「原発によっては申請から相当な時間がたっている。審査の見通しを示すことは事業者が今後の経営を見通すうえで有益だ」。再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査について、茂木経産相がこう発言をした。

 安全優先のため、独立性を重視した規制委の設置法の趣旨を軽んじていないか。規制委への圧力となりかねない発言は厳に慎むべきである。

 もちろん、規制委は影響されてはならない。再稼働に前のめりな電力会社や経産省の思惑を排し、科学的・技術的な観点から審査を尽くすのが使命だ。

 茂木発言は、北海道電力が電気料金の再値上げ方針を表明したことを受けて飛び出した。

 北電は昨年7月、新規制基準による審査開始と同時に泊原発1~3号機を申請した。9月に家庭用で平均7・73%値上げしたのは、12月以降に3基が順次再稼働するのが前提だった。

 だが今週、再稼働時期は見通せないとして再値上げを経産省に申請すると明らかにした。

 茂木氏は北電に値上げ回避の努力を求め、「審査に予断を与えるものではない」と断りつつ、規制委に注文した。

 審査の見通しが示されれば、電力会社には好都合だろう。

 だが、それを経産相が促すのはどうしたことか。旧原子力安全委員会と、経産省の下にあった旧原子力安全・保安院による「なあなあ」の安全規制への反省はどこへいったのか。

 そもそも審査が進まぬ最大の原因は、電力会社側にある。

 新規制基準を甘く見て、審査資料が大幅に遅れたからだ。自然災害の想定がおざなりだったり、過酷事故を真剣に考えていなかったり。福島第一原発事故の教訓を自らの問題としているのか、疑問な対応が相次いだ。

 泊原発は特に穴が多かった。

 北電は1、2号機で過酷事故対策の有効性を評価する際に、構造が違う3号機の解析を流用し、規制委に「代替(替え玉)受験のようだ。審査しようがない」と酷評された。津波想定は「不適切」、噴火の影響評価は「不十分」で、3号機の地下構造の再分析も求められた。

 茂木氏は審査に時間がかかっている要因には「言及を控えたい」と述べた。改めさせるのは電力会社の甘い姿勢のほうだ。

 田中俊一規制委員長は茂木発言を「我々へのメッセージとはとらえていない」というが、審査実務を担う原子力規制庁の次長はその前日に「経産相の立場として自然な発言」と述べた。独立性を保つためには、常に毅然(きぜん)とする必要がある。