・うちとこの「NDL図書館送信サービス」レポ (1)-導入するまで編
http://egamiday3.seesaa.net/article/388711019.html
NDL図書館送信サービスを導入した、うちとこなりのレポの、続きです。
導入して2週間から1カ月程度時点での感触として、どうなのか。
●利用は、まあまあ多い。
うちとこでの利用は、まあそこそこかな、という具合です。人社系が主で年代の古い本の利用が多い、ていうか、”特例措置”の利用が多かったから送信サービスが多いのも当然というか。
導入してから最初の2週間くらいまでは、おおむね毎日1人の利用がコンスタントにあったという感じです。なんだよたった1人か、と思われるかもしれませんが、うちとこはそもそも利用者が限られたコミュニティの中での図書館ですから、入館者自体が少ない中での”毎日”1人はまあまあ”多い”感触でした。1日の入館者が3000人レベルの某大図書館さんに換算したら、毎日30人以上の利用がある、と見ていただければ目安となるでしょう。
●きっかけはほぼILL。
NDL図書館送信サービスを使いに来る人、少なくともうちとこのお客で言えば、「NDL図書館送信サービスを使いに来ました!」という人なんてのはまずまちがいなく、いません。初日に1人いただけです、どんなんかなっつって。
まあ↑そういう人はいないだろうとは思ってたものの、もしかしたら、例えばNDLサーチやNDLのOPACなんかで文献探索してて、あるいはグーグルなり経由で探してたら、求めている本がNDLの「デジタル化資料」になってて、でも見られないから、ってゆってうちとこに相談に来る、っていう人くらいならいるかなあ、うちの先生たちリテラシー高いしなあ、って思ってたんですけど、それで来ましたっていう人もまあいません。
ほとんどがILLきっかけです。つまり、ILLで複写や現物貸借を欲しいんだ、っつって我々のところにオーダーに来はる。それをうちらが受けてよそさんをあちこち探してる中で、古い年代やし念のためにっつって国会さんを検索すると、あ、送信サービスの中に入ってる。それをオーダーしたお客に、これこれこういうのがあってうちとこの図書館まで来てもらえればパソコンから見れるんですよ、でも来なきゃいけなくてすみません、っつって案内する。それで、やっと使いに来る。
それが9割方というか、それ以外のパターンの人をあたしはほぼ見たことがありません。ということは自力で「国立国会図書館デジタルコレクションwebサイト」や「図書館送信サービス」を使いこなせてる人は、いまのところまだいない、ということだと思います。我々スタッフが誘導してはじめて活用できるっていう仕組みだろうし、おそらく当面はこうなんだろうなって理解してます。
●だいたい複写込み。
画面見て終わって帰る、ていう人もあまりいません。だいたいのお客が、見に来て、ここからここまで複写、ってオーダーしていく感じです。
これは、うちとこがこの複写では(中の人からは)お金とってない、ってのが主因だろうとは思いますけど。
●好評:不評は、7:3くらいか(開始直後現在)
いやあすっかり便利になりましたよねえ、すばらしい、と言われる声のほうが多いです、良いと思います。でもたぶんそれは開始直後のご祝儀的な好意コメントだと思うので、ゆくゆくはそのバランスくつがえるんだろうなあって覚悟はしてます。
覚悟がいる「3」のほうは↓こちら。
●「不便だ」というまあまあの詰問を受ける。
どこが、というより、わざわざ図書館にまで来なきゃいけないことを含めて、全般的にフラストレーションが溜まるということで、まあまあの詰問とお叱りを受けるので、ごめんなさいごめんなさいと平謝りをするというお仕事がまれにあります。
ポピュラーなクレームポイント。
・図書館まで来なきゃいけない。
・平日の開館時間内のみ(註:うちとこは内部者はカードキーで夜間入館可なので、その間に使えないのが不自由)
・印刷が自由にできない。
・なんか、操作しにくい。
・なんか、探しにくい。
●初日、いきなり利用がバッティングする。
先生が来る。使えるようになったんでしょ、使わせてよ。はいどうぞ、このパソコンがそのサービス専用のやつで、こうやって使います。へーそうなんだー、じゃあちょっとしばらく見させてもらうねー。
別の先生が来る。ILL依頼した本がネットで見れるって聞いたんだけど。あっと、えー、ごめんなさいそのパソコンをいま別の先生が使ってる最中です、しばらく経ってまた来てもらっていいすか・・・。
初日にしていきなりの”混み具合”。
原因は、NDL専用の閲覧端末が1台しかないことにあります。
NDL図書館送信サービスは、どの端末からでもいいってわけではなくて、図書館の「この端末から」っていうふうに決めないといけないってなってます。で、それは別に1台じゃなくてもいいんだと思うんだけど、だからといって何台も「この端末」ってするわけにはいかない。
というのも、閲覧用端末は職員の目の届く範囲じゃないとダメとか、USBさしちゃダメとか、キャプチャしちゃダメとか、いろいろな禁止事項があります。うちとこではパソコンで論文書いたりいろいろしはるので、USBさしちゃダメというようなNDL専用パソコンを2台も3台も増やすわけにはいかんのです。ていうか、1台設けてるのだってまあまあの不自由なわけです、たぶんうちとこだけでなく、小さな規模の図書館図書室では「何々専用パソコン」みたいな余裕はそうは持てなかろうと思います。(ただでさえ”CD-ROM専用”みたいな前時代的なのも延々とメンテせなあかんし・・・)
なので、1台。となると、複数利用者がバッティングする。といっても、それほどの人気の事態はうちとこでもまだ1回しか発生してませんし、どうやら今後頻発することはなさそうですが、もしかしたら予約制にでもしなきゃいけないかも、というディスカッションはしてます。ふつーの公共・大学図書館さんならなおさらなんでしょう。
●海外からのvisitingの先生、「帰国後利用できる?」と本国に問い合わせる事案。
海外の図書館が対象になってないことについて、うちとこの外国人研究者の先生たち、帰国後困るだろうな・・・。
●「これじゃない」問題が発生する。
ある先生が「この本がほしい」とILL依頼を出して来はる。
→調べると、NDLデジタルコレクション(http://dl.ndl.go.jp/)内に収録されてて、図書館送信サービスの対象である。
→先生、これってNDL送信サービス対象なんで、図書館まで来て閲覧専用端末で見てください、ってURLをメールで連絡する。
→わざわざ図書館に来てもらう。
→もう1回デジタルコレクション(http://dl.ndl.go.jp/)のサイトで検索してもらって、見てもらう。
→先生「いや、これじゃない」
→Σ(゜д゜;).。oO(無駄足を踏ませてしまった・・・)
ご本人に特定の端末のところに来てもらって見てもらうまで、中身の具体的な確認ができないため、まあまあこういうことが起こります。
ひとつには、うちとこのリクエストにしろ、送信対象となる資料群にしろが、年代的に古く書誌事項の同定・特定が難しいケースが多いため。書名・年代・出版者もろもろが、欠けてたり似てたり同じだったり違ってたりするので、これと思って画面を見に来てもらうと、これじゃない、ってなる。
もうひとつには、それにしてはデジタルコレクション上での書誌同定が容易なつくりにはなってない、んだろうと思います。簡易書誌はAmazonみたい、詳細書誌はExcelみたいなので、ここでOPACの書誌確認できたらいいんだけどな、とは思います。
●紙ベースのやりとりをはさむ。
NDL図書館送信サービスの提供環境を全体で見ると、いくつかの”断絶”があります。
@ユーザ個人所有のパソコン
A図書館の閲覧専用パソコン
B図書館の複写専用パソコン
@≠A≠B
という具合に、@とAとBの間に断絶。
例えば、この資料のこの箇所が見たいっていうのを、ユーザが@で文献探索してて見つける、あるいは我々が見つけてここにあるんですよっていう情報をメールで@に送る。それが図書館のAで見られるからっつってユーザがAのところまでやって来るんだけど、@とAはつながってない、共用のパソコン上でメール開けないし、コピペでURL貼り付けられるわけでもないから、@で得た情報をいったん紙に書くかケータイに入れて、Aのところまで物理的に持ってきて、あらためて手で打ち込むということになる。
でもまあ、URL長々と打ち込む人ってまずいないから、たいていはもう1回キーワードかなんかで検索しなおすことになる。ここまでならOPACでの本探しとたいしてかわんないんだけど、ここで先の「これじゃない問題」と同様、書誌の同定・特定がしづらいという問題が発生するので、さっき@で一度は見つけられたあの本のあのページを、もう一度探してみようとするとなんか見つからない、もしくはなかなかたどりつけなくてイライラする、という。
で、先に「だいたい複写込み」と言いましたが、その複写の際もAとBの間で同じことが発生します。ここも断絶してるので、複写がほしい本の書名とコマ数なんかをユーザに紙で書いてもらって、うちらに渡してもらう。@ならまだプリンタから印刷もできましたが、Aはプリント禁止端末なので必ず手書きメモになっちゃう。
それをうちらがBで複写(プリントアウト)しようとするときに、同じ本をもう一度検索して目指す箇所をもう一度探しにいかないといけない。でもそりゃよっぽど慣れた人でない限りは簡単な書名しか書かないわけなんで、また見つからない。もう何回目かの、見つからない。似たような書名がたくさんある。版違い・年違いがたくさんある。あと、複写箇所が数字で書いてあるけど、ページ付だったりコマ番号だったりする。
で、すいません、もう1回確認し直してもらえますか?っていう問い返しは少なからず、ちょいちょい少なからず発生します。まあでもたいていは、もうブラウザ閉じてログオフしちゃってます、ってなる。そして、やはりもう何度目かの探しに行くが発生する。
セーブのできない大昔のRPGです、あったんですよそういうの、あれはつらかった><。
こうやってみると、ああやっぱり”どの端末からでもアクセスできる”っていう環境は偉大なんだなあって思います。アクセスできるから、というよりも、アナログな伝達が不要だから、という意味で。
で、でもじゃあOPAC検索やILLや購入依頼でだってこういうのは発生しがちなわけなんだけど、それがある程度防げるのって、請求記号とか資料IDとかISBNとかのおかげなわけなんで、そういうユニークなIDが、誰が見ても有無を言わさずそれをメモせずにはいてもたってもいられないくらいに、画面上で自己主張してくれてたら、うちとこのユーザの人たちもメモしてくれるかなあ、とか、あとそのIDから簡易検索(詳細じゃなく)できたらなあとか思ってたんですけど。でもまあそれをただ待っててもしょうがないし、そういうシステム改変って何年かに1回しかできないだろうしなので、うちとこの対応としては、「複写箇所メモ」専用の用紙に「画面のここに書いてあるこの番号をメモせよ!」と図解入りしたやつを作って、なんとかユーザさんの動きを誘導しようとしてます。永続的識別子を書け、つったってわかるわけがないので、欄内に「info:ndljp/pid/」まで書いといて、もうこのあとの番号をメモせざるを得ない状態をお膳立てしたり、とか。そのくらいしないと、何書いたらいいのかなんてすぐにはわかんないですので。
●レファレンスにとっても大吉。
でもやっぱりすげえ便利です、ということを最後に記すと、ユーザさんへの直接の提供なだけでなく、我々がレファレンスとして調べ物をするのにすげえありがたいと思います。そりゃそうです、だって、レファレンスのためにILLするわけにはいかなかった資料が、オンラインで確認できるわけですから。特定の資料を入手するために、というよりはむしろ、あれこれ悩み探しながらブラウジングするのに吉な仕組みなんだろうし。そのための百何十万冊なんだろうし。
だから、うちとこのユーザにこのサービスのニーズあるのかなあ、みたいに迷ったり躊躇したりしてる図書館さんでも、レファレンスのための強力な資料群、というふうに考えてみたら、背中がひとつぽんって押されるんじゃないかなあ、って思います。