欧州とロシアの中間に位置するウクライナの混乱が、痛ましい流血に発展した。

 77人もの死者を出した末、ヤヌコビッチ大統領と野党勢力が事態の収拾策で合意した。

 さらに大統領の即時辞任を求める動きも強く、情勢はなお不透明だが、これ以上の悲劇を避けるために、各当事者と周辺国は全力をあげるべきだ。

 人口4500万。旧ソ連諸国ではロシアに次ぐ大国である。地理的な要衝にあることから、欧州とロシアの勢力圏をめぐる綱引きで揺れ動いてきた。

 今回の事態も、昨年秋にヤヌコビッチ氏が欧州連合(EU)との関係を強める協定の調印を直前でやめ、ロシアに急接近したことが引き金だった。

 この国は多大な対外債務を抱え、経済危機の瀬戸際にある。対ロ接近の見返りに巨額融資と天然ガス価格引き下げを受け、危機の乗り切りを狙った。

 だが国内は歴史的に、親欧米の西部と、ロシアの影響が強い東部との間に深い分断がある。言語も宗教も状況が異なる。

 国の将来の方向を当面の都合で決めたことに、西部を基盤とする野党勢力が強く反発したのは必然の結果だった。

 前世紀の二つの世界大戦時には、独立を求める西部の民族主義勢力と、東部の勢力とを軸に武装闘争が起こり、おびただしい犠牲者を出した。

 だから、旧ソ連から独立したあと、歴代の大統領は、東西の微妙なバランスに配慮した政治を進めることで、国内の融和と安定の維持に努めてきた。

 だが今回、首都キエフで抗議活動を続けた野党勢力に、ヤヌコビッチ氏は治安部隊による排除などの強権的手段をとった。自国の歴史を顧みない重大な誤りだったといえる。

 事態を収拾するには今回の合意にもある、野党勢力も含めた連合政府の編成などを早急に実現しなくてはならない。野党側も、銃撃戦を演じた過激派を抑えるなどの自制が必要だ。

 再び対立が激化して内戦のような事態になれば、旧ユーゴスラビアのように欧州の安定にとって重大な脅威となる。

 ロシアとEUは、自らの影響力拡大に重点を置くこれまでの態度を改め、安定化を最優先した協調行動をとる必要がある。

 日本はこの国のチェルノブイリ原発事故への支援は続けてきたが、政治の安定や経済的自立に向けては熱心でなかった。

 安倍政権が「地球儀を俯瞰(ふかん)した外交」を掲げるのならば、この地政学的な要衝国の安定のために関与を強めるべきだろう。