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殿下執務室2.0 β1

  : 

有芝まはるが綴る、競馬話その他の雑談、そしてYet Another Amateur Photography。

フィギュアスケーターとして記憶されたい、とキム・ヨナは言った。 

たまには自分でも滑ろうぜ(挨拶)

Blades Off
Blades Off; DMC-GX7 Leica DG Summilux 1:1.4/25 ASPH. F2.8 1/40s ISO-800
DxO FilmPack 4.5: Ilford Delta 400


“I want to be remembered as myself, as a figure skater, rather than a gold medalist at Vancouver or a silver medalist at Sochi,” the 23-year-old Kim told a news conference Friday that was packed with Korean media.
Yuna Kim wants to be remembered as a skater - The Washington Post

 この言葉を目にして、そしてキム・ヨナ、このまさしく記憶さるべき卓越したフィギュアスケーターには本当に申し訳ないのだが、ごめん、やっぱり俺達は浅田真央のFSを思い出してしまうよ、と。そして、両者の関係は恐らくライバルというには浅田はキムにマッチしきれなかったと思うのだが、何故キムがそうありたいと願うものを浅田がああいう形で先に手にしてしまうのか、という運命的な何かとしての一つの刻み、というか。

 しかし、キムはキムで、現実としてはこのソチのFSの最終滑走者を「絶対に金メダルの取れないポジション」から臨んでいたのである。
 ソトニコワがFSでマークした得点は、61.43の基礎点に対してプラス14.21のGOE、そしてPCSは74.41である。キムは17点のGOE加点をバンクーバーで獲っているが、あの時とはジャンプのGOE加点係数が減少していることを考えれば(何も全てのルールがキムに有利なように変更されている訳では無いのだ!)正直かなり超えるのは難しい。またPCSは80点満点であり、別にそう満点の付くような性質のものでもないと考えると、この両方で上積みできる余地はかなり低いものであった。
 その上で、キムはバンクーバーにおいてすら基礎点は60.90、そこから連続ジャンプを一つ2A+3T→3S+2Tとレベルダウンしてここに臨んでいて、明らかにここでは差を付けられる。もうスピンやステップでも全てレベル4を取りかつ完璧にミスなく演じて、初めて追い付ける数字だったのだ。そして、故障と加齢でスピンのレベルを保つのは極めて困難であったことを思うと。GOEとPCSでの優位性は確かに彼女を浅田に対して得点争いで優位にするものであったが、結果としてこの4年間、GOEやPCSが重要だと気付かれた世界でその偏差が下がり、いつの間にかキム自身をも相対化していたのである。
 もうバンクーバーの段階で、その数字を上げ尽くしてしまっていたのだから。

 恐らく、キムがその「必敗」な状況に気付いてリンクに入った訳では無いだろう。4年前にキムのスコアがアナウンスされる中でリンクインしていた浅田と違って、彼女は21番滑走のソトニコワを見る場所には居なかったのだし(他の選手見て数字意識する、ということをこの競技でやる選手はそもそも居ないと思う)。試合後に採点に疑問を呈した解説者や元選手たちもまた、気付いてなかったのかも知れない。
 そして彼女は、自らを「金メダルを獲る」ための文脈に置きつつかつ「絶対に金メダルは獲れない」という状況の下で、彼女らしく、実に美しい滑りを見せた。しかし、彼女にとってある意味皮肉なのは、その演技を多分自身においても、そして当然多くの観戦者においても、「金を獲れなかった」とラベリングされること、ではあろう。そこを外してみれば、虚心では、やはりあれは本当にキムらしい、見事な滑りだったのであるが、そういう虚心を前提化するために採点システムを理解しなければならないというのが、現代フィギュアスケートの、本当に難しいところだとは痛感するものではあり。

 カロリーナ・コストナーは、地元の天才少女として過剰に期待されたトリノで惨敗したということ、そしてその後の時代に現役スケーターとして常にキムと浅田という圧倒的な存在が居る中で現役生活を送ったという点では、安藤美姫に立場としては似ているのかもしれない。そして、安藤のように「気持ちの弱さ」を何処か持つ選手でもあったとは言えようか。ただ、安藤がその気持ちの弱さをある意味抱えながらその弱さすら美しさに昇華していったのに対し、コストナーは実直にそこをクリアし続けてこの8年を完成させた、と思う。傷だらけになりながら男坂を踏み上がた安藤と、ゆっくりだけど着実に女坂を歩み続けたコストナー。
 果たして、今やSPのアヴェ・マリアにFSのボレロという「女子の王道」的な選曲を堂々と演じ切る、見事な「完成品」ぶりをこの舞台で魅せて、「あぁ、最後にこういうスケーターになれたんだ」ということに、感慨を禁じ得ない。メダルとかは関係なく、コストナーにとってもスケーターとしての「勝利」を証明できた舞台となったのだろう。恐らくは、才長け過ぎてロールモデルとはなりづらいキム・浅田・安藤と比しても、こういう存在が成功したことは、今後のフィギュアスケートの世界にとっても明るい材料ではないだろうか。いや、我々には既に鈴木明子が居たのだけど。
 逆に、ソトニコワはまだ何も「フィギュアスケーター」として証明する前に、金メダリストとなってしまった側面はあったのかな、ということを考える。それどころか、メダルへの期待という意味ですら、彼女はアウトサイダーとしてこの五輪に臨んでいたのだ。近年では、サラ・ヒューズに近いタイプとは言えるだろうか。羽生のように今シーズンにある程度「チャン超え」が五輪あってもなくても実現しそうだったタイプともちょっと違うとこはあり、その意味でアマチュア競技への今後のモチベーションも含め、アイデンティティとして「フィギュアスケーターとしてのソトニコワ」を探すことが求められる立場なのかもしれない。出来れば、リプニツカヤ辺りと切磋琢磨する場面をもっと見て見たくもある。少なくとも、齧る程度しかフィギュア見てない自分辺りにとって、まだこの金メダリストには、フィギュアスケーターとして未知の部分は多いので、もっと知りたいと思う。

 浅田に関しては、もう言うことは無いだろう。
 ソチのあの舞台において、彼女は明らかに「フィギュアスケーター」として記憶された。この手の復活劇では、トリノでのライザチェクなんかが記憶に新しいが、やはりインパクトでは今回が上回る。結果としてここでバーを上げたことで最終組のPCSの基準点が上がってメダル争いに影響をもたらしたかも知れないが、それすら些細なことではある。
 しかし、事前に「表現の第一人者」と書いたが、音楽の物語をこうして実践の場に刻み込んでしまうとは、という感はあった。ラフマニノフのピアノ協奏曲2番は、作曲者自身がその前に交響曲1番という曲を大酷評されて、精神を病むほどの失墜した心理の中で達成された、作曲者の最も代表的な名作である。その世界を、ある意味自身の成績によって実現してしまったのだ。音楽の文脈性、みたいな話は過日も高橋大輔のSP曲などを巡って色々とあったりもした訳だが、事実は詐病のシナリオを軽く凌駕するものではあるだろう。タラソワ師はこの曲を選曲したことについて、結果余りにスケーターが運命的過ぎることによって結果メダルを逃すことになった件について真央に平謝りして貰いたいものであるが(笑)、いずれにせよ、ピアノ協奏曲と同様に我々の世代にとってこの4分間は「永遠」とはなったと思うし、それは同時にある種のスポーツ的な美の絶対性でもあった。
 その意味では、「表現の第一人者」として期待した以上のものを、浅田はこの場で刻んだのではと思う。

 そして最後に、フィギュアスケーターとは何であるのか、とは考える。
 浅田が泣いた。リンクサイドで信夫師とジャンナ助手が泣いた。観客席では高橋大輔が泣き、ロシアの実況席ではタラソワ師も泣いた。誰もが。その涙は、アートによるものか、スポーツによるものか。失敗したらそのまま重力の法則に従って谷底に流される他のウィンタースポーツの採点競技と異なり、最初のジャンプの失敗を残りの競技の間引きずり続けないといけない(しかしリカバリーもできる)この競技は、失敗に寛容であるとも言えるし過酷であるとも言える。そしてそういう複雑な文脈の中で困難なトリックを要求され(なにせリカバリーもできるということになってるから)、一方で音楽に合わせるなどという「芸術的」な所作も要求される。
 そうした複雑さと真摯に向き合い、そして同時に観客と対話し、ロマンティックを産みだす者たち。
 その宿命の強さこそが、浅田真央を「真のフィギュアスケーター」としたのだろうか、などと思い、またあのラフマニノフを再見するのである。「あなたは、最も強い子よ」と落涙しながら呟くタラソワ師の姿などを、思い出しながら。
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テーマ: フィギュアスケート

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