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22 Feb 2014 12:23

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もしかして、名曲? 剛力彩芽のセカンドシングルを音楽的に徹底解説

リアルサウンド 2月15日(土)23時48分配信

もしかして、名曲? 剛力彩芽のセカンドシングルを音楽的に徹底解説
剛力彩芽-『あなたの100の嫌いなところ(初回生産限定盤)(DVD付) [CD+DVD, Limited Edition]』

 デビュー曲「友達より大事な人」で賛否両論を巻き起こした剛力彩芽が、セカンドシングル「あなたの100の嫌いなところ」を2月26日にリリースする。前作同様にMVで印象的なダンスを披露する一方、楽曲面では「前作よりも音楽的に面白い」との評価も聞かれる。音楽ジャーナリストの宇野維正氏が、80年代の「シンセベース」サウンドをキーワードに、本楽曲を徹底解説する。(リアルサウンド編集部)

 剛力彩芽のセカンドシングル「あなたの100の嫌いなところ」。デビュー曲から、たっぷり半年以上のインターバル。路線変更や仕切り直しをするには十分な時間だ。にもかかわらず、先行して公開されたビジュアルは相変わらず斜め上の野暮ったさで、曲のタイトルもなんだか挑発的。作家陣やミュージックビデオの方向性も前作を踏襲するという確信犯ぶりで、いささかウンザリしながら、どこからディスってやろうかと思いを巡らせていた……曲をフルで聴くまでは。

 そう、今回の新曲、曲単体に関して言えば、全然悪くない。というか、むしろ相当いいのだ。というわけで、ここではゴリ推しだの炎上商法だのといったことは隅に置いておいて、それとミュージックビデオに出てくるなんだかイラつくアニメのキャラも見なかったふりをして、「あなたの100の嫌いなところ」の楽曲としての魅力について解説していきたい。

 まず、この曲において圧倒的な存在感を誇っているのは、全編にわたって鳴り響いているぶっといベースライン。ぶっといベースといえば、今の流行り的につい手を出してしまいがちなのが、最近だと中田ヤスタカなどが非常に洗練された手法で導入しているダブステップ的な、あのちょっとつんのめった変拍子のリズム。しかし、この曲で用いられているのは、あくまでも平面的で無闇やたらにぶっといだけの、ニュージャックスウィング(テディ・ライリーが生み出したバウンシーなベース)以前、ハウスミュージック(ローランドTB-303由来の無機質なベース)以前の、80年代MTV的シンセベースのサウンドだ。

 80年代MTV的シンセベースを最も印象づけた曲として、音楽ファンならまず思い浮かべるのは、Nu Shoozのヒット曲「I Can’t Wait」だろう。前作「友達よりも大事な人」の時は、「デビー・ギブソンやティファニーを思い出させるような野暮ったい80年代ガールズポップ」風アレンジをどうしてわざわざ採用したのかについて疑問を投げかけたが、同じ80年代でも、今やすっかりダンスクラシックにもなったこのNu Shoozのような「シンセベースが曲の骨格にして、そのすべて」という手法に目を付けた今作の編曲は、なかなか気が利いている。

 そして80年代MTV的シンセベースの第一人者と言えば、何はともあれマイケル・ジャクソンだ。「Billie Jean」も「Beat It」も「Thriller」も、曲の中で最も「歌って」いるのはベースライン。楽曲の構造としては、ボーカルもビートもすべては極太のベースラインに引っぱられている。「あなたの100の嫌いなところ」を聴いて興奮したのは、まるでそんなマイケルの楽曲にオマージュを捧げるように、中盤のブレイク部分(2:15〜あたり)で唐突にロックンロール的なギターのリフが挿入されているところだ。

 ブイブイ鳴り響くシンセベースとロックンロール的なギターリフの合体というのは、いわばマイケルの専売特許と言えるもの。その最も象徴的な曲である「Black Or White」は、かつて小沢健二が「さよならなんて云えないよ」で、近年ではLove PsychedelicoがSMAPに書き下ろした「This Is Love」で、重要なモチーフとしてきた名曲だが、いずれの曲でもリズムは生音風のサウンドでレコーディングされている。その点、「あなたの100の嫌いなところ」はマイケルの手法と同じくベースとビートのユニゾン感を際立たせている点において、あの80年代感をよりスポイルすることなく再現していると言っていい。

 「マイケルとシンセベース」というテーマは、語るべきストーリーがいくつもあるのだが、ここで思い出してほしいのはマイケルがアルバム『Thriller』製作時にYMOにアプローチしていたという有名なエピソードだ。マイケルはYMOのセカンドアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』収録の「ビハインド・ザ・マスク」をいたく気に入って、そのカバーをレコーディング。『Thriller』に収録する予定だった(しかし、当時は条件が折り合わずに実現せず。マイケルが歌う「ビハインド・ザ・マスク」は、彼の死後に発表されたアルバム『Michael』に収録されている)。マイケルがYMOのどこに夢中になったのか。その一つは、彼が愛して止まなかったシンセベースのサウンド、その世界的な先駆者である細野晴臣の演奏にあったのではないか。そして細野晴臣こそは、シンセベースのサウンドを日本の歌謡曲に持ち込んだ第一人者でもあった。

 というわけで、ここで細野晴臣の手がけた松田聖子の代表曲あたりを挙げれば論旨はキレイにまとまるのだが、歌謡曲×シンセベースの最強トラックといえば、同じ松田聖子でも「Rock'n Rouge」にトドメを刺す。作詞・松本隆、作曲・呉田軽穂(松任谷由実)のこの曲、編曲を手がけているのは松任谷正隆。80年代半ば以降のユーミンの作品でも顕著だが、松任谷正隆の編曲は(ご本人はとてもお洒落な方なのに)いつもどこか垢抜けない。正直に言うと、中学生時代にリアルタイムで初めて「Rock'n Rouge」を聴いた時でさえ、「今度の松田聖子の新曲、ちょっとダサいな」と思ったくらいだ。でも、その垢抜けなさこそが、年月を経ると愛すべきサウンドとして、いい感じに熟成されてくるのだ。

 剛力彩芽の「あなたの100の嫌いなところ」。現時点でもかなり気に入っているが、ひょっとすると10年後や20年後、「Rock'n Rouge」のようにさらに味わいが増してくるんじゃないか。そんなことを思わせてくれる、愛さずにはいられない楽曲なのである。

宇野維正

最終更新:2月16日(日)4時29分

リアルサウンド

 

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