ソチ五輪「敗者の弁」に思う
日刊スポーツ 2月23日(日)14時49分
熱戦が繰り広げられたソチ五輪がいよいよ幕となる。日本人選手のメダル獲得など今回もさまざまなドラマが生まれたが、記者の習性としては、やはり「敗者の弁」に注目してしまう。デリケートな状況で搾り出される言葉にその人らしさが出るし、マイクを向ける側の難しさがあらためて身に染みるのだ。
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テレビを見ていてつらかったのは、表彰台を逃したスピードスケート加藤条治(5位)長島圭一郎(6位)両選手の試合後インタビュー。決まりなのでインタビューエリアに来たものの、2人とも悔しさで何も話したくないオーラがいっぱい。ひるんだインタビュアーも質問を見失ったのか、かみ合わないやりとりで後味の悪さが残ってしまった。
「悔しいです」「分かりません」。応援する人も見ている公式インタビューでひと言しか話さないなら、それこそが個性。無難な慣用句よりよほど人間味がにじんでいるのだから、聞き手はそのまま「ありがとうございました」と切り上げれば良かったのにと思う。テレビの習性として尺が必要なのか、オランダ勢の分析とか気持ちのコントロールとか、まとまらない質問が続き、ぶっきらぼうなやりとりだけが垂れ流されてしまった。そのへんを心配したスタジオ解説の堀井学氏が、視聴者に「悔しくて情けない気持ちをくんでやってほしい」と涙目でわびていたのが印象的で、ある意味でこれもソチ名場面になった。
聞き手の力量と本人の人柄がかみ合っていたのは、スキー・ジャンプ女子4位の高梨沙羅選手。インタビュアーは五輪経験豊富なNHK工藤三郎アナウンサーで、選手の気持ちに寄り添いつつ的確な質問がさすがだった。「どうですか、初めてのオリンピックが終わって」。17歳の孫を励ます60歳みたいな優しい声に勇気を得たのか、高梨選手は「皆さんへ感謝の気持ちを伝えるためにここに来たので、いい結果を出せなかったことはすごく残念です」と、立派な第一声を述べた。
世界戦では無敵でありながらの4位。「いつもの大会とオリンピックは違うところはありましたか」(工藤アナ)「やることは一緒と挑んでいたつもりでしたが、やはりどこか違うところがあるなと感じました」(高梨)。4年後がある人への質問とあって、こちらが聞きたいことをちゃんと聞いてくれたし、高梨選手もきちんと答えてくれた。最後に工藤アナが「よく頑張りました」。これには高梨選手も思わず涙ぐんでうなづいていたけれど、泣かないように必死にインタビューを受けていた17歳の責任感がよく分かった。
今大会の「敗者の弁」で個人的に最も感銘を受けたのは、女子モーグルの上村愛子選手。5度目の五輪出場で、7位→6位→5位→4位ときて悲願のメダル獲得に臨んだ大会だった。誰もが「獲らせてあげたい」と見守ったが、結果は4位。腫れ物に触るようなインタビューは選手本人も見る方もつらいと案じていたら、上村選手は自分から「聞きづらいでしょうけど、まっすぐ聞いてください」ととびきりの笑顔を向けた。こんな時でも相手を気遣い、自分から先手を打ってくれる人柄に圧倒された。
インタビューでは「自分らしい滑り」ができたと納得しており「すがしい気持ち」と何度も語った。「失敗なく攻めて滑りたいというのが3本全部かなったので、すがすがしい気持ちになるんだなぁ、って」。最後の五輪とあって、受けた質問には言葉を尽くして明るく語り、カメラには泣きまねポーズをして愛子スマイルを見せてくれた。16年間を総括し「メダルはないんですけどね、頑張ってよかったと思います、はい」。プレーも言葉も振る舞いも、何もかもがかっこよかった。
負けたばかりの選手にあれこれ聞くなという意見もよく耳にするけれど、勝った人の喜びだけ伝えるスポーツ競技って面白いのだろうか。敗者のすごさが伝わって初めて勝者の偉業が輪郭を持つ。血のにじむ努力をしたのに明暗が分かれてしまうところに共感とドラマがあり、ライブで発せられた言葉が、その人と競技の魅力を際立たせるのだ。頑張ったのにスルーされることほど淋しいものはない。コメントを求められるのは「この人について知りたい」と思わせる魅力があるからで、インタビューエリアに呼ばれることは、すごいことなのである。
もちろん、聞く側、メディア側のスキルアップも求められるのは当然のことで、自戒を込めて肝に銘じるばかりである。
【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)
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