日本周辺の東シナ海だけでなく、台湾以南の南シナ海でも、中国が影響力を広げようとする行動が目立っている。

 南シナ海問題をめぐり中国は周辺国と平和解決をめざすルール作りで合意したはずだ。

 みずから合意の精神に背き、大国エゴに走る行動は地域の警戒心を高めるだけだ。中国は自身の利益のためにも、行動を自制すべきである。

 中国軍は昨年以来、空母を含む艦艇を送り込み、防空識別圏を南シナ海域にも設ける可能性を示唆している。

 今年1月には、中国海南省政府が外国漁船に対し、入漁の許可手続きを義務づけた。

 これに東南アジア諸国連合(ASEAN)が外相会議で懸念を表明したのは当然だ。

 この海域では、中国のほか、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが権利を主張している。

 中国の主張の中でも不可解なのは、「9段線」と呼ばれる境界線だ。1947年に中華民国内政部(当時)が引いた線を受け継いだものだが、現時点での意図ははっきりしない。

 9段線内は領海というのか、排他的な経済権益なのか。何であれ、国際ルールとは相いれない。中国側には海洋資源確保のほか、海軍の活動海域を確保する狙いがあるのではないか。

 中国は強硬路線と対話路線の間を揺れてきた。

 80~90年代、ベトナムとフィリピンが領有を唱えるスプラトリー諸島の岩礁を占拠したり、監視施設を設けたりした。

 一方でASEANとの間で、平和解決をめざす02年の「行動宣言」、さらに12年に「行動規範」作りに合意した。軍事演習の禁止や、救難活動のルール設定などが想定されている。

 だが、交渉は遅れており、この間も海域では米国も含む各国軍艦、監視船、漁船が接触寸前になる事態が頻発している。

 東南アジア各国にも冷静な行動が求められる。一部に潜水艦増備の動きがあるが、軍拡競争は事態を悪化させる。

 南シナ海は東アジア全体の安保と経済の安定のカギを握る重要な航路海域でもある。日米を含む国際社会はさらに監視の目を強める必要があろう。