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強くてニューサーガ 作者:阿部正行

第三章

第12話 色々な意味のサプライズ

 そして場面は冒頭に戻る

 ロッケルトとの試合が終わった後、カイルがリーゼ達三人を連れ立って闘技場内を歩いていた。
 控室からでは試合が見れないので、用意してある観客席に向かうためだ。

 闘技場正面玄関に来るとトーナメント表が、発光の魔法で大きく目立つように光って壁に映し出されている。
 端にはカイルの名前もあり、隣のロッケルトの名前は既に暗くなってカイルが勝ち進んでいる表示になっていた。

「一回戦は何試合行われるんだっけ?」
 リーゼがカイルに尋ねる。

「全部で十六試合だ。初日の今日は八試合行われ、残りの八試合は明日らしい」
 武術祭は数日間にわたって行われ、途中で中休みの日がある場合もあり、全部で六日前後の日程で行われる。

「ねえ、なんで名前が出てないのがあるの?」
 リーゼの言う通り、出場者三十二人のうち数人分が空欄になっており、特に一回戦最終試合など両名とも空欄になっている。

「う~ん……それは所謂サプライズ枠というやつのようだ」
 武術祭案内というパンフレットを見ながらウルザが説明する。

「主に推薦枠の選手で、意外な大物選手なんかを直前まで隠すことにより、武術祭を盛り上げる為らしい」
 このサプライズ枠は事前に発表される場合もあるが、本当にギリギリの闘技場に出る瞬間まで明かされない事もある。
 この出場者が誰になるかを当てるという賭けも行われているようで、好評のようだった。
 現在出ている選手名にダリウスの名前は無いのでこの推薦枠の中にいるのだろう

「ところでセランはどうしたんだ?」
 カイルが先ほどから見かけない悪友の事を尋ねる。
 朝早くから闘技場に来ていた為今日は姿を見ていないのだ。

「ああ、アンジェラ皇女に呼び出されていたな。一緒に観戦でもしてるんじゃないか?」
「またか。相当気に入られたようだな」
 カイルがやれやれと言ったその時、歓声が一際大きくなる、どうやら第二試合が始まるようだ

「勝った方が次の対戦相手だからな……見に行くか」
 カイルにとってはこれから戦う対戦相手達の試合で、見逃す訳にはいかなかった。



 闘技場の観客席にもいくつか種類があり、皇族や上位の貴族、国賓が観戦する貴賓席から、隅の方の立ち見席まで様々だ。
 カイル達に用意されているのは配慮されているようで、皇族が見ている貴賓席の側にある見やすい、貴族や富裕層に向けたかなり上等な席だ。
 一般の客席からは離れており、食事や飲み物も用意されていて早速シルドニアが手を伸ばす。

 第二試合は順当に前評判で有利だった斧使いが勝ち、カイルの次の対戦相手が決まる。
 その後も試合は続いていき、カイルは真剣な顔で言葉少なに観戦していく。

 出場選手は人間だけでなくドワーフや獣人、リザードマンなども出ており、観客は人間であろうとなかろうと勝者には惜しみない称賛を浴びせていた。
 これは出自にはこだわらない実力主義の帝国の良い面とも言えるが、その分弱い者が虐げられやすい気風もあり、一長一短ではあったが。

「やはりそれなりに出来る連中だな」
 本日の残り試合も少なくなってきたころ、試合を見ていたカイルがそう感想を漏らす。
 人族最大規模の武術大会で、大陸中から富と名声を得ようと腕自慢が集まっているのだから当然ではあった。

「だが……想定の範囲内でもあるな、これなら」
 どうやらロッケルトが優勝候補だったのは間違いないようで、比べると予選を勝ち抜けた者達は実力的には一段下と言ったところで、今のカイルなら確実に勝てる相手ばかりだった。

「じゃあ問題はやっぱりダリウスという人?」
 カイルにリーゼが尋ねる。
 ダリウスが前回の優勝者でカイルを倒す為に出場していることは知っている。

「……いや、俺は正直、ダリウスもそこまで大した相手だとは思っていない」
 だがカイルは首を横に振る。

「え? でも前回の優勝者で帝国で一二を争う強さなんでしょ? 何か根拠でもあるの?」
「簡単さ、俺は奴を知らなかった。顔も名前もな」
 カイルの言葉にリーゼは訳が分からないと首を傾げるが、事情を知るシルドニアはピンと来たようだった。

 あの大侵攻の最中、カイルはダリウスと出会う事は無かった。
 人族の全勢力が集結せざるを得ない状況で、精鋭と言われる者全員と共に戦ったカイルと会わなかったのは、あの大侵攻を生き延びる事が出来なかったという事だ。

 勿論事情もあるだろう、実力があっても逃れられない局面に陥ったのかもしれない。
 だがそれも運を味方に出来なかったという事で、カイルからしてみればそれだけで一つ下に、精神的に優位に立ち見下ろして戦える。

 更に試合は続き、緊張していたカイルの顔も段々とやわらいでくる。
 大会のレベルが解ってきて余裕が出てきたようだ。

「……楽勝とは決して言わないが、このまま油断さえしなければ優勝自体は何とかなりそうだな。予想外の事でもおきない限りな」
 ふと漏らしたかのような、カイルの言葉。

「またそういう事を言う……」
「もはやわざと言っているとしか思えないな……」
 その呟きが聞こえたのか、リーゼとウルザがひそひそと話していた。

『さあ本日最後の試合となりました! 一回戦第八試合です!』
 司会女性の声が闘技場中に鳴り響く。
 初日の最終試合ということで、片方は推薦枠の優勝候補、もう片方はサプライズ枠となっており、観客も今日最高の盛り上がりを見せている。

『まず東門からの登場は二年前の前武術祭で準優勝のガドフリー選手です!』
 ガドフリーが紹介されると今までにないくらいに観客からの歓声が起こり、闘技場の遠く外まで響いた。

 紹介と共に東門から現れたのは線の細い、場違いと言ってもいいくらいの美形の若い男だ。
 その顔からか女性ファンも多いようで黄色い歓声も飛び交っている。

『その華麗な剣技は見る者を魅了し、前武術祭でのダリウス選手との決勝の死闘は今も語り草となっております! 今年こそとの意気込みも強く優勝候補筆頭です!』
 ガドフリーが両手を上げ爽やかな笑顔で観客の声援に応えると、声援は更に大きくなる。

『対する西門から登場はサプライズ枠の選手です! 名前は……えっとその……』
 何やら実況が戸惑い、言いよどむ間に選手が先に現れ、それまで騒がしかった闘技場内が一瞬静寂に包まれる

 赤を基調とし、鳥の羽を身体のあちこちにあしらい、舞台役者か道化師でもなければとても着ないような派手な服。
 金糸で縁取った真紅のマントが歩くたびになびき、何より目を引くのは顔の上半分を隠す仮面と帽子。
 とにかく目立つ、これから試合に臨むとは思えないような剣士だった。

『に、西門からの登場は、謎の仮面剣士! サン・フェルデス!!』
 司会の半ば自棄の紹介と共に派手な、仰々しい動作で一回転してマントを翻し、大きく片手を突き上げるサン・フェルデス。
 呆気にとられていた観客たちだったが、気を取り直すとふざけているのかと、野次や罵声が一気に降り注いだ。

『過去の経歴は一切不明! しかしアンジェラ皇女の強い推薦により出場が決まりました! その実力は未知数ですが期待が持てます!』
 だが司会からアンジェラの名が出た途端、観客が更にざわつくが野次の方は止まった。
 強者好きで良くも悪くも有名なアンジェラ皇女の推薦と言う事で、その正体はともかく実力の方が保障されたようなものだった。

 そんなざわつく観客の中、黙り込んだのはカイル達だった。
「……なあ、あれってもしかしなくても……」
「言うな、言わないでくれ……」
 ウルザの呟きにカイルが頭を抱える。

 サン・フェルデスの正体はカイル達には一目瞭然だった。
 何せ例え顔が見えなくても、手にしている剣がセラン自慢の聖剣ランドなのだから。

 カイルがちらりと貴賓席の方を見ると、アンジェラ皇女が大きく身を乗り出し、興奮気味に拍手をしているのと、何やらアンジェラを問いただしているエルドランドが見える。
 どうやらエルドランドも予定外の事のようだ。

「……ちなみにサン・フェルデスは、セランの家の隣のフェルデスおじさんの家で飼っている犬のサンから取ったと思う」
 リーゼが乾いた笑いと共に説明する。

「安易な名前じゃなあ」
 串焼き肉をかじりながら観戦しているシルドニアが呆れた声を出した。
第三章十ニ話です。

次話ですが、すでにできていますので明日投稿いたします。

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