ふしぎソウル(5):韓国記者の警察回り

2014年02月23日

 「韓国の新人記者は、警察署を担当する『マワリ』というトレーニングを受けるらしい。日本から入ってきた習慣だというので、日本での様子を聞かせてもらえないか」

 ソウルに駐在するフランス人記者から、突然こんなメールをもらいました。日本の植民地だった時代に近代的な新聞が誕生したからなのか、韓国の新聞業界には日本語の俗語や日本式の習慣が今でも残っています。

 見出しなどの編集スタイルもかつては日本式で、1990年代までは縦書きでした。韓国の新聞はその後、横書きに切り替えたので、紙面スタイルは欧米式です。でも、新人記者に警察取材をさせることが多いというような部分は、いまだに残っているのです。

 日本では「サツマワリ」と呼ばれていて、日本の新聞社も新人記者には警察取材をさせることが多いと返事したところ、もっと話を聞かせてほしいと言います。どんな取材をしているのか興味を持ったので、翌日、会うことにしました。

 ソウル都心のプレスセンターにある外信記者クラブのラウンジで会うと、開口一番、「マワリをしているときは、警察署に泊まり込むので1カ月とか2カ月に1回しか家に帰れないらしい。日本でも同じか」と聞いてきます。思わず「えっ、本当に?」と聞き返してしまいました。この記者はさらに「本当だ。彼らは警察署の床に寝ている。しかも、朝は5時に起きて、夜は深夜まで働く毎日だという話だ。日本から持ち込まれた習慣だという話なんだけど」と続けます。

 残念ながら、欧米の記者は、日本や韓国に関する知識をまったく持たずに赴任してきている人も少なくありません。「すごい記事になりそうだな」と思いつつ、まずは「床に寝てるっていうのは、ベッドじゃなくて、オンドル部屋に布団を敷いて寝るっていうことだと思うよ」と説明します。

 それから「何か大事件が起きた時のことじゃないの? それなら日本の記者も、早朝から深夜まで駆け回り、警察署に泊まり込むというのも不思議じゃないけど」と言ってみました。

 すると「大事件が起きたんだったら、そんなのフランスだって同じこと。そうじゃなくて、新人のトレーニングとしてだ」と言います。そして「私の取材した韓国人の記者は『、マワリをしなくてもいいと言われても志願する。つらい経験を乗り越えてこそ立派な記者になれると考えられているから、マワリから逃げたら、軍隊に行かなかった男性が肩身の狭い思いをするような感じで、白い目で見られるからだ』と言っていた。日本ではどうか」と聞いてきました。

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