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パクリサービスがうまくいかない理由

いわゆるパクリサービスって、なかなかうまくいかないことが多いと思うのですが、その理由について、僕は以下のように考えています。

  • 成功要因を分析し切れていないから

まず、後追いサービスが先行サービスの成功要因を分析し切れず、自滅するケースが結構あると思います。この点に関しては、僕が昨年最も影響を受けた本「ストーリーとしての競争戦略」の中でも深く考察されています。(以下、同書から抜粋)

競合他社はオリジナルのストーリーが内包していた交互効果の妙については十分に理解していません。場当たり的に戦略を模倣しても、オリジナルの戦略の競争優位の本質であった交互効果は発揮できません。戦略が不全をきたし、かえってちぐはぐなことになります。

このような自滅の論理は、競争優位にある企業のオリジナルな戦略ストーリーに一見して非合理に見えるキラーパスが含まれているほど、より顕著になるといえそうです。

競合企業にとってキラーパスは非合理で迂遠でバカなことに映ります。「合理的」な他社から見れば「やるべきではないこと」なので、キラーパスの部分には手を出しません。つまり、戦略ストーリーを模倣するにしても、キラーパスの部分には模倣が意識的に忌避されるのです。

オリジナルなストーリーでは、あくまでもさまざまな要素が絡み合った交互効果の「合わせ技」で成果が達成されているのですが、模倣する側はそうした合わせ技の妙を発揮できません。戦略ストーリーの模倣が往々にして構成要素の過剰をもたらすのは、模倣する企業が交互効果の合わせ技ではなく、特定の構成要素の「必殺技」の一撃に頼って、同じような強みを手に入れようとするからです。

(架空の事例ですが)例えばこれはネットサービスで言えば、

PCで成功していたCGMサービスのコピーサービスをスマホで展開しようとした
→スマホに最適化し、ライトにコンテンツを投稿できるようにした
→中身のないコンテンツばかりが集まり、メディアとして機能不全に陥った

などの失敗パターンが該当するのではないでしょうか。

あとは、よくヒットサービスの一部を切り出したようなものが登場しますが、そうやって切り出した機能やコンテンツは、実は全体の中にあってはじめて価値があるということに気付いていないケースも多いと思っています。やはり成功要因は目に見えるより複雑です。

  • 二流感が拭えないから

すごく当たり前のことを言うようですが、「あのサービスの真似か」と思われた時点でそのサービスには「二流感」が漂います。僕がいちユーザーだったとしても、そういった雰囲気が出ているサービスを使いたいとは思いません。

また、ヒットサービスは長い時間をかけて完成度を高めているので、後追いサービスがいきなりその蓄積を上回るクオリティでリリースするというのは至難の技です。(そこを追求したら、いつまで経ってもリリースできずにコストオーバーになってしまいます)

ということで、パクリをやってしまうと、おしなべてどのサービスも「似てるし、劣っている」という印象を与えてしまうと思います。そして、マイナス(の印象)スタートから事業をドライブさせていくのは想像以上に難しいです。

そうならないためには、表面的にパクるという発想から離れ、ヒットの裏側にある人間の心理や欲求を深堀りし、そこから新たなアイディアを膨らませていくのが良いと思っています。

  • 同じユーザーが使ってくれると勘違いするから

2ちゃんねるの面白いスレッドを見ていると、あのレベルのやりとりは確実に2ちゃんユーザーでないと成立しないと印象があります。これは、ヒットサービスをヒットサービスたらしめているのは中にいるユーザーであることを実感できる好例です。

通常、運営者はユーザーを意識しながらサービスを拡張していきます。そうすると、長い歴史があるサービスほど、彼ら固有のユーザーがいて初めてワークする機能が増えていきます。後発のサービスがいきなり先行サービスと同じようなユーザーを囲うのは無理なので、そういった背景に気づかずに同じようなものをリリースしても思うようにいかないのは当然の結果です。

そうならないように、リリース後のユーザーイメージを現実的かつ段階的に想像し、その各ステージにサービスをフィットさせながら成長していくことが望ましいと思います。

  • 志や想いがない(伝わらない)から

あとは、やはりパクリサービスをやろうとする人や組織は、先行サービスと同じような志を持っていないことが多いと思います。そしてそれは、ユーザーを惹きつける温度感やメッセージ性、細部の作り込みなどの差として露呈してしまいます。スタートアップが掘り当てた金脈に大企業が乗っかろうとしてもうまくいかないことが多いですが、僕はその原因のほとんどはこれに該当するのではないかと思っています。

また、今回一貫して「パクリ」という言葉を出しておきながらその定義について言及していませんでしたが、僕は自らの志や想いがあり、それを実現するための手段として既存サービスの良いところを取り入れるのはパクリではないと思います。ただ、そういう志なしに、「アレをマネて成功してやろう」という気持ちが先行してできたものはパクリだと思っています。


まぁ、正直に言えば、僕自身パクるのが嫌いなのでこういうエントリーを書いた訳なんですが、やっぱりこのように客観的に考えてみてもあまり成功する気がしません。

渡辺将基(Masaki Watanabe)
Innovation from Popular Sense

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