今回のフェイスブック(ティッカーシンボル:FB)によるWhatsApp買収は、グーグルYouTube買収を彷彿とさせるものがありました。

当時、検索中心だったグーグルが動画サイトを買収したので「えーっ! ちょっと違う路線だよね」と驚いた投資家が多かったです。

その後、グーグルは次々にホットなスタートアップを買収し、M&Aを成長戦略のひとつにします。

今回のフェイスブックのWhatsApp買収は「世界をひとつにつなぐ」というフェイスブックの社是には合っているけど、既存のフェイスブックのタイムラインとのすわりは悪いです。ザッカーバーグが「当分、WhatsAppは別個に経営する」としているのはそのためです。

これはグーグルがYouTubeを自由に泳がせてきたのと酷似しています。

それではすぐにシナジー効果を得られなくても買収する意味はあるのでしょうか?

ネットの世界では猛烈なスピードで急成長している企業が将来、どんなカタチで自分のビジネスの脅威となるかを予見することは難しいです。

シリコンバレーでは、それを迫りくる隕石に喩えることが多いです。最初は小さくて問題にならないと思っていたのが、ちょっと目を離した隙に巨大な存在になって猛スピードでぶつかってくる……

そんな危ない存在になる可能性のある企業は、ヨチヨチ歩きのうちに買収してリスクの芽を摘み取っておく……これは1990年代にシスコ・システムズ(ティッカーシンボル:CSCO)が完成させた保身術です。

最近、フェイスブックに対して「若者がFacebook離れを起こしている」などの批判がありました。実際、ユーザー指標の変化率はピークを打った観がありました。

その半面、マネタイゼーションはすこぶる順調に進捗していました。

つまりフェイスブックは「刈り取り」のフェイズに来ていたわけです。

問題は「成長」を求める投資家と、「収益」を求める投資家の両方を満足させることはとても難しいという点です。最近のフェイスブックは「収益」では百点満点でも「成長」のロードマップは先が見えない状態になっていたわけです。

今回、WhatsAppを買収することで、フェイスブックは新しい「成長」のエンジンを手に入れます。特に重要な点は、「成長」を要求する投資家は、業績を気にしないという点です。だからWhatsAppはすぐにマネタイズしなくて良いし、逆に言えばマネタイズしようとしてはいけないのです。

これはLINEのようにユーザーを増やしてゆくと同時にマネタイズも考えないといけないライバル企業にとっては脅威となります。

今回の買収代金190億ドルの78.9%はフェイスブック株を「買収のカレンシー」に遣っています。これは株価収益率で102倍という高い評価、換言すれば「強い通貨」を利用して安上がりな買収を設計することに他ならないわけで、賢い買い物だと言えます。

このように市場が何を求めているか? をクールに観察し、自社の持っているリソースを投入してゆく軍師の役目はコーポレート・ストラテジーやM&A担当が果たします。

今回のフェイスブックのアドバイザーはアレン&カンパニーでした。この巨大なトランザクションにゴールドマンやモルガン・スタンレーといった大手投資銀行ではなく、従業員100人強のメディア・ブティックの投資銀行が起用されたことにシリコンバレーでは驚きの声が上がりました。

ここからは僕の観測ですけど、これは1年ほど前にフェイスブックに移籍した新しい軍師、デビッド・ウェーナーの存在が関係していると思います。彼はもともとアレン&カンパニーでセルサイド・アナリストをしていました。

アレン&カンパニーは毎年夏にアイダホ州サンバレーでメディア業界の重鎮を集めて極めてエクスクルーシブなカンファレンスを催すことで知られています。そこで培った人脈やコネで商売を作っているわけです。