[特集:スマートグリッドエンジニアって何?⑤-水流発電] 求む、ゲーム・Webサービスに強い人
2011/06/03公開
ここまで見てきた地熱発電や太陽光発電は、数十年前から確立されつつあった発電方法。そのため、ITエンジニアにはエネルギーの“つくり手”ではなく、電気の生産と消費をネットワーク化し、スマートな地産地消の仕組みを作り上げる、“つなぎ手”としての役割が期待されていた。
一方、世の中には、まだ発電方法自体が確立されていない再生可能エネルギーがある。そこで、ITエンジニアに求められている役割とは何なのか。独自開発の『マグロタービン』を用い、水流による再生可能エネルギー発電方法を提唱している、ノヴァエネルギー社長の鈴木清美氏に話を聞いた。
天候に左右されず、ランニングコストが安価な「水流発電」
代表取締役社長
鈴木清美氏
「マグロタービンの仕組みはいたってシンプル。水の流れがあるところにタービンを設置し、回転するタービンの回転力を低回転大出力の無漏洩油圧ポンプで圧力に変換。その圧力で油圧モーターを高回転動作させることで発電機を回す、これだけです」
ノヴァエネルギーは、兵庫県三木市に本社置くベンチャー企業。同社の海流発電計画が、環境省の平成22年度地球温暖化対策技術開発委託事業に採択されたことから、一気に注目を集めた。
「再生可能エネルギーというと、太陽光や風力がよく取り上げられますし、事実世界中で実用化が進んでいます。ただ周知の通り、それらの発電方法は天候に左右される。しかし、『地産地消』の仕組みを成立させるには、電力の安定供給が不可欠です。そこで、既存の再生可能エネルギーの欠点を補う形で、水流発電に対する大きな需要が見込まれると考えています」
実証実験用の小型マグロタービン。内部は空洞で、深海部でも、流れに対して常に平衡を保つよう設計されている
地熱発電も天候に左右されない再生可能エネルギーの代表格だが、地中に熱源があることが必須だ。そのため、事前の調査や掘削、土地の確保にコストが掛かるのは、前頁で述べた通り。水流発電なら、同様のリスクがかなり軽減されると、鈴木氏は強調する。
「わたしは外国航路の船員/船長として、25年間海の上で暮らしてきたため、海流について誰よりも理解しています。マグロタービンの開発に着手したのは、これだけ普遍的かつ強大なパワーを使わない手はないと考えたため。特に日本列島の周囲には、黒潮・親潮という、大きな海流があります。地熱源以上に身近な場所に、未だ手付かずの”エネルギー”があるのです。ほかにも、潮流(潮の流れ)や悠々と流れる大型河川があれば、マグロタービンから電力を得ることができます」
残る最大の課題は実証実験を重ねるための資金繰り
海流発電事業は現在、神戸大学や神戸市立工業高等専門学校、韓国海洋大学校と共同で進められている。2010年6月には、実験のために韓国で製作していた全長6m、最大直径3mの小型マグロタービンが完成。現在は漁船を改造した無人実験船に取り付けられ、明石海峡を舞台に実証実験が繰り返されているところだ。
図のように、橋の橋脚や桟橋に固定することで、橋の必要電力を発電する
「小型タービンは3ノットの水流で1分間に約30回転し、それぞれ最大10キロワットアワー(kWh)の発電が可能です。とりあえずの目標は、1機あたり発電量300kWhの大型マグロタービンを開発し、明石海峡大橋潮流発電装置として橋の橋脚に設置すること。海峡の潮流だけで、明石海峡大橋の必要電力をまかなえるようにしたいですね」
ただ、海流/潮流発電自体が、まったく新しいエネルギー抽出システムであるがゆえに、課題も残されている。
「2010年12月には、実証実験中、タービンと発電装置をつなぐユニバーサルジョイントの不具合により、小型マグロタービン1機を流失しました。そういう問題点をあぶり出すための実証実験なので、反省点を次につなげることができれば問題ないのですが、資金面の問題から、すぐに新しいタービンを用意できないのが痛い。環境省の平成22年度地球温暖化対策技術開発委託事業採択により、1億1400万円の補助が出ることは決まっているものの、実際使った後で支払われるシステムのため、まず先立つものがなければ立ち行かないのです。なので、引き続き当社の事業に投資してくれるベンチャーキャピタルを探すのが、目下最大の課題ですね」
物理演算エンジンを活用し、海流をシミュレーションをしたい
そんなノヴァエネルギーが描く、今後必要となるITエンジニア像は、ネットワークの”つなぎ手”というよりむしろ、エネルギーの”つくり手”に近い。
「天候に左右されにくいとはいえ、海流にしろ河川の流れにしろ、自然界のエネルギー。人間の都合でコントロールすることはできません。そこでどれだけ『気候をシミュレーションできるか』が重要になってきます。世界のどこで、どちら向きの海流が、どれだけ走っているのか、リアルタイムで計測・予測できれば、より効率の良い発電が可能だからです」
「気候のシミュレーション」といえば、科学技術庁(現・文部科学省)が600億円を投じて開発した、NEC製『SX-9/E』をベースマシンとしたスーパーコンピューター『地球シミュレーター』が有名(現在は海洋研究開発機構横浜研究所に設置)だが、このマシンを民間のベンチャー企業が利用するのは現実的ではない。そこで鈴木氏が注目しているのが、Google Earth のようなWebサービスのAPIを利用したシミュレーションだ。
「『地球シミュレーター』の運用が開始された2002年当時と今では、ITを取り巻く環境の違いに隔世の感があります。その代表が、Googleを始めとしたIT企業による、Webサービスやフリーソフトウエアの充実です。近年は、高等専門学校や大学などの高等教育機関で、物理演算エンジンを利用した研究が盛んに行われています。そこで培ったスキルと、オープンなWebサービス・ソフトウエアをつなげて利用目的に沿った活用をできる若者に、ぜひ再生可能エネルギーの分野で働くという選択肢を持ってもらいたい」
物理演算エンジンの活用スキルを持つ人材としては、エンターテイメント分野で働くSEの存在も見逃せない。3DCGソフトウエアを用い、物理シミュレーションを行う彼らのスキルは、海流のような流体シミュレーションにも応用できるためだ。
「わたしの夢は、500kWhの発電能力を持ったマグロタービン4基を取り付けた深さ120mの垂直型ブイ(2000kWh)を東シナ海に設置して、原子力発電所以上の電気を生産すること。志とスキルを持った若者の協力があれば、必ず実現できると信じています」
取材・文/中村文雄、桜井 祐(編集部)
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