都知事選で田母神氏以外の候補者を「人間のクズ」呼ばわりした作家・百田尚樹氏の言動などを見ていると、NHKの経営委員会とは「何なのか?」と思ってしまう。一応、表向きはNHKの会長人事や予算の割り当て、事業計画などを議決する「最高意思決定機関」なのだが、その内実はほとんど明かされていない。そこで2001年7月から07年7月まで2期6年間、委員を務めた国立音楽大名誉教授の小林緑氏に「経営委員の実態」を聞いてみた。
――まず、なぜ、小林さんが経営委員に選ばれたのでしょうか?
きっかけは就任の約2カ月前、総務省からの1本の電話です。いきなり「次期、経営委員になってもらいたい」と言われたのです。全く身に覚えがなかったので驚きました。総務省は「NHK全体の経営監督や会長の任命権がある」「VIP待遇です」などと説明する。なぜ自分なのか聞いてみると、「データベースで検索したら浮上した」と言うんですよ。退任する作家の平岩弓枝氏の代わりに文化系の女性を探していたらしいのです。私は大学で、女性の作曲家の研究・講義をしているが、それでよいのか? と尋ねても無反応でした。委員に70代が多い中、50代だったことなどが加味されたようです。音楽に携わっていたので、NHK交響楽団に意見を出すこともできるかもしれないと期待して、引き受けることにしました。
――打診は総務省からあるんですね。で、具体的なお仕事は?
NHK職員から“御殿”と呼ばれる東京・渋谷の放送センター12階にある部屋で月2回、2時間ずつ定例会が行われるんです。当時、地デジ移行に伴う機材の入れ替えは大きなテーマでした。私が、今までの機材がゴミになることや高齢者は地デジに対応するのが難しいのではないかと意見したら、地デジ専門の理事からは「国策です。いまさら何言ってるんですか」と怒られましたね。委員会事務局からも「そのことは触れちゃいけません」と言われました。議題を用意するのはNHK側で、会議の1週間前に大量の資料が送られてきます。事前に目を通しますが、財務や放送の専門用語などがあり、内容を理解するのは難しい。しかし、直接、説明を受けられるのは定例会の2時間だけですから、皆が個人的意見を言っていたら時間がなくなってしまう。そう考えて、結局、「はい、聞き置きました」と答えることが多かったです。議題が差し戻されることはほぼなかったし、委員会は追認するための機関なのだと感じましたね。