「日米の絆を取り戻す」

 安倍首相が掲げる外交政策の柱が傾きかけている。しかも、首相自身の手によって。

 オバマ大統領訪日を控え、安倍政権はその深刻さを正面から受け止めるべきときだ。

 きっかけは、昨年末の首相の靖国神社参拝だった。

 首相は参拝にあたり「戦争犠牲者の御霊を前に、不戦の誓いを堅持していく決意を新たにした」との談話を出した。だが、米国が突きつけたのは「失望した」との声明だった。

 この声明への激しい反発が、首相側近とされる自民党の議員から噴き出ている。

 衛藤晟一首相補佐官は「我々の方が失望した。米国は同盟関係の日本を何でこんなに大事にしないのか」と語った動画を公開した。

 萩生田光一・自民党総裁特別補佐は「共和党政権の時代にこんな揚げ足をとったことはない。民主党政権だから言っている」と講演で批判した。

 また、首相が任命したNHK経営委員の百田尚樹氏は、東京裁判について「(米軍による東京大空襲や原爆投下を)ごまかすための裁判だった」と東京都知事選の際に演説した。

 米国務省は「不合理な示唆だ」と反論した。日本はサンフランシスコ講和条約でこの裁判を受諾した。当然の反論だ。

 解せないのは、一連の言動を「個人の発言」「放送法には違反していない」と繰り返す首相や菅官房長官の姿勢だ。

 こんな言いつくろいが世界に通じるわけがない。きっぱりと否定しなければ、首相の本心を周囲が代弁しているととられても仕方がない。

 首相はこのところ、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の見直しに前のめりだ。

 集団的自衛権はもともと米国が後押しし、昨秋の日米外務・防衛担当閣僚会合では、容認に向けた政権の動きを「歓迎する」としていた。

 ところが、歴史に真摯(しんし)に向き合わない首相らの姿勢は、むしろ米国のアジア戦略の攪乱(かくらん)要因になっているとの見方が、米国内で急速に広がっている。

 先日、日本を訪れた米下院のロイス外交委員長は、首相の靖国参拝について「中国を利することになると心配している」と日本の議員団に語った。

 ロイス氏は、首相側近が批判した民主党ではなく、共和党の議員だ。

 こんな忠告をしてくれる友人がいる間はいい。異なる見解を排除するだけの外交姿勢は、このへんでやめにすべきだ。