エッチな洋風座敷童
 その日、俺にとっては最悪の一日になった。
 ドンっという鈍い音が響いたと思うと、視界がぐるぐると回り、熱いアスファルトに叩き付けられる。
 暑い夏の日差しが容赦なく照り付けてくる。
 全身バラバラになりそうな衝撃で呼吸もままならない。
 「ぉ………だい…………ぶ……しっ……」
 大きい影が俺の視界に入って来た。
 グニャリと歪み、滲む視界ではシルエットすらはっきりとは掴めず、その声も聞き取ることは出来ない。

 「なんてこと……これでは助かりませんわ。爺や、周囲の人払いを。」

 甲高い声。
 思わず聞き惚れそうな少女のソプラノボイス。まるで天使の声……そうか、お迎えが来たのか。
 「……は、はは…………」
 体が動かない。ねぇ、声だけじゃなくて顔も見せてよ。
 「し……し、……は…………お嬢さ…………」
 「構いません。大体、爺や、貴方の不手際なのですから反論は許しません。」
 あれ?本当に、都合のいい耳だな。耳障りな低い声は聞こえないのに、天使の声だけははっきりと聞こえる。
 「御免なさいね。もう、普通の手段では助けられませんの。」
 柔らかい感触が頭の後ろに感じられる。
 多分、声の主に膝枕をされているのだろう。

 「でも……そうですね。答えられる力があると思えませんが、あえてお聞きします。
 どのような姿、形であれ、生きたいと思われますか?
 それとも、このまま逝かれますか?その方が、幸せかもしれませんし。」

 無茶苦茶だ。俺は自殺志願者じゃない。なのに、人を殺しておいて、死にたいか?なんて……天使の声と思ったが、言っている事は悪魔のようだ。
 「ふざ……け……けほっ!……るな……お……れ……は、しな……な……い…………」
 生きて、あんた等に復讐してやる。
 「素晴らしいですわ。貴方、気に入りました。」
 生暖かい息が俺の首筋に近付く。それが俺の『死』を意味すると、半ば本能的に恐れ、意識は逃げ惑う。
 「わたくしは葉子。貴方には……そうね、私に対をなす者として双葉の名を贈りましょう。」
 俺の名前はそんなのじゃない。
 そう言おうとしたが、その直後、俺の意識は死の深遠へと引きずり落とされ、消えた―――

 「さぁ、滅びと隷従の運命を超えて、我が元へ―――双葉、貴女を歓迎します。」


 暖かいものに包まれたまま、どれだけ眠っていたのだろう?
 俺は確かに『自分ではない何か』に作り変えられていくのを感じていた。だが、それに対する恐怖や嫌悪感は不思議とわきあがらず、むしろ、まるで胎内のような暖かさにただ蕩けていた。
 「さぁ、目覚めの時です。ようこそ、双葉。」
 だから俺はそんな名前じゃない。
 そう思いつつ、久方ぶりの日の光を感じつつ、目を開けた。

 そこはなんと言うか、いかにもクラシカルで歳月に支えられた見せ掛けではない豪華さと質素さが共存する実に穏やかな空間だった。
 「…………ここ……は?」
 「貴女の私室として用意させました。気に入るとよいのですけど。」
 自分が暮らすには見分不相応な贅沢な空間だけど、好みに合うという点では、間違いなく。
 洋風の設えなのに、寺社仏閣のような凛とした空気と囲炉裏端の穏やかな空気が自然に調和している。
 「俺……いったい……」
 言いたいこと、聞きたいことは色々あるのに、体が全く自由に動かない。
 微かに視界に映る女性の姿。体が不自由にもかかわらず、その美しさに暫し見とれた。
 「まだ生まれたてですから、無理には動けませんわ。さ、それよりも、直ぐに支度をしませんと。」
 ちりりんとベルが鳴ると、全く同じ格好をしたメイドさんが3人、部屋に入って来た。
 「双葉に喪服を。それと車の支度をさせなさい。急いで。」
 「畏まりました。葉子様」
 言うが早いが、てきぱきと体に布が纏わり付いてくる。
 脱がす工程が無いと言うことは、俺は今スッポンポンな訳で……………
 「っっ!!ちょ、ちょっとまって…………」
 「駄目です。先ほども言いましたが急ぎませんと。」
 そんなに急かして何があるというのだ。それも喪服なんて……喪服?
 なにか、嫌な予感がした。

 「ええ、やはり勘働きが優れておりますね。
 思っていた以上に、素質に溢れた魂でしたわね。
 それは兎も角、ご想像の通り、『男性の貴女』のお葬式に間に合いませんの。」

 そんな……でもやっぱり……けど、ならなんで今、俺は生きてる?
 「あら?そういうところは鈍いのですね。まぁ、良いでしょう。道すがら説明します。」
 とは言え、動けないのだけど。
 着替えだって、ベッドに寝たまま。体の感覚も麻痺しているから、鈍いのは仕方ない。
 「おかしいですわね。普通に稼動できるエネルギーは譲渡したと言いますのに。とりあえず、これを食べなさい。」
 見たところ、チョコレートのようだ。
 口に一方的に放り込まれると、途端に溶け出す。生チョコだ。しかもかなりの高級品。口の中までは麻痺していなかったのか、甘い感じとその中にあるドロリとした液体が甘く美味しい。
 「あ……体が…………あ、熱い……」
 「ようやく、稼動できますわね。やれやれ、双葉は燃費の悪い娘ですこと。」
 「だから、俺は双葉なんて名前じゃないし、そもそも女じゃ……な……………い?」
 姿見の中には、濃紺のワンピースに赤いリボンをアクセントにした愛らしい女の子の姿。
 「う…………そ……」
 「生まれ変わり、おめでとう、双葉。私の妹にして、娘。」
 葉子という名前の少女の言葉など聞いちゃいない。俺はあまりの出来事に、気を失いかけていた。

 「あらあら。まぁ、仕方ないわね。さ、とりあえず説明は移動中にでも出来るから、急いで。」
 少し苛立った様子で俺の手を引っ張る。
 もの凄い力で引き上げられた。まだ、体の芯に痺れがあるが、動けなくは無さそうだ。
 「……こんな…………」
 まだ呆然としていると、ノックと共に初老の男性が現れた。
 「お嬢様、お車の用意が出来ております。おぉ、双葉様、ご快復、おめでとうございます。」
 恭しい態度で腰を折る。だが、その姿、態度に俺は酷く腹が立った。
 「駄目よ、爺や。流石に自分を殺した相手はわかるみたい。少し席を外して、後から行くわ。」
 「はい。では失礼いたします」
 何だと?アイツが…………俺を……?
 「ええ、けれどいきなり車線に飛び出したの貴方。恨むなとは言わないけれど、お互い様よね。」
 代わりにきちんと生き返らせたのだからと、とんでもない事を言う。
 「ふざけるなっ!そんな無茶苦茶な話があるかっ!!」
 「あるのよ。さ、いらっしゃい。今の貴女をそのまま外に出すわけにいかないようですし。」
 手を引かれて部屋を出る。
 不思議と、それだけで怒りが薄れかけ、いかんいかんと気合を入れる。

 案内された先は人形が山と置かれた部屋だった。
 「これ……は…………」
 「使い魔でもある人形達の部屋。貴女を最初の相棒をここから選ばないと。」
 全く以って意味がわからない。
 事故に会ったような覚えはある。だが目が覚めると俺は女の子の姿で、こうして訳の判らない連中の言いなりになっているなんて。
 「ええと、双葉はまだ……だから、うぅん、最近、質が落ちたかしら。」
 何かわからないが、この部屋にある人形に不満があるらしい。
 「最近は戦闘続きでそういう子が減っているのね。ねぇ、双葉。貴女、どれか気になる子は居ないのかしら?」
 双葉といわれるのは不本意だが、俺のことを読んでいるのはよく判る。
 「そんなこと言われても……人形のよしあしなんて…………」
 判るはずが無い。
 そのセリは結局、言わずに終わった。
 「…………双葉?」
 視線は一箇所で固定されている。愛らしいもの、精悍なもの、もはや人形とも呼べない異形のもの。それらに埋もれて、白い布のようなものが飛び出しており、俺は何の気なしにそれを引っ張ってみた。





 『いってぇーーなっ!ったく、こちとら出番が無いのをいい事に綺麗どころに挟まれていい気持ちでガースカ寝てたってぇのに、無粋な真似しやがるのは何処のどいつでぇ!ってコイツァ、葉子のションベンたれの嬢ちゃんじゃねーか!』

 「わっ!ゴメンっ!!」
 いきなりマシンガントークをぶちかます不気味なウサギのヌイグルミを奇妙に思うより先に、安眠妨害をしたらしいと言うことで反射的に謝ってしまった。
 「あら、腐れウサギ。随分とレア物を見つけるわね。」
 うわ、さっきとは不機嫌レベルが違うっポイ。とゆーか、このウサギ、俺をこの葉子とか言う子と間違えてる?

 『っと、こっちも葉子の嬢ちゃんじゃねーか、膜あるか?テメェ、あんなうすぐれぇ所に人様ウサギ様封印しくさってどういう了見でぇっ!!と、あれ?葉子の嬢ちゃんが二匹。するってぇと、こっちのチンチクリンは?』
 チンチクリンねぇ……と言うか、綺麗どころに挟まれていい塩梅じゃなかったのか?
 「まぁ、いいわ。その子は口は悪いけど、仕事はしっかりやるし。」
 『あったぼぉよぉ!こちとら神田の生まれよべらんめぇ!!』
 いや、似非大阪弁も聞いてて苛立つが、似非江戸訛りもちょっとなぁ……
 「腐れウサギ、貴方、イギリス生まれなのだけどね。」
 心底疲れた口調でため息をついている。はぁ……なんだか、とんでもない所にいるなぁ
 「その子を離さない様にね。とりあえず、直ぐにガス欠になる双葉の予備タンクなのだから」
 『ちょっと待てやごらぁぁ!言うに事欠いて、このチンチクリンが俺っちのマスター……って、あ、駄目お願い、ちから……』
 ヌイグルミの声が小さくなるのと入れ替わりに、俺は体が楽になっていた。


 そしてその後すぐ、豪勢なリムジンに揺られて俺の葬式が行われているとか言うその場所へ車が向かっていた。
 「で、事情を聞かせて欲しいんだけど。」
 「あぁ、そうでしたわね。」
 面倒そうにため息をつくと、衝撃的な一言が飛び出した。

 「まず、今の貴女は人間ではない。」

 「なんだ……って?」
 そりゃあ、男が女になったりするはずも無いが、それは例えばSFのような脳移植とかサイボーグ。オカルトなら憑依のようなものだと思っていた。
 「人の基準に沿って言うなら私も貴女も、人の精を喰らう魔物ですわ。」

 葉子の話は更に続くものの、その内容は容易には信じがたい。
 だってそうだろう?
 何処からどう見ても、彼女は美しい少女じゃないか。

 「まぁ、信じられないのは判ります。けれど、数日のうちには納得するでしょうね。」
 要するに食事にしても、人間と同じものは必要としない。食べられることは食べられるが、食物から得られる精では余りに量が足らないのだそうだ。そのため結局、精を啜る羽目になるからそこで納得しろと言うことなのだろう。
 「あ、けど、コイツとかあのチョコとかは?」
 不気味なウサギのヌイグルミを掲げてみせる。それと目覚めた時のあのチョコ。アレは体にもの凄い効いた。

 「腐れウサギなどの使い魔は単なる外部タンク。
 その子は貴女に譲りますが、他の子は私に必要なもの。
 使わせるわけに行きませんし、同族の魔力ばかりでは栄養が偏りますわね。」

 魔力だの精だのと、そんなものに違いがどうあるのかよく判らないが。

 「あのチョコもあまり食べつけるのはよくないですわね。
 何しろ、人の血が材料ですから。
 貴女が吸血鬼に身を落としたいなら、あえて止めませんが。」

 「血?……う、うそだろ…………」
 ザアッっと、音を立てて血の気が引いた。
 「う……げえっ!!」
 吐き出そうと思ったが、既に胃に落ちて消化されてしまっている。指を突っ込んで吐こうとも思ったが、車内でもあるので流石に遠慮した。

 「さ、つきましたわ。あぁ、丁度いいタイミングでしたわね。」
 リムジンが止まると、窓の外には懐かしい人の顔、顔、顔…………
 父さんに母さん、かつての友人達。出棺なのだろう。父さんが持っているのは俺の写真。
 「あっ……ああっ…………」
 出て行って、「俺はここに居る」と言ってやりたい。けど、それは葉子に止められた。
 「お止めなさい。双葉が信じなかったように、彼らにとって、貴女は見知らぬ少女。」
 「けど……なら、なんで…………うっううっ!!」
 「勿論、事情を理解してもらうため。それにいまだ飢えている貴女を外に出したら、彼らを惑わし、精を啜りかねない。」
 後ろから羽交い絞めにされたまま、それでもドアに手を伸ばそうと無駄な努力をする。
 けど、葉子の力は強く、俺ではどうにも出来なかった。
 「爺や、戻るわよ。車を出して。」
 一部の参列者が葬儀場の前に止まったリムジンに怪訝な顔を向けている。
 だがスルスルと動き出すと、興味を失って霊柩車に担ぎこまれる棺と挨拶をしている父さんに目を向ける。

 パァーーーーーーーーーーンッ

 出棺のクラクションが甲高く鳴り響く。
 俺にはその音が、俺と元の生活を断絶する運命の扉を閉ざす破滅の音に聞こえた。


 「………………」
 「ショックが大きすぎたかしら?」
 ちらりと目だけ彼女に向けるが、答える気力など無い。これから、俺はどうしたら言いのだろう?
 『おいおい、葉子の嬢ちゃんよぉ、コイツ、一体なんなんでぇ!俺っちの魔力、根こそぎ攫いやがって。やっと動けるようになったぜ。』
 腐れウサギが唐突に口を開く。
 「まぁ……それは。我が娘ながら、末恐ろしい子ね。」
 あ、そうだった。それも引っかかってたんだ。
 「むすめ…………って、なに?」
 「クス……貴女の体があるのに、意識だけがここにあるのは何故だと思うのかしら?」
 オカルトの世界だから、魂だけ別の体とか、そういうのではないのか?

 「似てるけど、ちょっと違うの。
 死に掛けた貴女は私の問いにどんな形でも生きることを望んだ。
 そこで私は貴女の魂、記憶を全て吸い、私の胎内で新たな体と魔力を与えた。
 だから、貴女は私がお腹を痛めた娘であり、私の分身。」

 憑依の類と違い、生まれ変わった形のため安定性も高く、高い性能が得られるのだそうだ。
 「人の子と同じく十月十日の眠りで貴女は生まれた。まさか再生の期間中、死んだ体まで抜け殻となったまま生き延びるとは予想外でしたけど。」
 そして生まれたのと同時に俺が死んだので、折角だからと葬式に連れ出したらしい。
 「生活のことは心配要らない。食事もね。ま、数日は1人でゆっくり楽しみなさいな。」
 何を楽しめというのだろう?
 こんな体になって、信じられないが人間ですらないといわれたこの体で……
 「貴女、童貞よね?ふふ、だからかもね。えぇ、ゆっくり楽しんでね♪」
 そ、そういう意味かぁっ!!
 リムジンに揺られながら、この先、自分がどうなるのやらと不安に駆られていた。


 「んっ、んあっ、ふぅ、んうっ!」
 豪華な寝室に、少女の艶かしい声が響き渡る。
 グリグリと淡く膨らんだ胸を自ら揉み、自覚したくはないが、腰はモゾモゾと動き、太ももが切なそうにすりあわされる。
 男としてこんな場面に出くわしたら、間違いなくインモラルだろうが何だろうが襲い掛かる。
 けど、今こうして喘ぎ声を上げているのは俺自身。
 あの後、屋敷に戻って自分の部屋として割り当てられた部屋に半ば監禁同然に放り込まれ、室内に得体の知れない香が焚かれた。
 今もベッドサイドで淡い紫色の煙を上げていて、俺の感覚と意識を蕩かしている。
 「ひあっ、こ、この……けむり……んあぁぁっ!」
 息をするごとにチカチカと目の奥で光が瞬く。肌に触れる布の感触が全身を羽で愛撫されているようなむずがゆさと、津波のように強力な刺激を同時に引き起こす。

 『おーおー、ほんとに元男か、テメェ!……あ、こら吸うな…………すうんじゃ……吸わないでくださいぷりーず』

 「ひあっ、あんっ、ひいっ、ひいよぉっ!」
 気持ちよさが爆発するたび、体はどんどん思うように動くようになる。
 けれど同時に、体は飢えに苛まれ、腐れウサギを抱きしめては、自然回復分の僅かな魔力を吸いあげる。
 「んふぅ、ひはぁ、すうのぉ……うさぎさん、もっろほひぃろ……」
 何度目かの皮膚を通して何かが浸透する感触。僅かに癒される飢えと、その瞬間の快感に俺は夢中になっていた。
 香には何らかの催淫効果があったのだろう。
 ほんの数分で全身から汗が噴出し、視界は狭まり、体の感覚が異常に研ぎ澄まされた。

 そんな状態から、我慢できずに自分の体を弄り始めるのは正に時間の問題でしかなく、まだ胸しか触っていないのに、俺はもう何回達したか思い出せないほどだった。
 そして今なお、汗と涎と愛液でベッドに大きな染みを作りながら、自分の体を弄り回している。

 「あぁ、ぁぁんっ、こ、これが……おれ…………ちがう……けど、けろ……きもち……いっ!」
 鏡の中では、少女が淫らに体をくねらせる。
 腰まで伸びた長い髪、整った顔、病的なほどに白い肌、大きくつぶらな黒い瞳、そして自分自身で触っても吸い付くような感触の肌と淡く膨らんだ胸、理想的なくびれを描く腰からヒップにかけてのライン。ほっそりとした手足に白魚のような指。
 それら全てが快楽と共に精を貪るために用意されたものであることが嫌でもわかる。

 「けろっ、あっ、お……れ、おと……んっ、おろこぉ……ひゃらっ、ひゃぁあっっ!」

 またも達してしまった。
 「はぁっ……はぁっ…………すごぉぃ……」

 うっとりと、ぞっとするほどに艶のある声が漏れた。それでもまだ、敏感な、俺が今まで見たことも無い部分には触れていないのだ。
 「…………ごくっ……」
 ゆっくりと、震える手が股間へと伸びていった。

 コンコン

 ビクッと震えて手が止まった。返事をするよりも早く、ドアが開かれメイドさんが入って来た。
 「双葉お嬢様。失礼いたします。」
 「あっ、こ、これは……その……」
 慌てて毛布で体を隠そうとしたが、メイドさんは俺に関心が無いのか、カートに載った料理をテーブルにおいていく。
 「では、私はこれで。お楽しみの所、お邪魔して申し訳ありませんでした。」
 メイドさんは香炉の中身を補充すると、恭しく礼をして部屋から出て行った。
 かぁぁっと顔が赤くなる。
 パタンと扉が閉じられると、ガチャと外から鍵がかけられたのが判る。まだ、ここで悶えていろということなのだろう。
 「何を考えてるんだろ……んうっ!」
 濃さを増した香が体の疼きを一層増す。
 けれど、折角の食事だ。暖かいうちに食べようと、疼きを出来るだけ無視して、テーブルに着く。
 パンとクリームシチューの質素な食事がそこにあった。
 「くんくん……おかしな匂いはしてないけど……」
 目が覚めてから唯一食べたチョコレートが人の血が材料などと言われると、これもおかしいものが使われているのかと疑いたくなる。
 匂いではおかしい所は無い。
 勿論、香炉の影響で嗅覚が麻痺している可能性はあるが。
 食べずに無視する手もある。
 しかしそれはそれで、自分が人ではないと認めることになる気がして、パンを小さくちぎって、口に放り込む。
 「……普通のパンだな。って、バターもジャムも無いのかよ。」
 そうなると、シチューにつけて食べるか、最後に皿を拭うのに使う程度で出されたかな?
 「シチュー、コイツが問題だ。」
 ホワイトクリームの中で小さく刻まれた野菜と肉のごくありふれたシチュー。
 「ホワイトクリームってのが、ヤナ予感するんだよなぁ……」
 毒を喰らわば皿まで。そんなやけっぱちな気持ちも手伝い、ズズッと啜ってみた。

 「!!」

 ある意味、嫌な予感が当たっていたのかもしれない。
 一口、口に入れたらシチューの味が口の中で爆発した。
 「あっ、ぁ゛ぁ゛、な、なんだこれっ!?」
 美味しいっ!もっと、もっとほしいっ!!
 ガチャガチャと食器が鳴るが、はしたないとかそんな意識は無い。そんなもの全裸でテーブルに着いた時点で論外だ。
 胃が満たされる規模としてはどうってことないが、何と言うか『見えない胃袋』がどんどん満たされる。
 口に入れ、喉を滑り落ちるその感触が、さっきまでの自慰に負けない快感となっている。
 「ああっ、もどかしいっ!!」
 スプーンで口に運ぶことすらもどかしく、皿を持ち上げると直接口につける。
 「んぐっ、んっ、んぶっ、んふっ!」
 皿から零れたシチューが体にかかるが、その熱さすら好ましい。それこどこのシチューの風呂に入りたいくらいだ。
 「……っぷはぁ…………」
 ヒクヒクと痙攣する体を椅子に投げ出す。
 「おいひぃ…………ぁ……もっと……」
 『くけけけけけーーーーっ、キタキタキタキターー!!魔力キターー!!』
 腐れウサギも興奮している。多分、俺に吸われる一方だった魔力とやらが、俺から供給されているのだろう。
 「んぁ……もっろ……」
 狂喜乱舞する腐れウサギを無視して、もう一度皿を抱え込んで、残っているクリームをピチャピチャと舐め取る。
 「んぅ、んっ、んじゅぶっ……んはぁ、おいひ……」
 体に付着した分も、指ですくっては口に運ぶ。
 「んっ、んっ……おいひ……んっんじゅっ」
 ペロペロ、指舐める。美味しい。もっと……
 「あ、もう無い……」
 けど、美味しかった。
 『ほれっ、チンチクリンの双葉っ!!オメー、まだ生まれたてなんだからアカンボは喰ったら寝ろっ!!』
 チンチクリン呼ばわりはちょっとムカツク。
 けど、お腹が満たされて幸せな気分に浸っていたいから、俺はそれに逆らわなかった。
 「はぁーーーい……おやふみぃ…………くぅ」
 フラフラとベッドに倒れこむと、そのまま眠りに落ちていった。

―――幕間
 カチャ……そっと扉が開くと、部屋の主である双葉を数年分ほど大きくしたような美少女が入ってくる。
 『おうおう、葉子の姐さん。ひっくっ!えー塩梅やで〜〜ねーさんの魔力、酔い覚ましにちとおくれやー』
 ヒク……と、その美しい眉が僅かに顰められ…………おまけに額に大きな青筋が立っている。
 「この腐れウサギ。生前は立派な騎士でもあった貴方が、色に溺れた挙句、普段は似非江戸言葉、酔うと似非河内弁などと……双葉には悪いけれど、そろそろ昇天させましょうか?」
 にこりと青筋貼り付けたまま、極上の笑みを浮かべる。
 こうなると、人間だろうがそうでなかろうが、女は怖い。
 不気味で悪趣味なウサギのヌイグルミの顔色(?)がザアッと音を立てて青ざめる。
 『ととととんでもねぇっ!!あんな清潔で聖歌まみれの退屈な所、連れて逝かれて堪るかってんだべらぼうめぇ!!』
 「そ、ならいい子になさいな。双葉は私より怖い子よ?」
 くすくす笑い、おもむろに服を脱ぎ捨てながら「それでどうだったの?」と話を切り替える。

 『知ってか知らずか、下は触ってねぇ。
 チト危なかったがな。
 それと、離乳食の方は随分気に入ったみてぇだぞ』

 テーブルの上を見ると、パンはほんのちょっとだけ齧った様子があるが、皿は洗いたてと言われても信じそうなくらいにぴかぴかになっている。
 「んぅ……おいひぃ…………もっろぉ……」
 寝言に1人と1体の視線が集まる。丸まって寝てたのが、ベッドの上で豪快に大の字になっていた。
 「こういう所、やっぱりオトコノコねぇ♪」
 『俺っちまで満タン。溢れた分で酔いに酔ったぞ。いってぇ、何人分だよアレ』
 そもそもからして、双葉自身がやな予感を覚えたように、まともなクリームシチューであるはずも無い。
 「あら?腐れウサギがそんな事いうの?」
 きょとんと鳩が豆鉄砲食らったような顔をする。
 澄ました顔をしないと、傍らの双葉とまるで双子の姉妹のように見える。
 『へ?』
 「貴方自身、離乳食って言ったでしょ?最初からそんなくどいの与えないわよ。そこら辺を歩いていた可愛い童貞の一番絞り。それだけなのよ?」
 『あれでかっ!?』
 もっとも文字通り、精通すら迎えていなかった少年の最初の一発目である。見目麗しく、心身ともに健やかに育ったという、精を啜る魔物にとって最上級の獲物である。並みの童貞の精とは比べ物にならない高純度の精気を宿している。
 その少年を手に入れるため、自らの滋養にしたいと言う欲望を抑えるのを含めて大変な苦労をしたのだが、その甲斐はあったということらしい。
 「ふぁ……あぁ、産後に無茶するものではないわね。」
 気が緩むと小さく欠伸をする。
 「流石に疲れたわ。可愛い赤ちゃん、ママのことを慰めてねー♪」
 『えれぇお気に入りだなぁ……流石の葉子嬢ちゃんも、ママと……あ、あふぅ、いやん、や……ぁ゛……』
 「ほーんと、いい魔力ねぇ。きっと、キヨヒコ君も清らかな童貞ちゃんだったのね♪」
 今、双葉から漏れ、葉子を急速に回復させている魔力。零れ劣る一滴が、成人男性を腎虚になるまで搾り取ったぐらいの精気がある。
 「吸われるのが気持ちいいんでしょ?……ん、お休み♪」
 ポイッと腐れウサギを放り出すと、双葉を抱き枕にして目を瞑る。
 その柔らかく、いい匂いのする肌を堪能しながら、眠りに付くまでの間に葉子は自らの子である双葉のことを考える。

 キヨヒコとして溜め込んだ童貞の精気。それは肉体だけではなく、魂にも魔力と言う形で宿る。
 その状態、女を知らぬまま、魂に魔の力を与えられ、女に生まれ変わった。
 キヨヒコとしての童貞の精気は消化されぬまま、取り込んだ精気を増幅しているのではないかと推測する。
 「まぁ、それならそれで……ふふ、勝ち目、出てきたのかも♪」
 葉子はもう一度、可愛らしい欠伸を漏らすと今度こそ、愛娘を抱き寄せて自身も眠りについた。


 暖かく、どこか懐かしい温もりに包まれている。
 目覚める直前のまどろみと言うヤツは実に貴重だと思う。その上、フニュッとマシュマロのようなクッションに頭を…………そんなの、あったっけ?
 「んぅ〜〜…………ふぁぁ……」
 それにしても昨日のことはあまり思い出したくないなぁ
 自分が死んだことを見せ付けられて、落ち込む間もなく、快感に狂わされて。
 「……まぁ、仕方ないか……って、あ、あれあれ?」
 やっと目を開けたのだけど、どうやら誰かに抱きしめられているらしい。
 「よーこさん……わっ、わぶっ!」
 「ようやくお目覚め?うふふふっ♪双葉ちゃんはお寝坊さんね。」
 それは兎も角、胸の谷間に埋もれるのは男としては本望だけど、離してほしい。
 おまけに何だか性格変わってるぞっ!
 「ちょ、こらっ!」
 「あん。双葉が随分と可愛いので、つい調子に乗ってしまったわ。」
 さっと離れて、ベッドを降りる。
 まさか全裸で……って、今の俺も同じか。そのまま、日の光を全て覆っている分厚いカーテンを開く。
 「…………っ!」
 「……?どうしたの?」
 凄い
 何と言うか、腐れウサギが俺をチンチクリンと言うのが判る気がした。
 大きすぎずかといって小さくも無い乳房になだらかなカーブを描くウエストから腰にかけてのライン。俺が思いつくような褒め言葉はどれも陳腐に思え、結局、一言で簡潔に言うしかない。

 「…………綺麗……」

 それ以外に相応しい言葉は無い。言葉とは意外に不便だ。
 「あら、ありがとう。産後のダメージも双葉ちゃんのおこぼれで回復したしね」
 何のことだろう?
 『嘘つけぇっ!俺っちをまたすっからかんにしやがって!!おうおうっ!双葉のチンチクリン!さっさとメシ……あ、こら……』
 床に放り出された腐れウサギが朝っぱらから下品に怒鳴り散らす。ちょっといい気分が台無しとムカついたら、もっと腹を立てた人がいた。
 「あらあら?いい加減学習しなさい?主人である双葉の機嫌を損ねる権利など貴方に無いのよ?」
 『あひゃ、ひゃは!ひゃ、ひひゃいっ!』
 ドカッと踏みつけ、何と言うか女王様のようにグリグリと抉るように踏むべし?
 「さ、身支度整えて食事にしましょう?」
 とは言え、服は……あれ?どこやった??
 「はいはい。貴女は傅かれることにも慣れないとね。」
 ちょっと呆れたようなため息をつくと、チリリンと呼び鈴を鳴らす。あぁ、そういうこと。
 「お早うございます。葉子様、双葉お嬢様」
 待ち時間全く無しで、メイドさんが3人。もしかして、外に控えてた?
 「はい、お早う。とりあえず、お風呂ね。」
 「畏まりました。少々お待ちください。」
 「さ、双葉もそろそろベッドから降りなさい。もう、香は平気でしょ?」
 言われてベッド脇に置かれた香炉を見る。一晩たってもまだ、薄紫の煙を立てている。昨日はあれでひたすらエッチな気分になってしまったのだが、今はただ、いい匂いだと思う程度だった。
 「ほんとだ…………なんで?」
 「お風呂しながらお話してあげる。さ、行きましょう?」
 スッポンポンで手を引かれ、バスルームへと引きずられていく。ちょっと待てぇっっ!!


 もう何でもありと言うか、男の俺でも手足を伸ばしてのびのびと入れる広い浴室。
 そこに香油か何かを垂らしたらしい。
 風呂に入ると華の薫りが鼻腔をくすぐる。
 「んっ……ふぅ…………ちょ、朝から……んふっ!」
 「いいから、じっとしてなさい。隅々まで綺麗にしておかないと、この後、ね?」
 何があるというのか。もの凄いやな予感を感じなくも無いのだけど。
 「もう数日、1人Hで楽しませようと思ったのだけど、双葉ちゃんてば素質あるから。」
 それと、今こうして全身を舐めまわす様に這い回る指に何の関係が!
 「ちょ、そ、それと……んひゃぅ!う、うちまら、らめぇっ!」
 つつ……と、細い指が這い上がる。だがその付け根で刺激を待ってヒクヒクしている男にはありえない器官……オマンコには触ってくれない。
 「クスクス……ここ?ここが良いんでしょ?」
 膨らみかけのオッパイの下のあたりをクニクニと撫でられ、軽く浮き出たアバラに沿って指が動く。
 「ひあっ、ひゃっ、そ、そこらめぇっ!」
 自分でするのと違って、怖くなったら止めればよかった刺激がガンガン押し寄せてくる。ヒクンと体が震えたと思ったら、チョロチョロとオシッコを漏らしてしまった。
 「ぁ゛!や、やぁっ!ひあっ、ひゃめっ!あっ、ああっ!!」
 「あらあら。触ってないのに。ふふ、敏感ねぇ。」
 太ももを濡らしたオシッコを指で掬うと、葉子は躊躇わずに指を口に持っていき、モゴモゴと舌を動かして味見をしている。
 「ん〜♪これなら、いつでも誰でも虜に出来そう♪性感帯もママそっくり♪」
 「ひうっ、はぁっ、はっはっ…………ひょんらろ……」
 昨日、自分でシタのと刺激の桁が違った。
 「あら、やりすぎちゃったかしら。お話、し損ねちゃったわ」
 そのまま余韻で呆けている間に、控えていたメイドさんたちに恭しく全身を拭き取られ、指1本動かすことなく着替えを終えた。


 朝から淫行三昧で、しかも流される自分にも呆れるが、屋敷に居る連中はそれを当然としている。
 朝食の席は俺と彼女だけかと思ったが、10人近い連中が何も言わずテーブルについている。
 「あの……さ。聞いていい?」
 「あぁ、香炉の件?」
 「それもあるけど、この屋敷の連中。アンタ含めて、一体何なんだ?こんな……おかしなこと平然としていてさ。」
 俺がこの場に居ることについても『我が娘、双葉です。見知り置くように』の一言でおしまい。
 何処からどう見てもただの人間なのに、彼女のような桁違いの化け物と平気で食事を共にする。
 俺のことについては、感激の涙まで流す始末。一体何なんだ?
 既に朝食は始まっているが、俺は出されたスープに手を付ける前にそれを尋ねてみた。
 「あら。彼らが人間だとわかる時点で、双葉も立派な魔の者よ?」
 言われてみれば。
 どうして判ったのかと言われると、何となく。匂いが違うと言うか。

 「あの香炉はね、ヒトの感覚を惑わせるの。要するに催淫剤ね。
 所が魔の者、特に私たちの種族にとっては浄化の香といっても良いくらい、身と心を清めてくれる。
 アレが効かなくなった時点で、ヒトとしての要素は双葉には残っていないの。」

 それ故、ヒトとそれ以外が嗅ぎ分けられるようになったのだと言う。
 「って、それじゃ!昨日までならヒトに、男に戻れたのかっ!?」
 「いいえ。魂に魔力を与えた貴女はヒトの器に入れても、やがて体を妖化するわ。つまり、一度死んだ時点でもう戻れないの。」
 改めて聞くと、この身勝手な結果の境遇に腹が立ってきた。
 「怒らないの。もう反抗期?やぁねぇ」
 「茶化すなっ!」
 怒りが抑えきれない。体には昨日と違って力が満ち溢れている。今の俺なら、こいつをミンチにすることぐらい――――

 『ひゃーはっっはぁっ!ママに噛み付く悪い子はおっしおきだぁ!!悪りぃ子はいねがぁぁぁぁっ!!』

 この声は腐れウサギっ!
 飛び掛ろうとしたところで、腐れウサギの耳が俺の足に絡みつく。
 「ひっ!はっ、はな…………あ゛っ!」
 ぐんぐんと魔力が……力が吸われ、腰が抜けて椅子に座り込む。
 「ご苦労様。腐れウサギ。貴方を双葉に預けたのは正解だったかしら?」
 『けっ!このためにわざわざ、朝すっからかんにしたのかよっ!この腐れ……とと、お美しい葉子様♪』
 このやり取りにほっとした空気が食堂に流れる。
 「さ、まずは食事に……あぁ、双葉は私の隣に移して。ママがアーンしてあげるから♪」

 なんと言うか、歯向かう気力が根こそぎ奪われた気分だ。
 この分じゃ、腐れウサギ以外にも色々切り札を隠し持っていそうだ。
 どちらにしても、俺の体は死んでいる。男に戻れる希望も無さそうだ。
 感情的には泣き喚きたい気分だが、理性は状況を理解して、諦め始めていた。

 「はい、あーーん♪」
 葉子が楽しそうにスープをすくって差し出してくる。
 「はぁ…………あむっ……」
 いや、自分でも情けないが、魔力を吸われて腹が減っている。『けふ♪』なんて腐れウサギの満足の吐息が心底ムカつく。昨日のように味にぶっ飛ぶ可能性もあったが差し出されたスープを口に入れた。
 「…………普通だ……」
 「それはそうでしょ。普通の人間のご飯だもの。」
 つまり昨日のメシは人間のじゃないと。
 「ええ。それはこの後、『私たちの』ご飯を食べさせてあげるからその時、話してあげる。」
 聞かなくても想像は出来るが。つまりアレか。アレを飲んで喜んだわけか俺は。
 「もう。勘のいいのも困り物ね。さて、この家の人間たちについてなのだけど―――」

 要するに、この豪華な家にしてもリムジンにしても、魔物である葉子の持ち物と言うよりは彼らの持ち物らしい。
 ただ、家そのものが葉子の持ち物と言うべきもらしいが。

 「私達は彼らを守り、快楽と繁栄を約束する。彼らは見返りに精を捧げ、不要な外敵から私たちを守ったり、色々面倒な揉み消しをする。」

 結局、この世の中は人間の持ち物だということ。
 人を囲い、囲われることで平穏を得ているらしいが、はぐれ者の魔物や、種族的な敵との戦いは頻繁にあるという。そこで起こした騒ぎの揉み消しは彼らがやる。
 そうしないと、彼らの繁栄は瓦解する。結局対等に近い共生関係らしい。
 そんな生活を既に1,000年以上、続けているのだそうで。時の権力者に身を寄せ、守ってもらう。そう言えば九尾の狐がそんなんだって話、何処かで聞いたなぁ
 なんと言うか、葉子が生きていた時間の長さはもう想像も付かない。

 「種が違うけど、九尾は古いお友達よ。
 欧羅巴は基督教のお陰で魔の者が棲み難くてね。お引越しした頃に随分世話になったわ。
 ただ随分と癇癪もちでねぇ、派手に暴れたお陰で封印されちゃったのよね。
 なにかしらねぇ、あの程度の封印、直ぐにでも解けるのに、何か気に入っちゃって引き篭もってるけど」

 伝説の大妖怪、九尾の狐が引き篭もりですか。
 まぁ、天照大神だって引き篭もったし、妖怪の引き篭もりも居るよな。うん。
 それはともかく、葉子の在り様って奴がやっと判った。
 一言で言うとするならまぁ……
 「要するにエッチ大好きの洋風座敷童か。」

 「は?………あっはははははっ!そ、そうねっ!ざ、ざしきわらし……ぷぷっ!も、もう最高っ!!あ、だめ……あははっ!!」

 どうやらえらいツボだったらしく、その後も暫くひーひー笑い転げていた。

 人間の朝食とやらが終わり、人の子である彼らは学校だの仕事だのに出向いていった。
 「で、なーんで、朝メシ終わったと同時にひん剥かれるわけだ?」
 「まぁ、双葉ちゃんったらまだ反抗期?いーじゃない。座敷童は座敷童らしくしなとねぇ♪」
 何気にもの凄い怒ってないか?
 まぁ、それでも髪を高く結ったりする訳でなく、もうちょっとモダンと言うか、普段着的な物なのが救いかな。
 「できました。葉子様、如何でしょうか?」
 「ん♪上出来ね。あっちの用意はどう?」
 「全て整っております。葉子様のお見立て、流石でした。」
 なんだなんだ?
 このメイドさんのうっとりとしたため息は?
 「そう。それは楽しみね。それと、あちらの方は?」
 最後の一言はもの凄い雰囲気が違っていた。何というか、ドスの効いたヤの付く人たちの姐さん風と言うか。
 「はい。ここ数ヶ月、かなり派手に動いております。このまま放置しては、我々としても揉み消しは困難かと。」
 「困った連中ね。ま、いいわ。うまく行けば、ここ数日でケリも付くし。」
 「……なるほど。確かに。では、失礼いたします。」
 何だかよく判らない会話を交わすと、メイドさんは部屋を出て行く。
 「じゃあ、ちゃんとしたご飯にしましょうね♪」
 一つ疑問が解消しそうになるとまたも新しい謎。
 本当に、一体どうなることやらと、呆れつつ、何処か楽しみにしている俺が居た。

 「さて、私たちの滋養は人の精であることはもう話したわね?」
 その問いには首肯を以って答えた。確かに。恐らく、昨夜の食事にも混入されていたのだろう。その……人の精液が。

 「そうね。双葉は精と性の快感も知った。
 けれど共に未だ極めていない。
 元に戻れないと納得できた、可愛い双葉ちゃんにママからプレゼントぉ♪」

 もの凄い能天気な声に変わったと思ったら、「えいっ♪」と部屋に押し込まれ、外から鍵をかけられた。
 「ちょっ!こらっ!!だせっっ!!」
 『あーんもぉっ!聞き分けの無い子、ママ嫌いよ?じゃーね♪覚醒したら迎えに来るわねー♪♪』
 ドアの外でひらひら手を振ってやがる。
 ったく、既に魔物なんだろ?この上、覚醒って何だよ?

 「お、おねえちゃぁん…………だ、だしてよぉ……」

 部屋の奥から声をかけられ、その鈴の音のような声に振り返る。
 「……なっ…………!」
 振り返った先。ベッドの上に、何と言うか、等身大のお人形が居た。

 純白のドレスに散りばめられたレースと宝石が部屋に差し込む朝の光を反射してきらきらと光っている。
 そこから覗くすらりとした足にも服に合わされた純白のストッキング。
 ほっそりした腰とウエストを辿ると膨らみすら感じられない胸から足以上に細く、たおやかなラインを描く腕に繋がる。
 大胆にも肩を露出しているため、露になっている鎖骨のラインになんとも言えない淡い色香すら感じさせる。
 その上に乗るのは整った顔のライン、小さくぷりっとして桜色の口紅を施された唇。うっすらとファンデを施されたその頬はうっすらと赤みが差していて、涙が滲んだパッチリとした目と共に猛烈に庇護欲を駆り立てる。
 ストレートのロングヘヤにはティアラまでつけており、さながら西洋の美姫。

 「……お姉ちゃん?」
 「あ、いやゴメンね。えと……君誰?どうしてこんな所に居るの?」
 うう、やっぱり俺はお姉ちゃんに見えるわけだ。
 目の前の少女は些か装飾過剰にも思えるが、不思議と似合っている。子犬のように縋るような目はどうにも誘っているように見えてしまうが。
 「……も、もしかして……」
 この娘とレズれとでも…………ご、ごくっ……
 「どうしたの?お顔、赤いよ?」
 おっと。もしそうだとしても迂闊に乗るのも危険だな。
 「ううん。なんでもないのよ。それで、お姉ちゃんに事情を話してもらえる?」
 うげ……安心させようと露骨に女言葉にしてみたけど、違和感バリバリ。ここに腐れウサギが居たらさぞ笑われただろうな。

 「あ、あのね。昨日、とっても綺麗なおばちゃんに会ったの。」
 おばちゃん……葉子のことかな?男の俺とか今の俺から見てもお姉ちゃんってところだよなぁ?
 メイドさんか?これくらいの子には、ハタチ超えたらおばさんだろうし。
 「で、でね…………お洋服脱がされそうになった時に、綺麗なお姉ちゃんが助けてくれたんだ。」
 あれ?話が変な方向に進み始めたぞ?
 「でもね、でも……そ、そのお姉ちゃんも……ううっ!」
 うわ……この子の泣き顔、めっちゃ可愛い。抱きしめてやりてぇ……けど、俺がやったら変質……いや、今の俺、オンナノコだっけ。

 都合のいい時は女になった自分を有効に使って、可愛い女の子を抱きしめると言う役得ゲット♪

 「いい子ね。もう、怖くないよ……ね?」
 「お姉ちゃん……いい匂いするぅ…………」
 安心したのか、力を抜いて体を預けてくる。なんだかこう、子犬みたいにホコホコしてる。
 思わず可愛いなと思って、軽く頭を撫でてやるとビクンと体が震えるのが判った。
 「…………っ!」
 「どうしたの?何処か痛い所ある?」
 あの葉子に攫われたとして、乱暴に扱われて怪我でもしたのかな?
 「お…………おねえちゃぁん……」
 顔を上げると、頬は紅潮し、軽く開かれた口元からはハァハァと悩ましい吐息が零れている。
 「だ、大丈夫?い、今お水……わっ!」
 慌てて呼び鈴で誰か呼ぼうと思ったら、袖を掴まれてベッドに引きずり倒された。
 「ぼ、ぼく……」
 へっ!?ぼ、僕ぅっ!?
 「お、お姉ちゃんのイイ匂い嗅いだら、か、体が……っ!」
 ハァハァと血走った目と荒い息で、俺の体をむちゃくちゃに弄り始める。
 「ひあっ!ちょっ、ちょと……んあぁっ!!」
 乱暴に胸をはだけさせられると、服が邪魔で腕の自由が奪われる。
 「ぼ、ぼくっ……お、おねえちゃぁぁんっ!!」
 い、今更だけどっ!
 もしかしなくてもこの子、お、男の子かぁぁぁぁぁぁっ!!

 「はふっ、はふっ……や、やわらかぁい……」
 「わっ、こ、こらっ、あっ、やっ、あっああっ!」
 全く不意打ちでハァハァと乱暴に胸をもまれ、チュウチュウと痛いほどに乳首を吸われる。
 「んっ、くぅんっ……や、やめ……んあっ!」
 ちょっと強めに乳首を摘まれ、バチッと瞳の中で火花が飛んだ。たったこれだけで、軽くイッちゃったらしい。
 「お、お姉ちゃぁん……ぼ、ぼく……え、エッチなことがどんどんどんどん頭に浮かんで……と、とまらないよぉっ!」
 「ひあっ!そ、そこ……んんっ!」
 鎖骨から首筋と舐められ、ゾクゾクと快感が背筋から這い上がる。
 その勢いで、少年は俺の唇に自分の唇を押し付けてくる。技巧も何も無い、ただ押し付けるだけのキス。けれど、それがひたすら甘く、じんわりと滋養が染み渡る。
 同時に甘い痺れが全身に広がり、体から力が抜ける。
 「んっ、あっ、やぁ……ひうっ、ぁんっ!」
 「お姉ちゃん……かわいぃ…………」
 うっとりとした表情は本当に美少女みたいだ。その愛らしい姿にどきんと胸がなる。
 けど、ギラギラと抑えきれない欲望を溢れさせるオスの顔も同時に覗かせる。
 少年の行動はどんどんと大胆になり、面倒な帯はそのままに、裾をはだけさせ手がその奥へと向かう。
 「ひゃっ、そ、そこさわっちゃ……あっ、らめぇ……ん……」
 布が擦れるだけでも体が反応するほどだ。これで直接触られたら……
 「ぁはぁ……お姉ちゃん、パンツはいてないんだぁ……」
 「み、みない……ひあぁぁっ!」
 和服では下着を着けないものなんて事、そりゃあ知らないだろう。快感に染まりきった顔で、太ももの奥で濡れまくっているオマンコに触られ、俺ははじめて感じるその刺激にあられもない叫び声を上げていた。
 「はぁはぁ……ぼ、ぼく……お姉ちゃんに触って声聞いてたら、オチンチン、腫れちゃったよぉ……」
 まだ何も知らないのか。そのくせ妙に手馴れた愛撫にへたくそなキスのアンバランスさ。
 もしかしたら、何か操られてるのかも。
 不意に同情心と言うか、悪戯心がわきあがる。
 やけっぱちな気分と言うか、もうこうなったら葉子の意図など明白だし、逃げようも無い。
 避けられないなら、可能な範囲で楽しもうとするのは当然だろう?
 「ひふっ、はぁっはぁっ……ら、らいりょうぶ……なおしてあげるから……ドレス脱いで?」
 とは言え、もう呂律が回らない。
 多分、傍から見たらエロエロな顔してるんだろうな。
 「う、うん…………」
 脱ぎ方が判らなかったか、スカートの裾を掴むと大胆にがばっとまくって脱ぐ。

 「…………っ!」

 視線が一箇所で固定される。
 純白のストッキングは太ももの所でガーターベルトで釣るタイプで、下手な女よりも扇情的に見える。シルクのパンティまで女物で、もっこりと可愛いオチンチンがパンティを押し上げ、先走りで染みになっている。
 その倒錯的な姿は、ショタ趣味の腐女子ならハァハァ興奮するのだろうが、俺にそんな趣味は無い。
 だけど、オチンチンの奥にマグマのように溜まっている精が『見え』、朝の食事の席で奪われた魔力を求めて『見えない胃袋』がぎゅーぎゅーと空腹を訴えてくる。
 「お、お姉ちゃん…………ぼ、ぼく……」
 少年の声は耳に届いているものの、意味をなす音になっていない。
 それを肯定と取ったのか、パンティを脱いで硬くなったオチンチンを晒す。皮を被ったままのそれは小さく可愛いが、期待と飢えにゴクリと喉がなった。
 「い、いいよ…………お、お姉ちゃんのここに、オチンチン……いれて……あ、ああっ!」
 足を抱えられ、股を広げられる。
 少年が抱えた足の脛にキスをする。
 「う、ううっ、きもちい……きもちいいよぉ……あっ、んっ、あっ、あれっ?」
 もう一方の手でオチンチンに手を沿え、オマンコの穴を探そうとしているが、うまく行かないようだ。
 けど、少し慣れると場所がわかったのかぴったり照準を合わせる。
 「……はぁはぁ…………お、おねえちゃん……」
 「ちょっ、ちょっと……ま、まってっ!」
 そうだ。このままされるのは御免だ。唯一つ、もっとも大事なことを俺はしていない。
 「や、やだよぉっ!ぼ、ぼく、もうっ……んんっ!」
 ああ、聞き分けの無い。
 悶え乱れた間に服が緩んで腕の自由が戻っていた。グイッと首を抱えると俺から唇を奪い、舌を侵入させる。
 「んじゅ、んんっ……んぅっ!?んっ、んぁっ」
 一瞬目を白黒させたが直ぐに舌を絡み返してくる。少年の舌が口の中をなぞるたびに、うっとりと甘い味に酔いしれる。
 「んはぁ…………あのね。していいけど……その…………名前、教えてよ。お……私は双葉。君は?」
 納得がいったという感じでぱぁっと顔をほころばせる。
 「ぼ、ぼく、敏明っ!じゃ、じゃあ、双葉お姉ちゃん……んっ!」
 「んっ、んんっ……んはぁっ……いいよ、トシ君……あっ!」
 いよいよ、ググッと入ってくる感触に頭の中が掻き乱され、俺は身を仰け反らせていた。

 「「んっ……あぁぁぁっっ!!」」

 挿入されると同時に2人ともイッてしまった。
 ドピュドピュと熱い精液が腹の奥に当たるのがわかる。
 「ひっ……あっ、お、い……しっ、あっあああっ!」
 オマンコを下の口なんて言い方をするが、マジでその通りだ。人ではないこの体、膣の奥で出された精が本当に『美味しい』のだ。
 「あっ、まっ、またぁっ!!」
 「えっ!?あっ、ちょ……んぁんっ!!」
 もぞっと動いた瞬間、トシ君……敏明少年はイッたらしく、ドクッと注がれる。
 「こ、こわいよぉっ!お、オチンチン、気持ちよくって、あたままっしろぉっ!!」
 「んうっ!あっ、お、おち……つ、んっ、んんっ!」
 あまりの快感にパニックになっている、膣の中でことあるごとに小さく射精し続けている。これは、経験を積んだ大人立てパニックだろ。
 妙に冷静になってしまい、敏明少年の顔に手を沿えて自分の胸元に引き寄せる。
 まぁ、葉子のような膨らみはないが。
 でもまぁ、オッパイと言うヤツはお子様にとって母性の象徴みたいなものだし、暫く胸に頭を押し付けつつ、よしよしと撫でてやると落ち着いてきたようだ。
 「はぁっ、はぁっ……ふ、双葉お姉ちゃぁん……ぼ、ぼく……」
 「いい子、いい子。」
 流石に落ち着くと暴走しまくっていたオチンチンも小さくなってきていた。

 「さ、トシ君がおちついたから、これ、抜こう……んふっ」
 ちゅるんと可愛いオチンチンが毛も生えていない割れ目から飛び出て行く姿はもの凄い淫猥な光景だった。
 「あ、あれっ!?ぼ、僕のオチンチンへんっ!」
 「あ……剥けてる…………」
 皮被りの可愛いオチンチンだったのに、今じゃピンクの猛獣だ。
 愛液と精液でヌラヌラと光りながら、うな垂れるそれは実に、美味しそう……
 「お、お姉ちゃん?」
 ノソノソと絶頂の余韻が残る体を起こす。特に重いとか言う感じはなく、むしろ絶好調な感じだが、甘い痺れが全身を浸していてその余韻を味わおうとするとどうしてもゆっくりとした動作になる。
 もちろん、別の意味もある。

 その……躊躇だ。俺、自分が何をしようとしてるかよく判ってる。

 理性は、男としての記憶は俺を変態と苛む。体の本能は、それが当然で、まだ未知の快感があると期待の声を上げる。
 心の奥底でチクチクと刺す理性の痛みを感じながら、俺は、期待に身を委ねていた。
 「綺麗に……してあげる……ね……」
 「あっ、あっ、あぁっ、き、汚いよぉっ!」
 甘い。
 そんなこと無いはずなのに、精液が甘い。自分の愛液の塩気が甘味を引き立てている。
 「んっ、んう…………剥けてなかったから……すごい、ね……」
 もう理性の声など欠片も届かない。敏明少年……トシ君の恥垢すら砂糖の塊を口にしたかのような甘味に感じる。
 「んっ、んじゅぶっ、ん……れろ……んっ、んんっ!?」
 トピュッと言うか、ヒクッと小さく震えて、薄い、それでもやはり香ばしく美味しいと感じる精液が放出される。

 「あっ、あひゅぅ……ぼ、ぼく…………もぉらめぇ……」

 「わっ、わわっ!!」
 倒れこんできた所を慌てて支えてやる。
 「んひゅぅ……ふたばおねぇちゃぁん…………ひゅきぃ……くぅ…………」
 精根尽き果てたのか、眠ってしまった。
 汗で張り付いた額の髪の毛をよけてやる。あぁ、さわり心地いい子だなぁ……
 「くす……でもまぁ、トシ君は私よりちっちゃい子みたいだし、しかないか……あ、あれ?」
 いや、マヂおかしい。
 敏明少年のことはトシ君って呼んだほうが自然に感じるぐらいはまだいいけど、『私』!?

 パチパチパチ

 ドアの外から小さい拍手の音。
 ぜーんぶ、見られてたのはまぁ、いいけど。
 きっちり説明してもらうわよ、ママ!!…………って、あ゛ぅぅ゛……

 葉子ママは情事の後にもかかわらず、ずかずかと部屋に入ってくる。
 「どうなることかと心配したけど、きちんと『成人』してくれて嬉しいわ」
 「は?どういうこと?」
 言いながらも、トシ君に毛布をかけて寝かせてやる。まぁ、膝枕についてはスルーの方向で。なんと言うか、離すのが惜しいと言うか。
 「んー?まぁ、話していないし、知ってたらそもそも普通の人じゃないものね。」
 まだ切り札と言うか情報を隠し持っていたことにはムカつくが、多分、お……わ、たしが今こうしているのに必要なことなんだろう。
 「そうよ。血ばかり飲むと吸血鬼に身を落とす……って言うのはもう話したわね?」
 コクリと頷く。そんな話、してたな。あのチョコもどき、アレはアレで美味しかったけど。

 「珍味は珍味だから良いのよ。
 普段からそればっかり食べつけたら体を壊すの。
 でね、精は私たちの糧だけど、食べ方にも言い食べ方と悪い食べ方って言うのがあるのよね。」

 悪い食べ方と言うのは、いうなればレイプ。逆レイプだろうが何だろうが、無理やりと言うのはよくない。それは判る。
 「生憎とそれを教えちゃいけない決まりだから、ママ、双葉ちゃんが淫乱な悪い子になっちゃわないかとハラハラしちゃった。」
 「むぅ……」
 『けけけけっ!……ヒィック!こぉのチンチクリンがそないな粗相、するわけあらへんで〜〜っとくらぁっ!ひっくっ』
 あー、いたんだ腐れウサギ。
 「人がいい気分に浸っているんだから、酔っ払って喚くなこのクソボケ」
 ママを見習ってぇ……抉るように踏むべしっ!踏むべしっ!!
 『あ、あふっ……あ、いやんそこもっと…………ヒブッ!』
 「あらあら。ほら、言ったでしょう?双葉は怖い子だって。」
 なんと言うか、自爆体質というか、楽しんでやってないかこの馬鹿ウサギ?

 「話を戻すわね。
 自分で処女を破っちゃったり、無理やりにしちゃうと、どうにもエッチがガマンできない悪い子になるのよね。
 獲物を無理やり女の子にして、嬲って壊したりとか。」

 うわ、そりゃあ、御免こうむる。確かに俺も無理やりに女にされたけど、死んじゃったが故だもんな。
 「あれ?でも私、初めてだった……痛かった覚え、ないけど。」
 「そりゃそうよ。敏明君ときちんとエッチしたんだもの。あぁ、双葉ちゃん可愛かったわー♪」
 うっとりと頬を染める葉子ママ。何て言うか、悪趣味です。
 「よく判らない種族だねぇ。」
 呆れたが、そのお陰で今は心も体も楽。
 まぁ、男としての自分は大分、薄れてしまった気がするけどさ。体も自分の力がよく判る。トシ君の体内に宿る精が弱々しく、同時に若さゆえにものすごい勢いで回復しているのもわかる。

 「そうね。それでどう?
 生まれたての子って、直ぐお腹減ったり、お腹一杯でもガマンできなくて、悪い子になっちゃうことが多いのよ。
 双葉ちゃん、敏明君とかママを襲いたい、エッチしたいって、今、思う?」

 「ううん。トシ君は可愛いし、また……その……エッチしたいと思う…………けど、今は寝かせてあげたい。」

 うわ、うわわーー!
 これってもう、心底女の子と言うか、彼氏に対するこ、こいびとの……わわわわっ!!も、妄想やめやめーーーっ!
 「ああん♪真っ赤になっちゃって可愛い。うりうりっ♪」
 ツンツンと真っ赤になったほっぺたを突かれた。い、いいじゃないかっ!
 「照れちゃってー、じゃあ、双葉のトシ君は、この家の子にしちゃいましょうね♪」
 あ、話題を変えるチャンス、キタ。
 「……あ、ところで、トシ君ってこの家の子?朝、見た覚えないけど。」

 「そうね。その話もあったわ。
 敏明君はねぇ、家族ごと性質の悪い子に襲われてたのよね。生憎、ご家族は手遅れで…………」

 ドガァッ!!

 建物の外、どうやら門が強引に何者かに吹き飛ばされたらしい。同時に感じる異質な魔の気配……3匹か。
 「……あらあら。彼らにとって敏明君は、諦めきれない獲物みたいね。
 まぁ、判らないでもないけど。
 いまどき、こんな綺麗で清らかなまま育った子なんて、貴重だものね。
 ま、童貞は双葉ちゃんが食べちゃったけど。」

 言うだけ言うと、真剣な表情で葉子ママは立ち上がる。蹴っ飛ばして壁際でいい塩梅でヘタレていた腐れウサギを投げ渡すとドアノブに手をかける。
 「双葉はここで、敏明君を守りなさいな。戦い方は多分、言われなくても判るでしょうから。任せたわよ?」
 「う、うん。」
 『承知。我とて腐っても騎士……我が主のことは任せられよ。』
 うわ、似非河内弁も似非江戸言葉も引っ込んだ。
 「そ、よろしく。」
 腐れウサギの言葉に軽く頷き、葉子ママは部屋を出て行った。多分、あの人形たちを使うのだろう。
 それにしても、腐れウサギにあんなマトモなことが言えるなんて……
 『くけけけけっ!さーあ、キタキタキターーー!戦いだっ!肉だ血だぁぁぁっ!!クソ溜めの中で精液ぶちまけやがれぇぇぇ!!』
 ……感心して損した。


―――葉子Side
 双葉の寝室を出ると、あたりの人間たちに退避を命じつつ、人形部屋に残る使い魔たちを遠隔で立ち上げる。
 「まったく、調子に乗って……確かに戦闘用人形は少なくなってますが……」
 攻めてきた相手のうち、1つだけ規模の大きい魔力には覚えがある。ここ暫く、彼女の支配地ともいえるこの街を荒らしている魔力の持ち主だ。
 とは言え、葉子本人と比べると、そう大きな魔力ではない。
 小さい2つと合わせてやっと、葉子本人の魔力に匹敵する。
 とは言え、双葉を産むためにパワーをセーブしていたため、ここ暫く負け戦だった。
 だからだろう。こうして攻め込まれるほどに舐められてしまった。
 「あの子のお陰で、回復も十分。そろそろ、生意気な子猫ちゃんにオシオキしないと♪」

 「へえ、そうかい。けど、年寄りはもう引退の時期さね。」

 「あら、そう?」
 背後からかけられた声に、葉子の影から3体の人形が飛び出していく。それぞれ物騒な武器を手に背後の相手に飛び掛るが、その相手も鋭い鍵爪を生やして、人形を切り裂く。
 「弱いねぇ……ヨーロッパから逃げ出す根性無しの全力はこの程度かい?」
 安っぽい挑発には耳を貸さず、正面から現れた2つの魔力に目を向ける。
 「あらあら。敏明君のご両親を魔に変えたのね。まったく、悪趣味なこと。」
 そこには敏明によく似た女性が2人居た。
 目は爛々と赤く光り、青白い肌と口からは牙が覗く。
 背後の女性同様、胸や腰が大きく張り、肉感的な肢体をより強調するボンテージスーツを身につけている。
 「…………吸血鬼。しかも、今は理性すら……」
 ぐるるると喉を鳴らす様は人というよりも獣。葉子の魔力に警戒をしているのか、様子を伺っている。
 「そうさ。血と精の狂宴を楽しんで何が悪い!」
 傲慢にも胸をそらし言い切る。
 「あのガキは極上の獲物だ。渡しゃしないよ。アンタだって、アレを魔に変え、お楽しみのつもりなんだろう?」
 とんでもない誤解だと、美しいラインを描く眉が顰められる。
 「まぁ、そんな勿体無いこと。」
 即答され、今度は逆に女性が訝しげな顔をする。
 「あの子はもう、娘の「ちっ!お前ら!!ここで足止めしろっ!!」」
 「「ぐぁぁぁぁっ!!」」
 途端に焦りを滲ませ、ダッシュで葉子から離れていく。残る2体が飛び掛ってくるが、葉子は冷静に4対の人形を繰り出して迎撃に当たる。
 「あらあら。せっかちさんね。まぁ、いっか。楽だし」
 たかが吸血鬼2体。
 1000年、2000年の歳月がその存在に重みを与えているなら兎も角、生まれたてなど怖くない。
 「ふふ、後よろしく。双葉ちゃん。」


―――双葉Side
 「っと、とりあえずこの格好はは不味いよね。」
 タオルで簡単に顔と体に飛び散った精液を拭い、服を調える。幸い、帯は解けていなかったから格好はすぐついた。
 「うーん、トシ君は毛布で良いかな。」
 『あったりめぇだ!直ぐ来るぞっ!』
 腐れウサギが猛烈に抗議中。仕方ないので毛布をかけてやった。

 ドガッ!

 「わっ!」
 辺りに埃と木片を飛び散らせ、トシ君の言う『綺麗なおばさん』が、現れた。
 「あのトシアキとか言うガキ、よこしな。アレはアタシの獲物だよ。」
 「なるほど。確かにおばさんだ。やーだよっ!トシ君はワタシのだもーんっ!」
 べーっと舌を出し、あっかんべーなどしてやる。
 抱え込んだ腐れウサギにも同じ姿勢をさせると、更年期障害で怒りっぽい婆さんはやっぱり怒った。
 「こ、このぉっ!誰が更年期障害だっ!あのアマのガキだけあって生意気だねぇっ!」
 ドンッと床を抉って飛び掛ってくる。
 けどさ、その程度のスピード、腐れウサギの方が速いと思うんだな。
 「遅い遅いっ♪ぽいっと」
 突進の勢いに手を添えて進路を変える。そのまま壁をぶち破って外までロケットダイブをしてくれた。意外にギャグ担当?
 「うがっ!」
 3階から放り出された割には元気な呻き声。外を見ると、頭を振りながら立ち上がっている。
 「あっはははっ!おばさんすごーい!頑丈っ!双葉ちゃん感激っ!」
 『くけけけーーっ!じょーおーさまぁっ!俺にメシ喰わせろーーーっ!』
 何ていうのかな。腐れウサギの高揚感がこっちにまで移った感じでちっとも怖くない。確かに魔力はそれなりのものがあるけど、葉子ママに比べると底が浅い。
 妙な例えだけど子供用の簡易プールと底なし沼ほどの差がある。

 「んぅ……ふたばちゃぁん…………えっちぃ……」
 「……うわ、この状況で寝てるって大物かも。」
 ガクッと力が抜けた。トシ君、良く寝てられるね。うん、おねーちゃん、ちょっと感心したぞ。

 「生まれたてのガキに!80年を生き抜いたアタシが舐められてたまるかぁっ!!」

 もの凄いジャンプ力で飛び上がると背中に鉤爪つきの羽など生える。
 「デ○ルウィング?」
 『いや、それ古いから。』
 何で知ってる?
 「ば、馬鹿にしてぇぇっ!接近戦が駄目ならっ!!」
 なにやらブツブツと呪文みたいなものを唱え始める。周囲を怪しい文様の球体が覆って、そこにおばさんの魔力が注がれていく。
 「あー、腐れウサギ?」
 『へへへへ……喰えるのかっ!喰って良いのかっっ!!って、おわわわわっ!』
 ぐるんぐるんと耳を掴んで振り回しぃぃぃぃ……

 「逝って来い?」

 思いっきりおばさん相手に投げつける。
 「けっ!そんなちっぽけな人形っ!あの葉子にくらべ……れ…………」
 『どっ、ひゃぁぁぁぁぁぁっ!………………なぁんてな♪』
 ぐわばっっと馬鹿でっかく開かれ、サイズが膨らんだ口がなにやら謎の球体ごとおばさんを飲み干す。
 『ぐちゃ、ごきっぐじゅ…………けふっ……くあぁ、喰った喰ったぁ』
 満足のゲップを漏らした所で、私の手元にも引き戻す。
 「はい、お疲れ。」


◆◆◆◆エピローグ
 あの後、トシ君のご両親は灰になって消えたらしい。
 悲しい話だけど、一度魔の者になったら元に戻れないそうだ。
 アレから数年。
 トシ君も大学を卒業し、お家の一員として働くことになる。
 「でも、トシ君は幸運よねー。こぉんな、可愛くてエッチな座敷童ゲットできて♪」
 「そ、そうですよね……あ、あははっ!」
 「まっ、ママッ!!トシ君っ!!」
 顔を真っ赤にして怒る私に、制服姿のトシ君は済ました顔でキスで私の口を封じた。
 「ん……んふっ、れろっ……ん、んじゅぶっ……はぁ……ん……」
 キス好き……お口の中とろとろに溶けそう。
 「まぁまぁ。敏明君も双葉の扱い、随分覚えたわね♪」
 「はいっ!双葉ちゃん、可愛いですよね。」
 うう……『双葉お姉ちゃん』って甘えてくれた頃のトシ君が懐かしい。
 女の扱いにすっかり慣れて、メイドさん数人ともかなり深いお付き合いもしているし、最近、とある良家のお嬢さんと婚約をした。

 お……ワタシ?
 魔の者になった私は成長も無い代わりに死も無い。
 決して不死ではないというが、並大抵のことでは死なない。そういう体らしい。
 だから、他の女の人といちゃつかれるのはちょっと腹が立つけど、人と結婚して幸せになってくれたほうがお姉ちゃんとして嬉しいな。
 「あちらの家も、双葉ちゃんを歓迎するそうです。けど、葉子さん、いいんですか?」
 「まぁ、この格好じゃ放っておいても、どうせトシ君にくっついていくでしょ?ならいいわよ。」
 「ぅ゛う……ママのイヂワル……」
 トシ君は私の和装がえらくお気に入りらしく、大抵の時は和服で過ごすようになった。『ひんぬーだからよく似合うぜっ!』などと抜かす腐れウサギはことあるごとに踏み潰している。
 だから、お見通しよと言う目で微笑まれると顔を赤くして抗議にならないことをモゴモゴ言うしか手が無かったり。
 けどまぁ、それはそれで幸せな生活が待っていそうな気もした。


 トシ君が婚約者とデートに出かけた後、2人でお茶をしていたら葉子ママはふいに真剣な顔になった。
 「ねえ、貴女が人間を止めた時、私に復讐するって言ったの覚えてる?」
 「……微かにね。」
 そう。けど運転をしていた爺やは数年前に他界したし、当時言われたように、事故としてはお互い様。魔の者として間違った成長を遂げないように色々手を尽くしてくれた恩はある。
 結果論だが、トシ君との出会いも、葉子ママが居なければありえなかった。

 「けど、そんなこと、もうどうでもいいや。
 俺は葉子の娘で、この先は、トシ君とその子供たちを見守ることにする。
 まぁ、極潰しに育ったら、葉子ママのところに帰ってくるとおもうけど。」

 「そ。ふふ、やっぱりいい子に育ったわ。嬉しいものね。」
 まったく。この人には敵わない。
 とりあえず、これからもよろしくね!ママッ!トシ君っ!!



END
ヒロイカキ
2006年07月22日(土) 12時32分29秒 公開
■作者(または投稿者)からのメッセージ
以前、2nd様主催のチャットルームで「次はサキュバス物」と発言したこともあって書いてみました。
本作ではちょっとひねくれて、本文中、『淫魔』『サキュバス』という単語は一切使用しないということを試みてみました。
なお、独自設定として、転生後の成長分岐パターンを作ってます。


転生体(肉体変化の場合も同様)
 ├ 吸血鬼タイプ
 ├ サキュバスタイプ
 └ 特殊魔族タイプ(洋風座敷童w)
下になればなるほど、希少かつ魔族として上位に位置する。

吸血鬼タイプ:
 精よりも一度の摂取量が多く、魔力吸収の効率がいい血に染まったタイプ。日光に弱いとか言う欠点は無い。吸血鬼の名称は血を好むことによる便宜的なもの。他のタイプより戦闘力に優れる。

サキュバスタイプ:
 相手を支配し犯すことを好む。トータルバランスに優れ、多彩な魔術も操れる。作中の『綺麗なおばさんw』のように吸血鬼タイプを従えることもある。

特殊魔族タイプ(洋風座敷童w):
 本作における葉子と双葉。通常、直接戦闘力は低く特殊能力に優れる。
 双葉は人として『清らかな童貞』のまま転生したため、例外的に直接戦闘力も高い。
 『人を囲い囲われ、互いに共生する』事に特化しており、無自覚に自らを囲う人間たちに繁栄をもたらす。家を去ると反動で一気に落ちぶれる。洋風座敷童とは正確に彼らの存在を示していると言って良い。
 サキュバスタイプの特殊形態というのがより正しい位置付け。
 人間に対するスタンスの違いから、サキュバスタイプ、吸血鬼タイプとは種族的な敵対関係にある。

設定スレにおける『サキュバスウォーズ』の派生と思っていただいて構いませんので、使えそうなら設定はご自由に流用してください。


オマケ:
腐れウサギ
 何気に葉子よりも長く生きている。元人間。某作品のファンは怒るだろうが、個人的にどこぞの完璧の騎士の成れの果てという設定だったり(笑)