2014/02/21(金)更新
非常に地味なタイプの音楽でありながらも前回大反響のあった「2010年代に聴くべき、新しいピアノ・ミュージック」。最後に触れたアーティストへのリクエストを数多く寄せられましたので、ご期待にお応えしてパート2をお送りします。
先週公開した記事「2010年代に聴くべき、新しいピアノ・ミュージック」が、おかげさまで大反響となりました。これは、ポスト・クラシカルやアンビエント、コンテンポラリー・ジャズに現代音楽など様々なジャンルから登場した新感覚のピアニストが、それだけ注目されている証拠だといえます。しかし、10人のピアニストだけではさすがに不十分ということもあり、今回はさらに拡大して15人のピアニストをセレクトしてみました。
エリアもヨーロッパ、北米、日本から拡大し、今回は中南米のアーティストもセレクト。実際、アルゼンチンやブラジルには静謐なピアノ演奏を好むプレイヤーが多数いるので、ここでは紹介仕切れないほどの充実ぶり。また、ジャンルの垣根を越えたプレイヤーを選出していますが、ジャズやクラシックの分野に特化しても個性的なピアニストがまだまだ存在します。そのあたりは、機会があればあらためてご紹介しましょう。
というわけで、今後の音楽シーンを牽引するであろう15人のピアニスト。「2010年代に聴くべき、新しいピアノ・ミュージック」第二弾をお楽しみください
「Bach Mirror」
ドイツ出身で現在ロンドンを拠点に活動するマックス・リヒターは、ポスト・クラシカルというカテゴリで以前から評価を得てきたピアニストのひとり。オリジナル・アルバムや映画音楽などの他に、ヴィヴァルディの「四季」を再構築するプロジェクトも話題になりました。この映像は、東日本大震災直後のチャリティー・アルバムとして制作された『For Nihon』(2011年)に収められた一曲。水の流れの上で点描のように弾くピアノの音色が印象的です。
「Meine Hand Und Deine Hand」
旧東ドイツ出身のヘニング・シュミートもユニークなピアニスト。アルバムごとにコンセプトがしっかり決まっており、“雲”や“散歩”をテーマにした作品群は日本でも高い評価を得ました。情景を感じさせるピアノ・ソロがメインですが、楽曲によってはエレクトロニクス処理を行うなど実験的な一面もあります。来日時に見た東北地方の雪景色にインスパイアされたというアルバム『Schnee』(2013年)を引っ提げ、1月にジャパン・ツアーを行いました。
「In Dulce Jubilo」
ノルウェーのブッゲ・ヴェッセルトフトは、どちらかといえばジャズの文脈で評価されているピアニストです。とはいってもストレート・アヘッドなジャズではなく、クラブ・ミュージックと融合した作品などは、一時期“フューチャー・ジャズ”といわれて話題になりました。バンドやエレクトリックな作品も多いですが、近作のピアノ・ソロ作品『It's Snowing On My Piano』(2012年)は、北欧ならではのクールなロマンティシズムを感じます。
「Words Of Amber」
ニルス・フラームとの共演でも知られるアイスランドのオーラヴル・アルナルズ。もともとハードコア・バンドのメンバーだったりシガー・ロスのツアーに同行したりと、どこかエキセントリックではあるだけに、プログラミングやヴォーカルを取り入れるなど常に前進している印象があります。来月には来日公演が決まり、アナログのみで発表されていた楽曲を集めたアルバム『Two Songs For Dance + Stare + Thrown EP』もリリース予定。
「Dory」
北欧からもうひとり紹介しておきましょう。デンマーク出身のジャズ・ピアニストであるアウグスト・ロウゼンバウム。この映像はコペンハーゲンの教会で行ったライヴですが、ハーモニウムから始まりフェンダー・ローズでしっとりと奏でていきます。しかも演奏するのは、ブルックリンのインディー・シーンで活躍するバンド、グリズリー・ベアのカヴァーというのも興味深いところ。まさに新世代ならではの感性を持つピアニストといってもいいでしょう。
「Nascente」
南米ブラジルのピアニストといえば、エグベルト・ジスモンチやエルメート・パスコアルなどがカリスマ的存在ですが、彼らの跡を継ぐ存在といえば、なんといってもアンドレ・メマーリでしょう。昨年のイベント「THE PIANO ERA 2013」にも出演し、ダイナミックかつ技巧的な演奏で多くの観客の度肝を抜きました。この曲はMPBの名曲をセレクトしたアルバム『Afetuoso』(2011年)に収録されたフラヴィオ・ヴェントゥリーニのカヴァーです。
「San Telmo」
本当はアルゼンチンのアレハンドロ・フラノフとウリセス・コンティを紹介しようと思ったのですが、「アルゼンチン音響派・再入門10選」というエントリで紹介済ですので、ここではまた違う2人を取り上げます。ひとりはマルコ・サンギネッティというジャズ・ピアニスト。といってもインプロヴィゼーションというよりは楽曲の構築性を重視する演奏家で、この曲でもインドで録った街の音に乗せてひたすら反復するピアノのリフに酩酊感を覚えます。
「Tu Amor En Todas Partes」
もうひとりアルゼンチンからは、クラウディオ・カルドネをピックアップ。彼は、アルゼンチン・ロック最大のスターであるルイス・アルベルト・スピネッタの晩年の音楽監督としても知られ、浮遊感を生み出すアンビエント・サウンドを得意としています。満を持して発表したソロ・アルバム『No-Tiempo』(2013年)は、なんと2枚組みの超大作。音響派の鬼才モノ・フォンタナにも通じる実験性と叙情性を持ち合わせた希有なプレイヤーです。
「Calling Eggun」
キューバ出身のオマール・ソーサもかなり興味深いピアニストです。ラテン・ジャズのグループでプレイしていたこともあり、アフロ・キューバンの伝統に根ざしたアグレッシヴな演奏をする一方で、キース・ジャレットあたりにも通じるソロ・インプロヴィゼーションを得意としています。この曲はバンド編成で録音したアルバム『Eggun』(2013年)収録曲のピアノ・ソロ・ヴァージョン。先日発表されたばかりの最新作『Senses』もピアノ・ソロの力作でした。
「Shenandoah」
ゴールドムンドは、米国ペンシルバニア出身のキース・ケニフによるピアノ・プロジェクト。ギターをメインとしたヘリオス名義でのアンビエントも素晴らしいですが、近年はピアニストとしての注目度も非常に高くなっています。近作の『All Will Prosper』(2011年)は、なんと南北戦争の頃の流行歌をカヴァーするという企画作。この有名な「Shenandoah」も、原曲をすっかり忘れてしまいそうなほど独自の美学で彩られています。
「I Am Piano」
米国ポートランド出身のピーター・ブロデリックは、ニルス・フラームやオーラヴル・アルナルズらと関係が深いマルチ・ミュージシャン。彼のことをピアノだけで評価するのは無謀かもしれません。とりわけ、ヴォーカリストとしても独特の味わいを持っており、フリー・フォークの側面から評価されることもあります。2012年発表のアルバム『itstartshear.com』は、タイトルのアドレスにアクセスすると試聴など出来るというユニークな企画作。
「プレリュード 嬰へ短調」
日本におけるピアノ・ミュージックの火付け役は、もしかしたら中島ノブユキなのかもしれません。2006年にアルバム『エテパルマ』でデビューして以来、ジャンルを自由に縦断しながらも、一貫して静謐なピアノを聴かせてくれます。『メランコリア』(2010年)収録のこの曲は、バンドネオンの北村聡と共演した室内楽風の佳曲。動画がなかったのでリンクできませんでしたが、完全ピアノ・ソロに徹したストイックな最新作『clair-obscur』も必聴。
「fleur」
小瀬村晶もこういったノンジャンルのピアノを日本に定着させたアーティストのひとり。レーベルscholeを主宰し、自身の作品だけでなく、haruka nakamuraやクエンティン・サージャックといった国内外のピアニストを紹介する役割も担っています。ピアノ・ソロをメインにしたアルバム『how my heart sings』(2011年)は、春から秋へと季節の移ろいを楽曲に反映したというだけあって、どこか和の印象をもつリリカルな作品集。
「clouds」
トウヤマタケオもピーター・ブロデリック同様に、ピアニストとしてだけでなく、シンガー・ソングライターとしての側面も持つユニークなミュージシャン。ソロやトウヤマタケオ楽団名義、そして幻灯とコラボレートするユニットのランテルナムジカといった多彩な活動を行っています。このThrowing a Spoonは、チェロ奏者の徳澤青弦と組んだデュオ。山梨の山中で窓を開け放して録音したらしく、鳥の声なども聞こえてきてとても癒されます。
「回転木馬」
若手のホープとして、平井真美子を最後にセレクトしておきましょう。彼女も昨年の「THE PIANO ERA 2013」に出演したひとり。映画やCMの音楽も多数手がけているので、無意識にその演奏を耳にしているかもしれません。昨年発表した2作目のオリジナル・アルバム『夢の途中』は、いつかどこかで聴いたことがあるようなノスタルジックな印象のメロディの数々が、甘ったるくならず淡々と演奏されていく心地良い傑作でした。
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