることができません。ただ、関係者への取材を総合すると、今回、先進国と新興国の間で厳しい意見の対立はなかったようです。
会議の合間に行われたフォトセッション(集合写真の撮影)での各国の財務相・中央銀行総裁の表情は、外向きという点を割り引いても総じて穏やかで、和やかな雰囲気が満ちていました。

このところ金融市場の動揺が納まっていること。また、新興国の中でも、通貨が急落した国と影響を受けなかった国と二極化していること。そして何より、G20の対立は世界経済にとってマイナス、ひいては自国にとってマイナスという認識が、協調ムードで終始した背景にあると思いました。
会議終了後に発表された声明では、経常赤字や高いインフレなどの問題を抱える一部の新興国を念頭に、「経済政策や構造改革の強化が必要だ」という文言が盛り込まれました。その一方で、アメリカの量的緩和の縮小を念頭に、「金融政策が世界経済に与える影響に配慮する」という文言も盛り込まれ、お互いに顔を立てた形となりました。

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G20の役割の変質

「今回のG20は、10年後に振り返ると大きな転換点を迎えた会合として記憶されるかもしれない」
G20に参加した政府関係者は私にそう感想を語りました。会議の形骸化が指摘されるなかで、今後の議論の道筋が見えてきたからです。

G20は、2008年、リーマンショックに端を発した世界的な経済危機の直後に、主要な先進国と新興国が連携して対応してきました。
その後もヨーロッパの信用不安など〝危機対応〟を大きな役目としてきましたが、深刻な危機が沈静化した今、世界経済を発展させる新たな役割が求められています。
それだけに、今回打ち出した成長率目標を実のあるものとできるかどうか。ことし秋のサミットはG20の存在意義を問う試金石になると考えます。