2014年2月24日13時08分
◆図書館の本、大量に破られた
ナチスドイツによるユダヤ人迫害下で書かれた「アンネの日記」や関連書籍が都内の図書館で相次ぎ破られた事件。少なくとも36の図書館で計289冊が被害に遭っていたことが分かった。豊島区では1年前にも被害を受けていたほか、杉並区では今月3日以降に破られた可能性が高い。関係者からは「ナチスによる焚書(ふんしょ)を連想させる」との声も上がる。
豊島区によると、最初の被害が判明したのは昨年2月。千早図書館で3冊が引き裂かれていた。同5月にも目白、中央の両図書館で各2冊の被害を確認。警察に被害届を出していた。
さらに今年1月、千早図書館で再び5冊が破られているのが見つかった。昨年はカッターでスパッと切ったような跡、今年は手でびりびりと破いたような跡があり、手口に違いが見られるという。
一方、杉並区では今月3日~6日に破られた可能性が高いという。同区によると、隣接する練馬区で被害が出ていると連絡を受け、3日に中央図書館の「アンネの日記」1冊の無事を確認した。が、念のため6日に区内の全館を対象に改めて調査したところ、この本を含む100冊以上の被害が判明した。
新宿区では21日、調査範囲を広げたところ、新たに西落合図書館で「アウシュヴィッツ」に関する本が破られているのを確認した。
狙われた図書の中には、「20世紀日記抄」「小川洋子対話集」「地球の心はなに思う」など、書名だけでは関連が分かりにくいものもある。ただ、パソコンによる蔵書検索で「アンネ・フランク」などと打ち込めば、書名や著者名だけでなく、関連する内容の本を容易に探せる。杉並区では、こうした本はすべて、アンネについて記述したページが破られているという。
被害は西武新宿線、西武池袋線の沿線で目立つ。都立図書館や国立国会図書館では被害はないという。
■監視強化には慎重
各図書館では、職員による巡回を増やしたり、職員が常駐する貸出窓口前に関連本を移したりするなどの対策を講じたが、「根絶は難しい」との声もある。
西東京市図書館の奈良登喜江館長は「利用者をじっと監視するのも、本を閉架に引っ込めるのもよくない。図書館の弱点を突いたやり方だ」と憤る。
山本宏義・関東学院大教授(図書館経営論)は「監視を強めるのは誰でも自由に本を手に取れる図書館の姿にそぐわない。大多数はマナーを守っており、費用対効果の点でも見合わない」と指摘する。
新宿区立中央図書館には図書管理の厳格化を求める声が寄せられた。一方で、30代男性が「負けないで頑張ってほしい」と「アンネの日記」を寄贈したいと持参したり、40代男性が「被害に遭った本を贈りたいので書名を教えて」と申し出たりする反響もあったという。
(古城博隆、佐藤恵子)
●「ナチスの焚書連想させる」
<ナチスによるユダヤ人虐殺の歴史を伝える「ホロコースト記念館」(広島県福山市)の吉田明生副館長の話> ナチスによる焚書(ふんしょ)を連想させる行為で驚いた。非常に残念だ。今年はアンネ生誕85年で各地で巡回展を準備している。関わらない方がいい問題だと萎縮する人が出てきてしまわないか心配だ。
●腹が立つより悲しい
「アンネの日記」に関する著作が被害に遭った作家の小川洋子さんの話 本が傷つけられるのは腹が立つというより、悲しいこと。何か訴えたいことがあるのか、個人的な問題を抱えているのか、分からないが、本を破ることで何かが解消されることはなく、幼稚な行為だと思う。今はいくらでも表現方法はある。
■被害にあった図書館と本の数
館数 冊数
新宿区 3 40
中野区 5 54
杉並区 11 119
豊島区 3 12
練馬区 9 41
東久留米市 2 13
西東京市 3 10
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計 36 289
■被害があった主な書籍
アンネの日記
アンネ・フランク
Anne Frank
アンネの童話
アンネ・フランクへの手紙
「アンネの日記」もう一つの真実
アンネ・フランクからあなたに
アンネ・フランクをたずねて
母と子でみるアンネ・フランク
二〇世紀女性文学を学ぶ人のために
この人を見よ!歴史をつくった人びと伝
地球の心はなに思う
小川洋子対話集
20世紀日記抄
Tagebuch
私はホロコーストを見た
ホロコーストを次世代に伝える
アウシュヴィッツ186416号日本に死す