『明日、ママがいない』第4話5話6話:現実を見る・心にクッションを
碓井 真史 | 社会心理学者/新潟青陵大学大学院教授/スクールカウンセラー
ドラマのあらすじをたどりながら、いろいろ考えます(ネタバレあり)。
■明日ママがいない第4話(2月5日放送)あらすじ:私、現実を見る
第一話を見て、まずぶっとんだのが、「ジョリピー!」と(かつての樹木希林が「ジュリー!」とやったように)叫ぶ児童養護施設の少女。第3話は、この少女ボンビ(渡邉このみ)が主人公です。
ボンビは、里親候補宅へ「おためし」で泊まりに行きますが、なぜか気を失います。ポスト(芦田愛菜)は、この謎を解くために、ボンビの故郷へ。
実は、彼女の両親は大震災で亡くなっていました。
初めて児童養護施設コガモの家に来たとき、ボンビはニコリともしませんでした。カウンセラーやら、いろんな大人が来ましたが、だめでした。そんなとき彼女は言い出します。いつか、両親が迎えに来る。だから、普通の里親なんか意味ない。行くなら、ジョリピのような大スター大豪邸の家へと。
その妄想に付き合ってあげたとき、彼女は笑顔になりました。
だから、第一話の派手で非現実的でありえない、あの雰囲気、「ジョリピー!」は、意味があったのです。
物語は、ポストの努力と友情、魔王:施設長(三上博史)とボンビのおばによるメルヘンチックな一芝居で、ハッピーエンドです。
でも、ボンビは途中から芝居に気づいていました。それでも、彼女は笑顔に戻ります。そして、現実をきちんと見すえていくのです。
■明日、ママがいない第5話(2月12日放送)あらすじ:親の思い、子の思い
今日のメインの話しに入る前に、前回からの流れで、とても丁寧に大人っぽく謝る子供の姿が描かれます。非現実的でありえないほど、大人っぽい態度です。
ドラマですから現実と違ってもいいのですが、でも、実際にこういう子供を見ます。児童養護施設や、児童相談所で。とても礼儀正しく、遠慮深く、大人のような態度が取れる子供たちを見ることがあります。
良い子達でしょうか。そうとも言えますが、そうしなかれば生きてこられなかった子達です。子供らしさを抑えてきた子達です。
ドラマでは、ボンビはもう「ジョリピー!」と叫びません。パチ(五十嵐陽向)も、お母さんの思い出の香りとして手放せなかったシャンプーを手放します。子供たちは少しずつ強くなり、少しずつ幸せに近づいていくような気がします(現実ではそんなに簡単に短期間に子どもの心理的な問題が解決へ向かうことなどないでしょうが)。
今回のドラマでは、実の親、育ての親、子の思いなど、様々な立場の思いが交錯します。
ピア美(桜田ひより)は、ピアノの名人です。ピアノのコンクールに出ることになります。コンクールに出れば、会社が倒産して失踪した父が会いに来てくれることを期待して。
父親は、こっそり見に来ました。でも、ピア美の前には現れません。
大人が子供に解説します。
子供は、どんな親でもいて欲しいと願う。でも親は、きちんと育てられない環境に子を起きたいないと思う。遠くからでも娘の活躍を眺めていたいと思う。
ポストは、「本当にそれでいいの」と悔しそうに叫びます。
里親候補のお母さんの言葉も心に残ります。
無理に、本当のママを忘れなくてもいいのよ。
私ができるだけ近づくから、
始まりは偽物のママでも、いつか本当のママになれたらいい。
実の子をほしがっている夫婦へのボンビのセリフも印象的でした。
本当の子じゃないとダメですか
子ができない夫婦もいるけど、
親ができない子も
捨てられた子も
それでも幸せになりたい子がいることも、知っていてください。
日本は、とても豊かな国ですが、里親制度がなかなか広がらない国です。
■明日、ママがいない第6話(2月19日放送)あらすじ:心にクッションを
ロッカー(三浦翔平)は、妻に暴力をふるおうとしている男を偶然見かけ、彼に暴力をふるってしまい、逮捕されます。
実は、彼の父ははげしいDVを行い、妻と子に暴力をふるっていました。そして、母は父を殺します。
ロッカーは、とてもやさしく親切で、コガモの家の子供たちの食事の世話をしていました。でも、今回の事件で子供たちは不信感を抱きます。そしてとうとう、彼に出て行ってほしいと、魔王:施設長(三上博史)に訴えます。
子供たちは思っています。
私達は暴力をふるってはいけない。
怖いというレッテルを貼られたらおしまい。
誰も味方してくれない。
一人がそんなことをすると、養護施設のみんながそうだと思われる。
施設長は、みんなにマクラを持ってくるように言います。
そして彼は、語り始めます。
持っているマクラをその胸にだきなさい。
おまえたち、何におびえている。
世間から白い目で見られることか。
この状況をもう一度胸に入れて、考えなさい。
お前たちは本当にロッカーは乱暴なひどいやつだと思っているのか?
世の中となぜ戦わない!
臭いものに蓋をして、自分とは関係ないと言うつもりか。
大人ならわかる、考え方がかたまってしまい、
自分の気に入らないものを排除するモンスターになってしまうこともある。
この世界では酷いこともおこる。
でもそれを、関係ないと思ってはいけない。
歯を食いしめ、胸にとらえなければ。心にクッションを持って
お前たちは、本当にかわいそうな子か。
世界一かわいそうな子か。
親がいても、ひどい状況の子もいる。
かわいそうだと思うやつがかわいそうだ。
そんな大人、偽善者になるな。
自分がして欲しいことをなぜしない。
そんなことでは、どんなに言い里親が来ても出せない。
ロッカーのノートをみろ。
一人一人のことが、とても詳しく書いてある。
もう一度言う。
胸に受け止めるクッションを、その心に持ちなさい。
世界のひどいことを受け止められるように。
それができる人間は、世界の美しさも知る。
お前たちは傷つけられたんじゃない。磨かれたんだ。
■「明日ママ」を観て
第6話の施設長のセリフは、まるで今回のこのドラマの騒動に対して話しているような気がしました(そんなことはないでしょうが)。
そして、養護施設の子達だけではなく、困難の中にいる人々に、人生に翻弄されてはいけないと語っているように感じました。
ドラマは、弱者へのメッセージ。戦う人へのメッセージ。そして傍観者へのメッセージだと、感じました。
(養護施設内のひどい言葉や体罰めいた対応に、非現実的で偏見を生むと非難の声が上がりましたが、このようなすばらしセリフや子供たちの成長があると、今度は逆に、そんな理想的なことはないとの声も上がりそうです。どちらも「ドラマ」なのですが。)
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